第93話 「見せつけないで」
(美咲)
蒼汰君の横に座っている前園さんに気が付いて、少し挙動不審になってしまったけれど、多分大丈夫だったと思う。
でも、前園さんが時々私を見ているのが怖かった。
伊達君の提案で、今日は教諭室に皆で遊びに行こうという事になった。
みんな大賛成で、希望者は全員行く事に。
前園さんと一緒になるので遠慮したかったけれど、生徒会役員は強制参加と言われて、渋々行く事にした。
遊びに行くと先生達は大歓迎してくれた。
先生曰く、男女の部屋に集まられるより、よっぽど安心らしい。
昨晩の事を考えると、そうかも知れないと思った。
彩乃先生と蒼汰君が部屋の隅で何か話していて、蒼汰君が両頬を抓られながら冗談っぽく怒られていた。
蒼汰君は色々な女性と仲良しね……はぁ。
皆で先生達と色々な話をした。
去年の修学旅行で起こった事件の話がとても面白かった。
特に早野先輩の部屋に女の子が集まるので、就寝時間まで早野先輩を教諭室に置くことにしたら、教諭室が女生徒で溢れ返って大変だったという話が最高だった。
誰かが彩乃先生に「付き合っている人がいるのか」と恋愛話を振ると、独身の男性教諭と男の子たちが色めき立つ。
「実は……」
まさかの告白が始まるのかと思いみんな静かに。
私もドキドキしながら先生が話すのを待っていた。
「実は上条と駆け落ちする事に決めたから、修学旅行が終わったら皆とサヨナラだ。ね、蒼ちゃん」
蒼汰君に一斉に視線が集まる。
蒼汰君は急に話を振られて一瞬固まっていた。
「え、ええ……。さ、さっき、多数決でそう決まったので……。皆さんお世話になりました」
蒼汰君は正座をして頭を深々と下げていた。
「多数決って。票が割れたのか?」
男性教諭が聞いて、蒼汰君が頷いたので、みんな爆笑した。
その後も楽しい話をしていたけれど、前園さんは蒼汰君の隣にずっと居る。
蒼汰君も時々前園さんを見つめていた。
二人の姿を見ていると、何故だか分からないけど、モヤモヤして胸が締め付けられる。
そんな姿を見せつけないで欲しい。早く解散して部屋に戻りたい……。
でも、その後も色々な話が続き、消灯時間の十一時になりやっと解散になった。
私は直ぐに部屋に戻り、寝る準備をして布団に潜り込んだ。
----
私は蒼汰君と手を繋いで色々な場所を歩いていた。
夕日が綺麗な砂浜や、誰も居ない見た事も無い建物が並ぶ街中。
気が付いたら地平線まで続く花畑の真ん中に居た。
蒼汰君と繋いでいる手を見て、とても嬉しかった。
そしたら、急に蒼汰君が私に抱きついて来て、胸に顔を埋めてスリスリし始めたの。
ど、どうしたの蒼汰君? 別に良いけれど……皆が見ているから恥ずか……。
ハッとして夢から覚めると、結衣ちゃんが私の胸に顔を埋めて寝ていた。
結衣ちゃん止めて。折角の美しい夢が変な感じになったじゃない……。
結衣ちゃんの腕を解いて、元の布団に戻してあげた。
その後、夢の中の蒼汰君の胸スリスリの事を思い出してしまい、ちょっとドキドキしていた。
夢だけれど、あの状況で『別に良いけど』なんて思っちゃダメでしょ……。
----
翌朝の朝食も、もちろん蒼汰君達と一緒。
里見ちゃんに感謝ね!
蒼汰君はいつもの様に殆ど食べずに座っていたので、例の如く私が盛り付けをしたプレートを持って行った。
そして、蒼汰君の隣の席を見て少し悲鳴の様な変な声が出てしまった。
前園さんが訝しげに私の顔を見つめていた……。
私は確信した。
蒼汰君の例のお相手は前園さんで、前園さんの私への反撃が始まったのだと……。
固まったまま皆の方を振り向くと、結衣ちゃんも怖い目で私を見ていた。
焦ってしまい、横に座った伊達君に適当に挨拶を返して、飲物を取りに行く振りをして、そのままその場を離れた。
どうしよう。私、いつの間にか地雷を踏みまくっているのかも……。




