第82話 「ボーゲン」
(蒼汰)
一階の大浴場から出来るだけ人目を避けて、やっと部屋に辿り着いた。
ドアの鍵は開いていたので、そのまま中に入る。
部屋に入って直ぐに胸のタオルを取り出して、頭に巻いていたのも外す。
時間は多分十二時半を過ぎていると思うけれど、修学旅行の夜だ、皆で騒ぐか話をしている最中だろう……。
そう思って襖を開けると、部屋は真っ暗だった。
皆、既に寝ていた。お前ら健康優良児かよ!
部屋に備え付けのドライヤーで髪を軽く乾かして寝る準備をした。
襖に一番近い布団しか空いてなかったから、そこに寝ることに。
布団に入ってはみたが、結衣と彩乃先生の事を思い出して全く眠れない。
眠れる訳がない……。
翌朝、航に踏まれて目が覚めた。
これだから、この位置に寝るのは嫌いだ。
かなりの寝不足だったけれど、朝食を食べに行かないと集合時間に間に合わない。
取り敢えず寝ぼけたまま食堂に付いて行った。
食堂に行くと、美咲ちゃん達のグループが居たので、直ぐ隣のテーブルに座った。
美咲ちゃんの「おはよう!」が可愛いくて、その時だけちょっと目が覚める。
結衣は俺の顔を恥ずかしそうにチラ見しただけで、そのあと俺とは全く話をしなかった。
俺は寝不足で呆然としていた。
コーヒーとひと口だけ食べたパンを、寝ぼけ眼で見つめていた。
すると、美咲ちゃんが自分の飲物を取りに行くついでに、お皿にスクランブルエッグやポテトサラダとか色々盛り付けをして、オレンジジュースと一緒に持って来てくれた。
「食べないと、後でお腹空くよ」
「あ、ありがとう」
美咲ちゃんの好意を俺が無下にする訳が無い。
気合を入れ直して完食した。
航が俺を見てニヤニヤしている。
航、羨ましいか? 俺と美咲ちゃんとは、お前らとは繋がりが違うのだよ。繋がりが!
そう思ったが、良く考えたら繋がりは生徒会だけだった……。
生徒会に感謝だ。
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いよいよ、スキーの体験学習が始まった。
全員同じスキーウェアーに同じ帽子に同じゴーグル。ゼッケンを見ないと誰だか分からない。
事前にアンケートがあり、スキーの経験者で基礎的な事を習わなくて良いレベルの生徒は上級者指導コースに、そうでない生徒は初級者指導コースに分けられたた。
俺らはもちろん初級者指導コースだ。
午前中はほぼ座学で、スキーブーツの履き方やスキー板との連結方法に解除方法を教えて貰い。その後は上手に倒れる練習。
スキー板を付けた状態での転倒練習では、スキーを付けた途端にあらぬ方向へ滑りだして人にぶつかり、そいつもまた滑り出して、結局数人でコケるという事の連続だった。
最後にボーゲンという滑り方の見本を見せて貰い午前中の学習は終了。
午後の学習は延々とボーゲンの練習をして、徐々に斜向の付いた場所での学習になった。
ボーゲンでのターンの練習が有る程度進んだ頃に、やっとストックを持たせて貰い、イメージしていたスキーヤーの見た目になる。
そしてボーゲンである程度滑れるようになり自信が付いた頃に、パラレルという滑り方を教えて貰いボーゲンでの自信は全て打ち砕かれる……。
初日の体験学習が終わる頃には、内腿は既に筋肉痛で、転びまくったせいで全身が痛い。
上級者指導コースの連中が、結構な急斜面からパラレルターンで滑り降りて来て、格好良く帰る姿が恨めしかった。
早くお風呂に入って、休みたい……。




