第78話 「目隠しのタオル」
(蒼汰)
少ししたら、今度は寒くなったのか結衣が湯船に戻った。
湯船の中で結衣がタオルの位置を整えている時に一瞬お胸が全部見えた。
俺はまだ寒くは無かったが、湯船に戻らないといけない事情ができたので、沈静化を図る為に戻った。
人影はまだ減らない。
その後は二人とものぼせそうになって、五分置きくらいで湯船から上がったり戻ったりを繰り返した。
結衣のお胸ガードが段々と雑になって来て、何度も有難いお姿を拝見することができた。
正直、この状況で何もしない俺を褒めて欲しいくらいだ。
しばらくして、やっと人の気配がしなくなった。
二人で慎重に確認しながら、露天風呂の半ば辺りまで出て来た。
うっすらしか見えないが、室内の浴場も誰も居ない様だ。
そこで少し様子を伺ったが、人の動きは無い。
そこで、先ず俺が脱衣所まで行って、人が居ない事を確認した。
直ぐに露天風呂に戻り、結衣に誰も居ない事を伝えた。
「結衣、行くぞ」
「……」
結衣が動かない。
「どうした?」
「蒼汰……。一緒に上がって脱衣所で一緒に着替えるつもり?」
そう言われて、その状況を想像した。
俺のJrが何か言いたそうだ……。
流石にそれは無理か。
「分かった。じゃあここで暫く待っとくよ」
「嫌よ。私が屋内に入るまで、後ろから丸見えじゃない!」
「……」
今更、お尻と背中が見えても、何てこと無いのだが……。
「ちょっと来て!」
結衣に促され、湯船に浸かりながらさっきの岩陰に戻った。
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「蒼汰。目隠しをするから目を瞑って」
「何だそれ?」
「良いから早く!」
俺は素直に目を瞑った。
「絶対に目を開けないでね。開けたら死ぬまで殺すからね!」
物騒な事を言う奴だと思っていると、俺の目に濡れたタオルが巻き付けられた。
俺のタオルは腰に巻いているから、これは結衣のタオルだ。
結衣は俺の頭の後ろに手を回して、一生懸命にタオルを結んでいる様だ。
コッソリ薄目を開けると、結衣の顔は見えないけれどタオルの下の方にしっかりと隙間が空いている。
今まではお湯の中とかでチラッとだったが、結衣が俺の頭に抱きつくような感じでタオルを結んでいるから、結衣のお胸は直ぐ目の前だ。
息がかかりそうな距離で、ありがたく拝謁させて貰った。
正直、相手が結衣じゃなかったらヤバかったと思う。
結衣との信頼関係を壊せないという気持ちが、理性の最後の糸を持ちこたえさせてくれた。
でも結衣。今は絶対に下の方は見ないでね……。
結衣が視界から消えた。
気が付くと目隠しのタオルがしっかりと結ばれていた。
「蒼汰はここで、ゆっくり六百数えてから、上がってきて」
「六百も?」
「六百以下で上がってきたら、蒼汰に無理やり裸を見られたって、お母さんに話すわよ」
「……」
「分かった?」
「一、二、三、四……」
「あ、ちょっとー! やっぱり千!」
「……十一、十二、十三、十四……」
結衣がバシャバシャと湯船の中を駆けていった。
千カウントか。俺もJrも、そのくらいのクールダウンの時間が必要だ……。




