神の間
「……」
目が覚めると何もない白い空間に居た。俺は死んだはず。どうなっている?そう考えていると絶世の美女を体現したような女性が現れた。
『こんにちわ〜。私は女神ですぅ~。貴方は手違いで死にました~。けど、本来の寿命より早く死んでしまったので~輪廻の輪に入れないんですよね~。というわけで〜貴方には〜転生してもらいます~。転生先は剣と魔法の世界ですよ~。』
目の前の女性は女神と名乗り、話しだした。なんというか、喋り方がゆるい。ゆるゆるだ。厳格で慈悲深い女神像がガラガラと音をたてて崩れ落ちた。というか、転生?ヤッターとでも言うと思ったか。あぁん?手違いなら帰せよ。
冷静に考えたらおかしい状況に俺は投げ出されていた。でも分かるのだ。目の前の存在が女神だと。オーラというか、格が違う。ゆるいが。言っていること最悪だが。
『わ〜。こんなに信仰心が無い人は初めてですぅ~。申し訳ないですが〜貴方の肉体は戻れるような状態ではないんですぅ~。その代わり~3つの願いを叶えますぅ~。』
心が読めるのか。女神だからか?でも…そうか、戻れないのか。時間を置いたことで段々と現実味が増してきた。できることなら家に帰りたい。姉貴は暴君だったけれど、一緒にいて樂しかった。父さんは仕事で、会うことが少なくなり話す機会が減ったが、確かに愛情を注がれていた。母さんはそんな家族を優しく見守ってくれていた。そして一番怖かった。
とても大事な俺の居場所。もうあそこに帰れない?新しい世界で生きる?全てを忘れて?それならば……。俺は願いを決めた。
「1つ目は物覚えが良くなるようにする事。2つ目は独りでも生きていける力を与えること。3つ目は……前背の記憶を残すこと。」
前世の記憶を残すなら、俺に日本の常識が備わることになる。しかも転生場所は剣と魔法の世界。だから俺は願った。1つ目と2つ目の願いを。
『変わってますね~。前世の記憶を抱えて生きていくのは〜大変ですよ~。昔の記憶に囚われてしまうしぃ~。あなたが思う帰れない日常を忘れられませんから〜。死なせてしまった私が言うのも何ですが〜良いのですか~?』
それでも。帰れないのなら、あの温もりを忘れたくない。俺がこれからよく知りもしない世界に投げ出された時、心の支えになると思う。それに地球の知識は役に立つと思うからな。
『分かりました〜。その願いを叶えますぅ~。完全にこちらが悪いのでぇ~特典もつけておきますね~。3歳の頃に記憶が戻るようにしときますぅ~。それでは〜。』
『人の子よ、そなたの人生に幸あらん事を。』
最後に女神らしいことを言った正真正銘女神様の前で、俺の視界は暗転した。