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僕の好きな人は派手で地味目で美人でブスで  作者: 磨糠 羽丹王
【高校二年の時間】  揺れる心と二人の距離と
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第72話 「美咲ちゃんの余韻」

(蒼汰)

 今日は気温は低いけれど晴れていて過ごし易い。

 駅への迂回路うかいろになる道は、田舎道の閑静かんせいな住宅街だ。

 道沿いに用水路の様な川が流れていて、水草が生えていたり水深の深い所に小さな魚が泳いでいたりして面白い。


 しばらく歩くと、少し川幅が広くなっている所に小さな橋が架かっている場所があった。

 そこで立ち止まり、橋の上から一緒に川を覗き込む。

 近くに水門が有るのか、流れが穏やかで水深も深い。


「凄い。魚がいっぱいいる!」


「本当だ、ここ沢山いるね!」


 美咲ちゃんが、とても楽しそうに魚を見ている。

 横顔がとても綺麗だ。

 俺は魚の事はお構いなしに、美咲ちゃんに見惚みとれていた。


「ねえねえ。あの赤いお魚なに?」


 美咲ちゃんが指さした方向を見ると、確かに赤い魚が泳いでいた。


「多分、金魚じゃないかなぁ」


「えー、金魚って川にも居るの?」


「うーん。誰かが放流した奴かも知れないけれど、鯉とかも川にいるから居るのかもね」


「そうなんだね。でも、あの子独りなのかなぁ? 可哀想……」


「どうなんだろうね」


 しばらく見ていると、その金魚が近くまで泳いで来た。

 お祭りの金魚すくいで良く見るような、細めの濃いオレンジ色の金魚だった。


「こっちに来たね……」


 二人で近くを泳ぐ金魚を黙って見ていた。

 すると色が黒い同じ形の魚が一緒に泳いでいるのが見えた。


「美咲ちゃん。ほら、一緒に泳いでいるのが居るよ」


「どこどこ? あ、本当だ。一緒に泳いでる。独りじゃなかったね!」


 美咲ちゃんが、俺の方を向いて嬉しそうに話してくれる。

 目が合うと本当にドキドキする。

 慌てて魚の方に目を戻した。

 見ていると、黒い方は一緒に泳ぐというより赤い方に引っ付いて回る感じだった。

 赤い方が美咲ちゃんで、黒いのが俺だな……黒、頑張れよ!

 俺は黒い方の魚を感慨深く見守った。


 しばらく金魚達を見ていると、少し上流の方の水草が揺れた。

 揺れた水草の所から、黒い縄の様な物が水面をスルスルと対岸に向けて泳ぎ始めた。

 お、蛇だ。何だか久しぶりに見た気がするなぁ。こんなに寒い時期に珍しいな。

 特に驚く事でも無かったので、俺は気にもしなかったが美咲ちゃんは違った。


「きゃっ!」


 小さく叫んで、美咲ちゃんが俺の方に飛んで来た。

 蛇を見て驚いて抱きついて来たのだ。

 横から抱き付いて来たから、美咲ちゃんのコートの中に俺の右腕が入り込む感じになった。


 俺は蛇には全く驚いて無かったので余裕があった。

 普段の俺なら絶対に出来ない行動だが、よろける美咲ちゃんの動きに合わせる様に自然に体が動いた。

 思い切ってコートの中に手を伸ばして、ワンピースの腰を抱える感じで美咲ちゃんをしっかりと抱き寄せた。


 抱きしめちゃった……。これは絶対に拒否られる。ヤバい気まずくなる……。


 一瞬後悔したけれど、美咲ちゃんは蛇が怖かったのか、俺に抱き寄せられたまま蛇の行方を追っていた。


 ニット越しだけれど、腕の中の美咲ちゃんの体のラインが全身に伝わってくる。

 ウエストのくびれを抱えている手の感触とか、当たっている胸の膨らみとか、キスが出来そうなぐらい近い横顔とか、顔に当たる茶色の髪とか、俺を包み込む美咲ちゃんの香りとか、もう気絶しそうだった。


 ああ、このままキスしたい。


 本気でそう思った。

 俺の胸は、美咲ちゃんに聞こえるのではないかと思うくらいドキドキしていた。


 ずっとこうしていたい……。


 必死に祈ったが蛇はそのまま対岸の茂みに消えて行った。

 美咲ちゃんは暫くその茂みを見ていたが、ハッと気が付いた様に離れて行った。

 俺の幸せな時間が腕からこぼれて行った……。


「ご、ごめんね蒼汰君。驚いて抱きついちゃった」


「い、いや。全然。ありがとう」


「え?」


「あ、いや、何でもないよ。大丈夫」


「う、うん」


「……」


 俺は美咲ちゃんの顔を見るのが恥ずかしくて、無言で蛇の消えて行った茂みを見ていた。美咲ちゃんも黙ったままだ。

 胸がまだドキドキしている。

 俺の全身に残る美咲ちゃんの余韻がヤバい……。

 ”また抱きしめたい”という想いが、頭の中を駆け巡っている。

 衝動を必死に抑えた。


「そ、そろそろ、行こっか!」


 何とか言葉をひねりだして、歩き始めた。


「うん。そうだね」


 美咲ちゃんが少し遅れてついて来た。

 蛇が気になるのか、何度も振り返る姿が可愛らしかった。


 寒いはずなのに、顔の火照ほてりが一向に治まらない。

 俺はコートのポケットに手を入れて、ズボンの前を隠しながら歩いた。

 美咲ちゃんを抱きしめて、ウエストから骨盤にかけてのラインを手に感じたときから、俺のjrが大変な事になっていたのだ。

 必死で気を紛らわせて、沈静化ちんせいかを図っているが、鼻腔びくうに残っている美咲ちゃんの香りが邪魔をする。


 やっぱり俺は美咲ちゃんの事が大好きだ……。

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