第77話 「絶対見ないでよ」
(蒼汰)
奥まった所に、女性がいたりして……。
そんな妄想をしながら岩陰に入って行くと先客が居た。
別の場所を探そうと思い、そこから戻ろうとしたが岩陰に居る人に違和感があった。
俯いたまま、タオルを湯船に浸けて体の前の方を全部隠している。
髪の毛の感じが何となく見覚えのあるフォルムだと思っていたら、少し顔を上げてこっちを見た。
ん? この顔は……。
「……蒼汰!」
「え? ……おま……結衣か?」
結衣が口の前で指を立てて、俺を手招きしている。
取りあえず近寄った。
え? 結衣、タオル一枚で裸じゃん……。
思わず結衣のお胸の辺りを凝視してしまった。
「お前、こんな所で何してる?」
「蒼汰、静かにして……それと回れ右!」
折角のチャンスに、回れ右をしたくなかったが、取りあえず従った。
「もうちょっと下がって、私を隠して!」
何で結衣に尻を見られないといけないのかと思ったが、湯船に浸かったまま後ろに下がった。
俺の背なかに密着する感じで、結衣が俺の陰に隠れる。
「お前、男湯で何してる? 他の男共に見つかったら、何されるか分からないぞ!」
「知らないよ! やっと気分が良くなって、ご飯食べてお風呂に入ろうと思ったら、従業員の人が男湯の暖簾持ってて、今日は女湯は一階って言うから入ったら誰も居なくて。露天でゆっくりしてたら、いっぱい男の人が入って来たから慌て奥の方に逃げて来たの!」
結衣が一気にまくしたてた。
取りあえず他の人からは見えないように、俺が盾になって結衣の姿を隠す。
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「これからどうすんだ?」
「分からないよ……」
「俺に隠れながら一緒に上がるか?」
「嫌よ。知らない人に見られるかも知れないじゃない」
「知ってる人なら見ても良いのか?」
俺が少し振り向こうとしたら、グーで押し戻された。
「蒼汰、振り向いたら叫ぶわよ」
「……あのさぁ、それで困るのは結衣の方だろうが」
「……」
まあ、俺が見る分には大賛成だが、結衣の裸を他の男に見せるのは、やっぱり嫌だと思った。
「うーん。人が居なくなるまで、ここで隠れとこうか」
「……うん」
俺が少し振り向いて話そうとしたら、グーで押し戻された。チッ!
二十分位経っただろうか、まだ人の気配があり出られる状態ではない。
時々風で湯気が流れると人が居るのが確認できるが、向こうからもこちらが見えるのでヒヤヒヤする。
露天風呂はお湯が熱目で、少しのぼせてきた。
俺よりも長時間入っていた結衣の方が音を上げた。
「暑いー。フラフラする。ちょっと上がって腰掛けたい……。蒼汰こっち見ないでよ」
結衣は湯船の中をそのまま後ろに下がって行き、湯船の脇にある岩に腰掛けた。
その場所は他の人からはほぼ見えない。
流石に俺も限界になってきた。
「結衣。そっち見ないから俺も腰掛けて良い?」
「……絶対見ないでよ」
「多分」
「死ね。見んな!」
「はい、絶対見ません」
「なら良し」
「ありがとうございます」
俺も湯船に足だけ浸けた状態で、湯船の脇にある岩に腰掛けた。
結衣。俺の方が斜め後ろに座ったのに、見ない訳ないじゃん……。
タオルと両腕を使って上手に隠してはいるが、お尻と横からのお胸が目に入る。
結衣のとか全く全然興味が無いが、見えるのならとっても見たい。
だって、男の子だもん。




