第86話 「龍之介と里見さん」
(蒼汰)
「それに桐葉先輩」
「えっ!」
俺は心臓が止まるかと思った。
丸尾君からその名前が出て来るとは、全く予想していなかったのだ。
「えっ、え? 何で?」
「一緒に手を繋いで歩いているのを見たよ」
「……」
「君は本当に凄いね」
「いや、あの、それは……」
「ああ、別に咎める気なんて無いし、誰かに話したりもしないよ。単に興味があるだけ」
丸尾君は特に探るような表情をする訳でもなく、普段の何気ない会話の様に話している。
「君の話を聞いて、複数の女性と揉めずに付き合える人間像を知りたいだけだよ」
「う、うん……」
「じゃ、また今度ね! お休みー」
丸尾君は自分の布団に戻って行った。
美麗先輩との事以外は、丸尾君の勘違いの様な気がするが、心当たりが無い訳でもない。
話を聴きたいと言っていたけれど、逆に俺の事を分析して貰いたいくらいだった。
美咲ちゃんの事は本当に大好きだ。
でも、美麗先輩の事も好きだし、正直もっと仲を深めたいとか思ってしまう。
結衣と一緒にいるのも嫌じゃないし楽しい。
傍から見ると、俺はとんでもない奴なのかも知れない……。
そんな事を考えているうちに、いつのまにか眠っていた。
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「痛っ!」
今朝も航に踏まれて目が覚めた。
お前わざとだろう……。
朝食はもちろん美咲ちゃん達と一緒だ。
朝晩ともに時間帯も席も一緒になるのには、理由がある。
龍之介と里見さんだ。
二人が食事の時間を決めて、俺らはそれに便乗している感じだ。
美咲ちゃんと一緒になるから、全く異存はない。
むしろ感謝しているくらいだ。
今日も俺が適当に食べていると、美咲ちゃんが色々持って来てくれた。
美咲ちゃんは、俺が完食すると安心したような表情をする。
人に食べさせるのが好きなのかも知れない。
俺は美咲ちゃんが持って来てくれたものなら、どんな物でも完食するさ!
レバー以外ならね……。
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(美咲)
朝、目が覚めると、私は何故か結衣ちゃんと抱き合って寝ていた。
結衣ちゃんも同時に目が覚めたみたいで、目が合って驚いた。
そしたら結衣ちゃんは私の胸に顔を埋めてスリスリしはじめた。
「美咲ちゃんの胸、超気持ちいい!」
結衣ちゃんはそうやって。しばらく顔を埋めていた。
何となく寝ていた時もスリスリされていた気がするから、きっと結衣ちゃんと一晩中抱き合って寝ていたのね……。
起きてから、蒼汰君達がいつ帰ったのかの話になった。
私と結衣ちゃんは十時頃までしか記憶が無い。
十一時の点呼に出てくれた子は、その時間は未だ全員居たと言っている。
里見ちゃんが龍之介君とずっと二人で話していたみたいだから聞いてみたら、十二時頃には皆寝落ちしてしまって、自分達も椅子を寄せて掛布団を被っていたら、寝てしまったという事だった。
結局、蒼汰君達が帰った時間は分からなかった。
大丈夫だったのかしら?
私は結衣ちゃんに布団を掛けてあげて、蒼汰君の横でお話ししたのは覚えているけれど、話の途中で寝ちゃったみたい……。
話の途中で寝るなんて、申し訳ないからあとで謝ろう。
そういえば、薄暗い部屋で蒼汰君が私の手を握って見つめ合っている夢を見た気がする。
最近、ずっと一緒にいたから変な夢を見たのかな?
朝食を食べに行くと、蒼汰君達と一緒になった。
といっても偶然じゃなくて、里見ちゃんと龍之介君が二人で食事の時間を決めて、私たちはそれについて行く感じ。
でも、蒼汰君の食事のチェックができるから、私は大満足よ。
今朝も全然食べていなかったから、色々盛り付けて持って行った。
目の前に置かれると、ちゃんと食べるから一安心。
これからも、蒼汰君のご飯時は目が離せないわね。
レバーさえ盛り付けて行かなければ大丈夫ね♪
 




