第66話 「プレゼント」
(蒼汰)
家に着いた時は、九時を過ぎていた。
珍しく来栖さんが玄関まで迎えに来てくれた。
「お帰りなさい! あれ? 雪ですか!」
来栖さんは、ツリーを一緒に作った時みたいに嬉しそうで、何だが明るかった。
「ええ、結構積もっていますよ。ああ、でも歩けないとか交通機関が止まる程じゃないです」
「そうですか。良かったです。あ、直ぐに食事の準備をしますね」
「食事、遅くなってすみません」
「いえ、今からオーブンで温めるので大丈夫ですよ。でも二十分ぐらい待って下さいね!」
来栖さんは嬉しそうにキッチンの方へと走って行った。
俺は玄関でコートの雪を払い、部屋に荷物を置きに行った。
来栖さんに渡す予定のプレゼントと、今日プレゼント交換で貰ったアロマキャンドルを持って、ダイニングへと向かった。
ダイニングに入ると、食卓が綺麗に飾り付けられていた。
「来栖さん凄いですね! クリスマスですね!」
「ええ。折角だったので、ちょっと飾って見ました」
キッチンから来栖さんの返事が聞こえてきた。
「こんなの初めてだなぁ。ありがとうございます」
リビングに飾ってあるツリーと、クリスマスのお祝い風に飾り付けられたテーブル。
こんな風にクリスマスを迎えるのは生まれて初めてだ。
「もう少し待っていて下さいね」
来栖さんがキッチンから出て来た。
俺は忘れないうちにと思い、プレゼントを取り出した。
「来栖さん。いつもありがとうございます」
テーブルの上にプレゼントを差し出したら、来栖さんがビックリしていた。
「まあ、そんな。お気遣い頂かなくても……。でも、ありがとうございます」
「本当に、いつも良くして貰っているので。それに、そんなに大したモノじゃないですから」
来栖さんがペコリと頭を下げて、プレゼントを受取ってくれた。
「それとこれ。貰ったモノで申し訳ないですけど、自分は使わないので、良かったら一緒に貰って下さい」
一応元通りに包装し直したアロマキャンドルが入った包みを渡した。
「こんなに沢山……」
プレゼントを見た来栖さんが、一瞬苦笑いをした気がしたけれど、とても喜んでくれた。
「いえ、本当に気にしないで下さい。来栖さんが嫌いな物じゃ無ければ良いけど」
「ありがとうございます。食事が終わったら開けますね」
来栖さんはプレゼントをバックに仕舞い込んだ。
「あ、それと蒼汰さん。お返しという訳ではないのですが、テーブルの上のプレゼント。私からです」
テーブルの上を見ると、ツリーに飾り付ける様なキラキラの包装がされたプレゼントが置いてあった。
「えー! ありがとうございます。嬉しいな。開けても良いですか?」
包みを開けて中身を取り出したら、紳士用の格好良い手袋だった。
「いつも手袋はされて無かったので……」
「嬉しいです。有難うございます!」
美麗先輩からマフラーを貰って、来栖さんから手袋を貰った。
両方持って無かったから嬉しい。
来栖さんは喜ぶ俺を笑顔で見ていたけれど、何かに気が付いたみたいな感じで、俺の顔を覗き込んで急に驚いた様な表情になった。
何故かしばらく声も出ない様な感じだった。
「あ、あ、あの。そ、蒼汰さん……。あのですね……。お、お口に何か付いている様ですので、洗面所とかで、か、鏡を見られた方が良いかと思います」
来栖さんは急に振り向いて、逃げる様にキッチンへ行ってしまった。
何の事だろうと思いながら、洗面所に行って鏡を見た。
確かに口に何かが付いている。
ティッシュで拭いたら、艶のあるピンク色の塗料のような物が付いていた。
横に置いていた携帯からメッセージの着信音がしたので、確認すると美麗先輩からだった。
「蒼汰くん! ドアが閉まって言えなかったけれど、私の口紅がべったり付いたままよ。大丈夫だった? ♥」




