第79話 「彩乃先生?」
(蒼汰)
声には出さないが、カウントは千を超えた。
結衣が他の男に見つかって無いか心配だったが、もし何かあったなら騒ぐか駆け戻って来るはずだから、無事に着替えて部屋に戻ったのだろう。
しかし、今何時だ?
点呼は大丈夫だったかなぁ……。
俺は露天風呂をゆっくりと移動しながら、必死で目隠しのタオルを外そうとした。
結び目がなかなか外れない。
目隠しの下の隙間から足元を確認しつつ、やっとのことでタオルの結び目をほどいた。
目隠しが外れたが、周りは湯気であまり見えない。
湯気が風で流れると、直ぐ目の前に誰かが湯船に浸かっていた。
いつの間に。さっきは居なかったよな……。
男性だと思うがバスタオルを体に巻いている。変だな?
また風が吹いて湯気が流れ、湯船に浸かっている人の顔まで見えた。
体に巻いたバスタオルでは、大したお胸は隠しきれていなかった。
顔を見合わせて、二人とも目が点になる。
「……あ、あ、彩乃先生?」
「……か、か、上条!」
「あ、あの……」
先生の顔がお怒りモードに切り替わった。
「おまえ、何やってる! 覗きか! 随分と大胆な覗きだな。学校辞める気か?」
「……ち、違います、違います! そ、そもそも、先生は何で男湯にいるんですか」
「男湯?」
「ですよ!」
「十二時超えたから、いま女湯だぞ!」
「……」
「で、何でお前はこんな時間にここに居る? 話によっては庇いきれないぞ」
「お、男湯に間違えて入っていた結衣を助けていました」
「……さっき廊下で、走って行く一色を見かけたが、その話本当か?」
「本当ですって!」
先生のお怒りモードが解除されてきた。
「え? じゃあ、お前ら裸で一緒に居たということか!」
「いえ、先生その言い方には語弊が……」
一生懸命に説明をしながら、俺の目線はバスタオルからこぼれそうな彩乃先生の胸の谷間に吸い寄せられていた。
先生のバスタオルの巻き方が上手すぎるのか、ポッチの類は確認できない。
残念……。
「なる程。そう言えば、さっき学年主任の所に支配人が来ていたな。問題ありませんでしたかって。この事か」
「そういえば、廊下で研修生の人が……」
彩乃先生に事の顛末を話していたら、室内の浴室の方に女性の入浴客が何人か入って来たのが窓越しにうっすらと見えた。
先生もそれに気が付いた様だ。
「このままじゃ大問題だな……。ちょっと待っていろ。上条、絶対に浴室を覗いたり見つかったりしない様にね」
先生は湯船から上がり、屋内の浴室へと入っていった。
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もし誰かが露天の方に出て来たら、また奥に逃げようと構えていたが、幸い誰も来なかった。
先生が戻って来て、持って来たバスタオルを俺に渡した。
「これを私みたいに巻いて、タオルで頭を隠しなさい」
「は、はい……」
先生。巻き方が判らないので、実際に巻くところを見せて下さい!
素晴らしい閃きに俺は天才かと思ったが、もちろん言えなかった。
バスタオルを体に巻き頭にタオルを巻いた。
「それじゃ男って丸分かりだ」
先生が頭のタオルを取って巻きなおしてくれた。
もちろん、巻きなおす間は目の前に先生の谷間がある。絶景だ。
先生のバスタオルが突然外れるハプニングを祈ったが、それは叶わなかった。
「余り離れずに付いて来なさい。他の入浴客を絶対に見ない様にね。本当に捕まるわよ」
「は、はい……」
俺は先生の後に付いて行き、脱衣所まで他の女性客に見つからずに移動出来た。
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「早く着替えなさい」
先生は浴室の出入り口に注意を向けつつ、浴場の入口から人が入って来た時に俺が見つからない様に直ぐ傍に立っている。
急いでロッカーを開けて、着替えを取り出した。
バスタオルを放りだして、急いでタオルで体を拭いた。
「早く……」
先生が目線を逸らしながら、焦った声で着替えを促す。
先生の前で真っ裸という事実に、今更気が付いた。
「いやん先生。そんなにお尻見ないで」
思わず冗談を言ってしまった。
「っつ。み、見てないわよ。馬鹿言ってないで早く着替えなさい。こんな所見つかったら先生職を失うわよ!」
「はーい」
急いでパンツを履いた。
ちょうどそのタイミングで、浴場の入り口から女性が数人入って来た。
とても先生ひとりの幅で俺は隠し切れない。
先生と目が合った。お互いにもの凄く焦った顔になっていた。
すると、先生は自分のバスタオルの巻を解いて、片方だけ不自然にならない程度に広げて俺を隠した。
これは見える!




