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僕の好きな人は派手で地味目で美人でブスで  作者: 磨糠 羽丹王
【高校二年の時間】 蒼汰と美咲と来栖ひな
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第9話 「不気味な家政婦」

(蒼汰)

 バスの窓越しに手を振る美咲さまを思い出しながら、とても幸せな気分で帰宅した。

 明日から美咲さまと過ごすハッピースクールライフが始まる。

 昨晩の絶望的な悲しみは、今日の奇跡の再会で全てがむくわれた。

 ルンルン気分でリビングに入ると、親父が深刻そうな顔をして座っていた。


「蒼汰、ちょっと良いか」


「ああ」


 うながされるまま椅子に座った。

 親父が真面目な顔をしている。いったい何の話だろう。


「母さんの事なんだが」


「……洋子ようこさんの事?」


「ああ、その洋子の事なんだが」


「何……」


「正式に離婚する事になった」


「ふーん。未だ離婚して無かったんだ」


「まあな、手続きに色々と時間が掛かってな」


「分かんないけど、そんなもんなんだね」


 洋子さんは親父の二人目の奥さんだ。

 俺の実の母は、俺を生んで直ぐに亡くなった。

 小学校の頃に無茶をして大怪我をした時に、命がどれだけ大切かを言い聞かせながら、父方の祖母が涙ながらに母の事を教えてくれた。

 それまで知らなかったが、母の死は俺の出産が原因だったらしい。

 母の両親は既に他界していたので、子どもの頃は父方の祖母や叔母おばに面倒を見て貰った。だから母親の愛情という物を俺は殆ど知らない。


 そして中学に上がる頃に、親父が連れて来たのが洋子さんだった。

 祖父母は反対したらしいが、親父は聞き入れず再婚した。

 洋子さんは、父が居る時と居ない時の態度が全く違う嫌な人だった。

 そして、俺が中学三年生の秋頃に弟が生まれた。

 親父は大喜びで、洋子さんと赤ちゃんをとても可愛がっていた。


 弟が生まれてから、洋子さんの俺への態度は更に酷くなった。

 まあ、俺が嫌ってなつかなかったせいもあるのだろう。

 三年間一緒に過ごしたが、一度も「お母さん」とは呼ばず「洋子さん」と呼んでいた。

 とにかく避けて、顔を合わさない様にしておけば良いと思い、家に居る時は出来る限り部屋から出ないようにしていた。


 元々インドア派だったから、部屋にこもっていられる事は楽しかった。

 親父は後ろめたさからか、俺が欲しがるものを割と何でも買ってくれた。

 でも、その度に「母さんが、お前に買ってあげてとうるさいからな。お礼を言っておけよ」と、有りもしない事を言われるのがとても嫌だった。

 親父は俺に洋子さんと仲良くなって欲しかったのだろうと思う。

 でも、洋子さんと仲良くなることは、俺には不可能だった……。


 高校に入学して直ぐに、洋子さんの子供は親父の子じゃない事が分かった。

 その後、洋子さん達は荷物をまとめて家を出ていった。

 直ぐに離婚したのだろうと思っていたが、弟だった子どもの戸籍の問題で結構時間がかかったらしい。


「それでな、男二人だと家の事が色々大変だから、お手伝いさんを雇おうと思う」


 確かに家の中は物が溢れてすさみきっている。


「お手伝いさん?」


「ああ」


「え、住み込み?」


「まさか。派遣はけん型の家政婦だ。掃除と洗濯、あと食事な」


「ふーん、分かった。でも俺の部屋は入室禁止」


「それは自分で直接言え」


「了解。まあ、親父おやじさんもお疲れ」


「ああ、ありがとう。お前にも苦労かけたな。取りあえず飯にしよう」


 いつも通り、親父と二人で出前を食べて部屋に戻った。


 ----


 他人は入室禁止の聖域。

 サブカルチャーに少しだけ造詣ぞうけいが深い俺の部屋を、他人に見せる訳にはいかない。入室許可は航と龍之介だけだ。

 PCとゲーム機を中心とした完璧な家具の配置。オーディオセットの横の棚には、更に造詣を深める為に、彫刻のような人形が三体程飾ってある。まあフィギュアとも言うけれどね。

 メイド服を着たフィギュアを手に取った。今日も可愛い。

 お手伝いさんかぁ……。

 可愛いメイド服のお姉さんが玄関で迎えてくれる。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 おう! これは堪らない。期待して良いのか親父。

 俺の更なるハッピーライフ!


 まあ、でも来る訳ないな。家政婦のおばちゃんだろう。

 メイド服のお姉さんは捨てがたいが、俺には美咲さまがいる。そう、俺は美咲さまの従順なるしもべになったのだ。

 でも、何かの間違いでフリフリメイド服の美咲さまが現れたらどうしよう。


「蒼汰さんお帰りなさい。お食事をどうぞ」


 想像しただけで、萌え過ぎて倒れそうになった。

 今夜は眠れねえ。


 ----


 翌日からお手伝いさんが来るようになった。

 予想通り家政婦のおばさんだった。人生そんなものだ。

 ところが、おばさんは数日で腰を痛めてしまい、その翌日から違う人が来る事になった。


 次の日に現れた新しいお手伝いさんは……異様だった。

 黒髪のおかっぱロングヘアー。まるで呪われた日本人形の様で怖い。

 顔はびっしりとソバカスだらけの上に、ビン底の様な変な眼鏡で目が見えない。

 服も地味で、灰色のローブを着ている様に見える。魔女かこいつ……。

 年齢不詳で声は低いし得体が知れない。まるで不気味な妖怪が家に現れた感じがした。


 その不気味な家政婦は、初日に遅刻しただけで、派遣元との契約通りの仕事をしてくれるので特に文句はない。食事も美味しい。

 そもそも、俺がとやかく言える立場じゃない。


 でも、不細工な容姿で得体が知れず、不気味で見るだけでも怖かった。

 出来れば関わりたくない……。


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