4話 かこめかこめ
クラスの視線が一気に僕へと突き刺さる。
クラス中からボソボソと声が溢れ始める。
「柘榴のやつ、いつの間にあんな美人な嫁を…羨ましい」
「柘榴くんの両親って海外で働いてるんだよね…まさかそれ繋がり?」
「リア★充 爆殺★」
「許嫁…な…なんてロマンチックなんだ」
「ここで斬らずしていつ斬る…リア即断…」
「義によって助太刀いたす…」
「柘榴っちやる〜」
嫉妬、羨ましいという声、物騒な声。様々な声がジワジワと膨らみ耳に突き刺さっていく。
「はーい。静かに静かに。先生はそういう面倒なのアレなんでとりまノータッチなんですが、えーキクリさん。適当に椅子は…」
先生が気怠そうに手をパンパンと叩く。
そうだよな…たしか先生この前で5度目の失恋だっけ、確か彼氏さん寝取られたとかで。それからは干物街道を爆走中かのように髪はボサボサ、体育の先生でもないのにジャージで出勤している。
そうだな〜と、適当そうな顔で僕を指差し。
「柘榴ー、お前がとりあえず面倒みてやれ。んじゃ、先生は一眠りすっから」
それを聞きキクリは嬉しそうにトコトコと僕の隣りへと座り
「学校でもお願いしますね。柘榴さん♪」
その言葉を聞き男子数名からギリギリと歯を噛む音が鋭い負の視線と共に突き刺さる。
確かにキクリは美人だし、そんな女のコから嘘でも許嫁と言われるのはトキメかない訳ではない。
僕はそんな感情と視線を流しながら、耳打ちをした。
(おい。どういう事だよ! なんでお前が学校にまで着いてきてるんだよ。それに角何処にやった?)
(いや〜だって私、柘榴さんの専属守護鬼ですし何より片時も離れたくないっていうか、姉としての責務? 角は術で隠してるのでご心配なく)
そんなこんなでホームルームが終わる。終わると同時に待っていたのは、警察もびっくりの取り調べタイムだった。
特に女子陣と岩男からの取り調べは酷く。根掘り葉掘り聞いてくる。
それに対し僕がマゴマゴするとすかさずキクリが間に入り歯の浮くようなでっち上げ話を披露する。
その話を聞くたび女子と岩男はキャーとかん高い声を上げ狂喜乱舞するのであった。
「だー疲れた。なんで女子達はあんなに人の事を聞くのが好きなんだ? 別にお前らには関係ないだろ…」
机にスライムが崩れる様に倒れ込み。悪態をつく。
その姿を見て、弥生は生き返れ〜生き返れ〜と僕の周りをふざけながら周りだす。
「柘榴っち。しゃーないよ、我々女子はそういう生き物なんだから。恋に生き愛に死ぬ…そうじゃなきゃ乙女じゃないもの!」
どこぞの歌劇団よろしく、オーバーなリアクションで弥生は叫ぶ。それを聞き女子達と岩男はうんうんと頷いていた。
ていうか岩男、お前はいつから乙女になったんだ。さっきから女子達とキャピキャピしやがって。
「それでは私は職員室に手続きなどありますので、柘榴さん。ちょっと失礼しますね。…それと、雉染弥生さん? でしたっけ、申し訳ございません。案内をお願いできますか?」
キクリの目が一瞬細くなる。
「りょーかいりょーかい♪ ウチにお任せしょ★」
弥生は満面の笑顔で答えるとキクリの手を取りクラスの外へと行ってしまった。
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「ふぅ、案外広いんですね。この学校。雉染さんに案内をお願いしてなければ迷っていました」
「まあね〜、教室移動だけでもいい運動になるよ。それより、雉染さんだなんて堅苦しいのは無しっしょ。
弥生でいいよ…鬼道のキクリっち」
二人の間にピリリと張り詰めた空気が漂う。
キクリは笑顔を崩さず口元に手を当てた。
「フフっ、びっくりしましたよ。資料より肌が黒くなってて…それでは改めてよろしくお願いしますね。陰陽会の弥生さん」
二人はスッとお互いの胸ポケットから紙を取り出すと即座に交換し再び胸ポケットへとしまい込んだ。
「おっ、早速お友達が出来たのか〜先生もケアの仕事少なくなって助かるわ。頼むぞ〜やよい〜」
保健室からヌッと顔だけ出し先生が気怠そうに手振る。
それに対して二人も手を振った。
「ここじゃ、込み入った話はできませんね。さてどうしましょうか」
「それじゃ放課後パフェ食いながら親睦深めようぜキクリっち。クリームマシマシのやつ」
「まあ! それは素敵ですね。それでは放課後」
「りょ★」
二人はそれだけ話すと教室へと入っていた。