第31話 「体育祭日和」
(蒼汰)
今日は快晴。絶好の体育祭日和。
雲一つない青空に、今日の体育祭での活躍を誓う。
などという事はなく。体育祭などどうでも良い俺は、一日が早く終わる事だけを祈っていた。
軟弱文化会系男子の俺には、女子の体操着を眺める事くらいしか楽しみの無い日なのだ。
でも、一日中体操着か……体育祭も悪くはないな。
開会の言葉に続きやたらと熱い校長先生のお言葉を頂き、スポーツ優等生男女の選手宣誓。
その後、いつもは威嚇するかの様に持ち歩いている竹刀を、今日だけ不所持の体育教官の注意事項に続き、ジャージにポロシャツ姿の先生方と一緒に全校生徒で準備運動。
何かもう疲れた。このまま閉会式で良いのに……。
盛り上がっている体育会系の生徒達と、既に目が死んでいる文化会系の生徒達。
それぞれの想いとは関係なく体育祭が始まった。
体育祭は全校生徒をクラス毎に四つの組に分け、それぞれに色が付けられている。
運動場に組んである櫓には、色分けされた四つの応援席が設けられ、その背に美術部員が気合を入れて描いた、青龍、白虎、朱雀、玄武の大きな絵が掲げられている。
その両脇に、それぞれの絵に合わせて書道部が書いた『流れ旗』や『幟旗』がズラリと並んでいる。
なかなか壮観だ。
「飛龍乗雲」「虎嘯風生」「炎帝飛翔」「玄武征兎」
うん。これを考えた奴らとは、友達になれそうだ。
特に玄武組の涙ぐましい努力が感じられる。
亀を使った勇ましい四字熟語など見つからないからな。
それに『亀が兎を征する』とか、体育祭にはピッタリの言葉だ。
俺が考えたら「亀甲束縛」「亀蛇触手」とかしか浮かばないな……。
でも、兎を亀が征する?
兎ちゃん……バニーちゃんを、亀が征するだと!?
うおっ! 何か妄想が膨らんで来た……。
高校生男子のエロ妄想の切欠などこんなものだ。
ちなみに、俺らの組はその「玄武」こと緑組。
本当は黒色だが、鉢巻きとか襷に黒は良くないので、緑色だ。
しかし、応援席に現れた応援団の袴姿は、緑では無く黒色を基調にしたものだった。
女子から黄色い声援が上がる。
はいはい。格好良い格好良い。チッ!
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午前中のプログラムは、割と地味な競技が多い。
先ずは各学年の五十メートル走の選手が入場する。
だが、この競技には学内トップアスリート達は出場しない。
学内トップアスリート達の出番は、熱い最終種目近辺だ。
最初の五十メートル走など、平凡な徒競走に過ぎない。
ところが、平凡な徒競走のはずなのに、一名平凡じゃないのが入場して来た。
「えー早野先輩!」「涼介様!」「きゃー!」「何で、何で!」
急に女子が大騒ぎしている。
五十メートル走に現れたのは、三年生のモテモテ万能系男子の早野涼介先輩だ。
早野先輩の事は、男の俺でも知っている。
ルックス良し。成績優秀。運動神経抜群。ついでに高身長。
神様って不公平よね。
そんな午後の競技で現れるはずの先輩が、トップ競技の五十メートル走に現れたのだ。
近くの三年生の話では、病欠の奴の代わりに出ると志願したらしい。
女子からの黄色い声と、男子からの怨嗟の声がグラウンドに広がっている。
転べばいいのに………。
もちろん、俺は男子側だ。




