第62話 「クリスマス・イヴ」
(蒼汰)
美麗先輩との待合せ場所に着いたのは六時だった。
電車の接続が良くて、早く着き過ぎたのだ。
流石に早過ぎたと思ったら、先輩がもう待っていた。
七時に港展望公園なのに一時間前に居るってどうよ? 美麗先輩、気合入ってるなぁ……。
しかも、先輩の今日の格好は破壊力抜群だった。
袖が長めの白のニットワンピースの上に、ボア付きの水色のロングダッフルコートを着て、スエードの黒のショートブーツを履いていた。
可愛すぎて美麗先輩の周りだけスポットライトが当たっている様だった。
先輩、その格好は可愛すぎます……いいなぁ。
そう思いながら先輩に声をかけた。
「あ、蒼汰君。早かったね」
「いや、先輩こそ早過ぎますって」
「そうね。ちょっと早過ぎたかな。カフェでも行こうか」
「はい」
俺と先輩は駅前のカフェに入り、ココアを二つ注文した。
流石にクリスマス・イブということもあり、店内はカップルでごった返していた。
ラブラブのカップルもいれば、初々しいカップルもいる。
でも、俺らの様な変な組み合わせは居ないだろう。
今から意中の人にプレゼントを渡しに行く綺麗な女性と、そのお供に付いて行くだけのイケてない野郎。
いったい俺は何をしているのだろう……。
まあ、美麗先輩は今日も見ているだけで嬉しくなるくらい綺麗で可愛い。
それに、艶のあるピンク系の口紅を付けていて、とても綺麗な唇だ。
俺が言っても意味が無い事は分かっているけれど、憧れの先輩にその事をどうしても伝えたかった。
これから意中の人にプレゼントを渡す先輩に、自信を持って欲しかったのかも知れない。
「美麗先輩」
「なあに?」
「きょ、今日も、とんでもなく綺麗で可愛いですね。俺、今日の格好も大好きです」
「えっ? あれ……。蒼汰君、もしかして私のこと口説いてる?」
「えっ、え、え? ち、違います。だた、本当にそう思ったから。き、きっと相手の方も喜びますよ……」
「そう思う?」
「はい。もちろん」
「そう。ありがとう」
美麗先輩の顔が少し赤くなった。
プレゼントを渡す時の事でも考えているのかな?
結局、誰だか知らないけれど、羨ましいなぁ。
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六時四十分過ぎにカフェを出て港展望公園へ向かった。
展望台には十分で到着。
あと十分で先輩の相手との待ち合わせ時間だ。
この展望台からの夜景はとても綺麗だった。
ここでプレゼントを渡すとか、凄くロマンチックだな。
いつか美咲ちゃんと来たいなぁ。
『美咲ちゃん。これ俺からのプレゼント』
『まあ、ありがとう蒼汰君』
『君の為にこの夜景を準備したんだ』
『蒼汰君。私からのプレゼントは……』
『美咲ちゃん!』
『蒼汰くーん』
バッチリだ。ここに決定だな。
「ねえ……蒼汰君? どうかした?」
先輩が怪訝そうな表情をして俺を見ていた。
「え? いえ、何でもありません」
おっと、妄想モードで呆けてしまっていた。
気が付けば、展望台から見える時計が、もう少しで七時になるところだった。




