第85話 「さ、三股?」
(蒼汰)
俺らは渡り廊下の途中に座り込んで困り果てていた。
点呼の時に不在だった上に、こんな時間まで何処に居たのか、言い訳が見つからなかったのだ。
「風呂に入ってたは?」
「無理だろう」
「他の男子の部屋に居たは?」
「口裏を合わせて貰わないとダメだろう。この時間じゃ無理だ」
「……」
「……」
「……ねえ。今なんの話をしているの? 後ろまで声が聴こえなかったから」
一番後ろを歩いていた丸尾君に、話が聴こえていなかったらしい。
彼はおかっぱ頭の童顔でいつも大人しい奴だ。
俺らと同じ様に、地味な高校生活を送っているひとり。
トランプでも絶対勝たないし、なかなか負けない。常に三位くらいに居る。
そんな感じていつも目立たない。
でも、意外に話が面白いらしくて、昨日も話の中心はいつの間にか丸尾君だった。
なんでも、メンタリズム的な事を勉強しているらしくて、人間観察が好きだとか言っていた。
女の子達の部屋でも、その手の話で盛り上がっていたようだ。
何だか不思議な奴だ。
その丸尾君に、俺らが直面している大問題について説明した。
「ああ、その事なら大丈夫だよ。皆が眠り始めて、点呼に間に合いそうに無かったから、隣の部屋の奴に電話して、代返して貰ったよ。あいつらの部屋にも女の子達が来ていたから、僕らの部屋が問題になると困るらしくて、直ぐにOKしてくれたよ」
「……!」
「おおー! マジか! 丸尾偉い! 凄い! 神!」
皆で丸尾君に小さく拍手をした。
「よし! 帰ろう」
俺らは無事に帰還した。
夜中に女の子の部屋から抜け出して、男六人で見つからない様に部屋に帰るのは、とてつもなくスリリングで怖かったが、終わってみれば何だかドキドキして楽しかった。
無事に部屋に戻り、今回の冒険談を話しながら、全員で顔を見合わせて爆笑した。
今夜も襖の前の布団で寝る事になったが、美咲ちゃんのお胸フニフニを思い出して全く眠れない。
他の連中は、直ぐにいびきをかき始めた。
仕方がないので起き上がって壁にもたれていると、起きていたのか、丸尾君が寄って来た。
「上条君。この写真あげる」
丸尾君が持っているスマホの画面を見せてくれた。
そこには、俺の膝枕で寝ている結衣と、俺の肩にもたれかかって寝ている美咲ちゃん。そして美咲ちゃんの頭に頬を寄せて眠っている俺の三人が一緒に写っていた。
手を繋いでいるのもバッチリ写っている。
一瞬、丸尾君に脅されるのかと思った。
「良い思い出になると思って撮っておいたよ。僕は要らないから渡したら削除するね」
ポチポチと画面を操作して、写真のデータを送ってくれた。
でもその後、俺の顔をしげしげと見つめている。
「上条君は凄いね。大人しそうに見えて、三股をしながら、どの娘とも仲良く出来るって本当に凄いと思う。後学の為に一度ゆっくり話しを聞きたいな」
突然そんな事を言われた。
「さ、三股?」
俺は意外な指摘に驚いた。
「うん。天野さんに一色さん……」
「う、うん?」
いや、美咲ちゃんは俺の片思いで、結衣とは幼馴染で只の仲良しだ。
「それに桐葉先輩」
「!」




