第65話 「斜めに降る雪を眺めながら」
(蒼汰)
公園から駅までの道のりは、嬉しい様な恥ずかしい様な、そんな感じで歩いていた。
俺と美麗先輩が寄り添って歩いている姿が、ショーウィンドウやお店のガラスに映る度にドキドキしてしまう。
もちろん、こんな事は生まれて初めての経験だ。
イチャつくカップルとすれ違っても何も思わない。
しかも、すれ違うどんな女性よりも先輩の方が綺麗で可愛い。
男同士でつるんでいる連中から恨めしそうに見られると、何だか嬉しかった。
もしかして俺「爆発しろ!」とか思われてる?
そんな事を考えて、思わずニヤニヤしてしまった。
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駅に着くと、先輩が乗る方面の電車が先に来るので、ホームで先輩を見送る事にした。
改札を抜けてエスカレーターでホームに上がると、ちょうど電車が入って来たところだった。
「次に会える日をメールするね」
先輩が携帯を取り出すと充電切れだった。
「家に帰って充電したら送るね!」
そう言って俺の手をギュっと握ると、電車に乗り込んで行った。
先輩はドアの前に立って、笑顔で小さく手を振っている。
ドアが閉まる直前に、俺の顔を見て先輩が慌てて何か言おうとしたけど、聞こえなかった。
先輩はガラス越しに、自分の唇と俺の唇を交互に指さしている。
キスの事かな……照れるなぁ。
俺は先輩が見えなくなるまで手を振った。
電車が見えなくなってから、自分が乗る電車のホームへと向かう。
胸のドキドキがまだ治まらない。
美麗先輩……。
三度目のキスの辺りから、わたくしのJrが大変な事になっているのですが、この責任はどなたがお取りになるのでしょうか……。
ホームに着くと、直ぐに電車が来た。
車内が混んでいたので、乗って直ぐのドアの横に立って乗車した。
斜めに降る雪を眺めながら、今日の先輩との事を思い出す……。
まさか美麗先輩が俺の事を好きだったなんて、思ってもいなかった。
カフェの前でココアを両手に持っていた先輩の可愛い姿。
プレゼントを買いに行ったときの事。
今日待ち合わせをしてカフェに行った時の事。
そしてキスした時の綺麗な瞳。
先輩と手を繋ぎ、寄り添いながら街を歩いた事。
全てが夢のようだ……。
先輩を思い出しながらニヤついていたのか、ドアを挟んで反対側に立っていた大学生くらいの女性グループが変な目で見ている。
「……あ、本当だ。嫌味ね……」
そんな事を言われていた気がする。
何が嫌味なのか知らないが、別にどうでも良い。
学内でも一番のクールビューティと言われている、あの憧れの美麗先輩に「好き」って言われて、キスされたんだぞ!
ニヤニヤするに決まってるじゃん。
下車する駅が近づいて来て、時間を見ると八時半だった。
そういえば、お腹が空いていた。
先輩と一緒に食べようと思ったけれど、クリスマス・イブの日にそう簡単に店は見付からなかったのだ。
今度のデートで一緒に食べる約束をして、今日は帰る事にした。
帰ったら来栖さんの美味しいご飯があるはずだ……。




