第98話 「やっぱり女は怖い……」
(蒼汰)
駅に到着して、貸切バスから荷物を降ろす。
これからが荷物を全部持って歩かないといけないから大変だ。
そんな中、美咲ちゃんだけが、スーツケースに小さな手荷物バッグを持っているだけで「今から旅行に行きます」と言ってもおかしくない感じだった。
聞いたことなかったけれど、旅慣れているのかな?
旅か! そうだ生徒会で、南の島に旅行に行かなきゃ!
美咲ちゃんとの旅行を想像しながら幸せな気分に浸っていると、後ろから変な声がした。
「蒼汰ー、助けてー」
振り向くと、結衣がとんでもない量の荷物を抱えていた。
どうしてそうなる?
「お前、なんだその荷物の量は」
「だって、予備の着替えとかいっぱい要るし。お餞別貰った人達とご近所にお土産買ったらこうなるじゃない!」
「なるか?」
「なるの! 女の子は皆そうなの!」
美咲ちゃんは女の子カテゴリーじゃないのかよ! などとは言えず、パンパンのセカンドバッグを持ってやった。
「あ、それパンツ入ってるから、中は見ないでよ。変態」
「……」
俺は無言でバッグを突き返した。
「ははー! 私が悪うございましたー。パンツの一枚や二枚、お持ち帰り頂いても文句は言いませぬー」
結衣が深々と頭を下げている。
「うむ、良かろう!」
取り敢えず、そのまま荷物を持ってやった。
結衣……バッグの中身を見たくなるだろうが! 止めてくれ!
俺が歩き出すと、また後ろから声が聞こえて来た。
「航ー、助けてー」
振り向くと、航がお土産バッグを沢山持たされていた……。
結衣は、いつの間にか他の女の子と変わらない荷物の量になっている。
やっぱり女は怖い……。
そんな中、龍之介が二人分の荷物を抱えながら歩いていた。
「本当に大丈夫だから、わたし自分で持つからー」
里見さんが龍之介の腕を引っ張りながら、仲良く行ってしまった。
龍之介。ちょっと格好良いぞ!
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駅のエスカレーターに辿り着くと、荷物に関してはそんなに大変じゃなくなった。
ホームで三十分位待ち、また新幹線に乗る。
帰りは皆疲れているのか、売店でお菓子を買い込む生徒は殆どいなかった。
俺も缶コーヒーを買っただけだった。
缶コーヒーがそんなに好きな訳じゃないが『新幹線の窓際に缶コーヒーのショート缶を置いて座っている姿が、ちょっと格好良い気がするから』というのが理由だ。
男なんて、そんなもんだ。
美咲ちゃんに『ちょっと格好良いかも』なんて思われたいんだ!
新幹線に乗り込み、結衣の荷物を座席の上の棚に乗せてあげて、自分の席に移動する。
車両は貸切だから、一般のお客さんが居ない上に後方の席が幾つか空いていた。
速攻で結衣に引っ張られて、一番後ろの席に移動させられる。
ねえ、結衣。美咲ちゃんも連れて来てよ……。
結衣はまた対面座席にして俺の前に座ったが、流石に疲れているのか、今日は大人しかった。
しばらくすると、椅子の上に体育座りをして窓にもたれて寝始める。
体育座りをしている結衣は「少しは隠せよ」と思うぐらいパンツが丸見えだ。
結衣のパンツなど気にも……今日はレースの飾りが付いた可愛い黄色のパンツだった。
ずっと見ておきたかったが、周りの目もあるので上着を脱いで掛けてやった。
缶コーヒーを窓際に置いて、美咲ちゃんが来ないか待っていたけれど、美咲ちゃんは他の女の子と話しているようだ。
刺激の無い景色についつい眠くなって、いつの間にか寝ていた。
どこかの駅に停車した音で目が覚めた。
何となく肩が重たかったから、そっちを見ると誰かが肩にもたれかかっていた。
綺麗な茶色の髪と大好きな香り!
美咲ちゃんが、俺の肩にもたれかかって寝ていたのだ。
嘘? 何で? 神様、何が起こったの?




