第94話 「前園さんの香り」
(蒼汰)
「どうした蒼汰。ニヤニヤしやがって!」
部屋に戻ると、航が肩を組んで来た。
「美咲ちゃんと、キスでもしたのか?」
「はあ? してないよ」
「まあまあ、隠さずに俺たちをまいた後の話を聞かせろ!」
事情聴取の為、皆の前に座らされた。
誤魔化す様な話でもないので、手を繋いだ事と地獄巡り辺りの話は伏せて、簡単に説明をした。
「何だよ、スゲー期待してたのに」
「何を期待してたんだよ」
「ん? お前らが遭難して帰って来なくて。明日、山小屋で発見されたりする事に決まってるじゃん!」
「あるか、そんな事!」
「分かんないじゃん」
「そもそも、山小屋ってスキー場の近くに存在するのか?」
「うーん。どうだろうな……」
そんな下らない話をしていたが、俺は皆に迷惑を掛けた事を謝った。
やはり皆で心配して相当探してくれたらしい。
文句ひとつ言わず、笑い飛ばしてくれた航達に感謝だ。
「でも、蒼汰。お前らが手を繋いで帰って来たって、もっぱらの噂だぜ」
ヤバい。やっぱり見られていたんだ……。
「……い、いや。それは美咲ちゃんがホテルの前で雪で転んだから、手を引いて助け起こしただけだよ。その瞬間を見たんじゃないかな? ははは……」
噂になったら俺は嬉しいけれど、美咲ちゃんの評判が悪くなるのは嫌だ。
「まあ、お前がそんな事できる訳無いよな」
「おっしゃる通りでございます……」
何とか切り抜けたと思うが、丸尾君が微妙な顔をして俺を見ていた。
丸尾君、怖い……。
皆でお風呂に入りに行き、その後龍之介の指定時刻に食堂へ行った。
もちろん、美咲ちゃんと一緒になる。
良いぞ龍之介!
食堂には来たものの、地獄蒸しを美咲ちゃんと食べてから、そんなに時間が経っていない。お腹は空いていなかった。
すると、美咲ちゃんがいつもより少なめに料理を盛り付けて来てくれた。
俺がお腹が空いていない事を見越して、少なめに盛り付けて来てくれたのだ。
嬉しくて、思わず笑顔になってしまう。
美咲ちゃんとの秘密のアイコンタクトが、隠れて付き合っているカップルみたいで、ドキドキしてしまった。
その後、美咲ちゃんが自分の食事を取りに行っている間に、生徒会書記の前園さんが隣に来た。何だか会うのは久し振りだ。
前園さんが会釈をした時にフワッと良い香りがした。
何かを思い出しそうになったけれど、分からなかった。
直後に伊達君が食堂に現れて、誰かを探す様にキョロキョロしていたけれど、前園さんを見付けると嬉しそうにやって来た。
きっと待ち合わせしていたのだろう。
ちょっと怪しいな。この二人……。
美咲ちゃんが戻って来て前の席に座ると、俺の横に座っている前園さんに気が付いたみたいで、何だか驚いた顔をしていた。
伊達君が遅れてやってきて、美咲ちゃんの隣に座る。
おい、伊達! テーブルが違うとはいえ、美咲ちゃんの隣に座るとは何事だ!
でも、久しぶりに生徒会役員が揃った。
生徒会役員が四人揃い、周りが少しざわついた。
伊達君はやはり皆に尊敬されているのだろう。
大丈夫だ。こんな所で緊急生徒会会議とか始めないから、みんな普通に食事をしてくれ。
何となく四人で話をしながら食事をしていると、伊達君が今から予定が有るか聞いて来た。
美咲ちゃんと二人きりでデートです! と言いたいところだが、そんな予定はないので正直に無いと答えた。
そしたら教諭室に遊びに行こうと言い出し、話を聞いていた周りの皆も行く事になり、希望者全員で行く事になった。
昨日の夜みたいに美咲ちゃんの部屋に遊びに行きたかったけれど、生徒会役員は全員参加と言われて、当然行く事にした。
美咲ちゃんが一緒なら、教諭室に泊まっても良いよ!




