第75話 「修学旅行」
(蒼汰)
いよいよ修学旅行の出発の日が来た。
新幹線の乗車駅に集合し、それぞれ指定された席に座り現地に向けて出発。
でも、新幹線が移動し始めたら、指定された席など有って無いような物だった。
それぞれ気の合うグループで席を交換して勝手に座り直す。
移動中にトランプなどで色々楽しめるかと思っていたが、目的地の駅に一時間半もかからずに到着するので、意外に何もできなかった。
結局、座席を対面にしてハイテンションの結衣の話を聞きながら、お菓子を食べただけだ。
結衣は雪山が見えたら窓にかじりつき、またお菓子を食べて、有名な観光スポットが見えたらまた窓に、という繰り返しだった。
ガキかお前は……。
大体、対面座席で立膝になったら、真正面の俺にパンツが見えるだろうが!
美咲ちゃんの目線が気になるから、気を付けてくれ……。
今日は水玉か……。良き良き。
新幹線を降り貸切バスに乗り換え、目的地の大きなお寺でお参りをして一旦解散。
グループ単位での自由行動になった。
といっても集合までに三時間くらいしか時間が無いので、大して遠くには行けない。お寺の門前町の散策が中心だ。
早野先輩からの情報で、美味しい蕎麦屋さんとお団子屋があると聞いていたので、お昼に蕎麦を食べ、お土産屋さんを見に行き、最後はお団子屋さんで団子と抹茶のセットを食べた。
途中のお土産屋さんで面白いメガネが売っていて、皆でふざけて掛けて遊んだ。
美咲ちゃんがヘンテコな眼鏡をかけた時に、知っている人に似ていると思ったけれど、誰に似ているかは思い出せなかった。
ふと見ると、航が少女漫画の様な眼が描いてある眼鏡を購入していた。
一体何に使うのか聞いてみたい……。
龍之介は里見さんとべったりで、もう冷やかす気にもならなかった。
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自由時間が終わると、また貸切バスに戻り宿泊するホテルへと移動する。
街を抜けると、窓の外の景色が一変して見渡す限りの雪景色になった。
道は綺麗に除雪されていて、ホテルまでは二時間位で到着するらしい。
新幹線ではあんなにハイテンションだった結衣だが、バスに乗ると車酔いですっかり大人しくなってしまった。
「吐きそうになったら、ここが一番良いから」
などと宣い丸まって俺の膝枕で寝ている。
この野郎……。
しばらくすると、結衣が「何か痛いよ」と言いながら頭を上げた。
そう言えば家の鍵をポケットに入れたままだった。
取り出して結衣に見せる。
「珍しい形の鍵ね」
「うん。トライデントとか言って、親父が防犯面では最高の鍵とか言ってたよ」
「ふーん」
そう言ったかと思ったら、また俺の腿に頭を乗せて丸まった。
コッソリお胸でも触ってやろうかと思ったけれど、後で何をされるか分からないので止めておいた。
代わりに頭を撫でてやったら、スヤスヤと寝てしまった。
確か中学校の時の遠足でも、何度か同じ事をした記憶がある。
俺の膝は結衣が車酔いした時の緊急避難場所らしい。
ホテルに到着したので、頬をプニプニして起こしていたら噛みつかれた。
何だこのノラ猫……。
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バスから降りると、まだ夕方だが陽光が山に遮られて、周りはもう薄暗い感じになっていた。
ホテルのロビーで部屋割りのメンバーで集合し、学校から送った荷物を受取り部屋に移動する。
部屋は六人部屋だ。残念ながら男女は別々だ。当たり前か……。
夕食までは自由時間なので、風呂に入りたい人は風呂へ行き、お土産を見たりとか他の事をしたければ自由にできる。
航達は風呂に行き、俺は風呂を後回しにしてお土産を見に行った。
まだ初日なので、お土産を急いで買う必要は無いが、来栖さんへのお土産を何にするのか見たかったのと、遊戯施設の確認がしたかったのだ。
卓球とかあったら、美咲ちゃんと一緒に楽しく遊べそうだし……。
遊戯施設は、卓球、ビリヤード、ゲームセンター、カラオケが有った。
でも、宿泊者の人数を考えたら、競争率が高すぎて遊べない気がした。
ある程度見て回ったので、売店に行き部屋で食べるお菓子を何品か購入する。
レジがやたらと手間取ると思ったら「研修生」という札を付けた新人さんがレジを打っていた。
そう言えばフロントにも札を付けた人が居た気がする。




