第73話 「もうすぐ修学旅行」
(蒼汰)
三学期が始まった。
早野先輩達と会えないのが寂しいが、俺たち二年生は来週から修学旅行なのだ。
三泊四日の行程で、初日は観光をして二日目からはスキーの体験学習だ。
班分けはもちろん美咲ちゃんと一緒。
結衣と航、龍之介と彼女の里見さん、俺と美咲ちゃんで六人だ。
これで観光もスキー学習も自由時間もずっと美咲ちゃんと一緒だ。
どうせなら部屋も一緒で良いのにね!
もう、ワクワクが止まらない。
クラスでのもっぱらの話題は、何を持って来るのかと、もう荷物を詰めたかどうかだ。
荷物については、学校から一括で宿泊するホテルに送ってくれる。
その為に今週中に荷物を学校に持って来ないといけないのだ。
お蔭で初日の観光は身軽に行動できるから助かるが、観光に持って行く手荷物と分けて準備しないといけない。
帰りの荷物は、希望者は学校に送る事ができるけれど、受け取りが休み明けになるので、実費で自宅に送るか手荷物として持ち帰えることになる。
結衣が美咲ちゃんに下着を何枚持って来るのかを、小声で話しているのが聴こえてきた。
聞いたんじゃない、聴こえてきたんだ。
日数を数えたり、スキーとかでの不測の事態に備えて多目にとか話している。
最終的に最悪の時は現地で購入すれば良いという事で、八枚で話が纏まったらしい。
三泊で八枚……。
俺らは基本日数分で良いし、最悪裏返して履けば良いとか、最終的に履かないという選択肢すらある。
まあ、あの何処に行ってしまうか分からない不安感と、ズボンで擦れる感触は決して心地の良いモノでは無いが……。
女の子は荷物が多いと言われるはずだね!
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ホームルームが終わり生徒会室に美咲ちゃんと行くと、伊達君と前園さんがもう来ていた。新年の挨拶をしていると部屋のドアが開いた。
「よっ! 久しぶり」
早野先輩と美麗先輩だった。
学校に取りに来ないといけない書類が有ったらしくて、ついでに寄ったらしい。
美麗先輩とは一昨日会ったばかりだが、制服姿は久しぶりだった。
何だか照れ臭かったが、美麗先輩はいつものクールスタイルを全く崩さない。
むしろいつも以上にクールな話し方だったし、俺とは目すら合わせてくれなかった。
美咲ちゃんと美麗先輩に並ばれると、何故か不安になってドキドキしてしまった。
何が不安なのかは分からない……。
美麗先輩は前園さんと少し話しをすると直ぐに帰って行った。
帰り際、ドアが閉まる直前に俺にしか見えない位置からウィンクをしていった。
残った早野先輩からは、修学旅行の初日に行った方が良い場所やお店を教えて貰った。
そして、美咲ちゃんと前園さんがトイレに行った隙に、先輩から重大な情報が手に入る。
「お前らが泊まるホテルの露天風呂だか……」
先輩が少し間を空ける。
俺と伊達君がゴクリと唾を飲み込んだ。
「……どんなに探しても、覗ける場所無いからな」
期待した真逆の情報に二人ともコケてしまった。
昨年の先輩方の血と汗と涙の探索内容を聞いて、その案件については不可能という結論に至った。
伊達君が非常に残念がっていた。
いや、伊達。お前生徒会長だろう。何か有ったら学校崩壊するぞ……。




