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僕の好きな人は派手で地味目で美人でブスで  作者: 磨糠 羽丹王
【高校二年の時間】 美咲の瞳と三十路のひな
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第21話 「上条君どうしたの?」

(蒼汰)


「上条君、上条君。ねえ、上条君どうしたの?」


 美咲さまが俺の顔の前で手を振っていた。

 おっと危ない。意識が飛んでいた。


「あ、ごめん。何でもない。ごめんごめん」


「?」


「み、美咲ちゃん。か、肩貸すから、い、一緒にゆっくり歩いて行こう」


「う、うん。ありがとう上条君」


 あれ? 俺、今何て言った?

 美咲さまは、何て答えた?

 それに「美咲ちゃん」って呼べてるよね!

 もしかして俺はやればできる子なの?


 色々考えているうちに、美咲さまの手が俺の右肩に乗せられた。


「さっきはごめんなさい。上条君を怒らせるつもりは無かったの。私のせいで待たせるのは申し訳ないかなと思って」


「い、いや全然怒って無いよ。こ、こっちこそ、驚かせてしまって。ほ、本当にごめん」


「ううん。大丈夫だよ。悪いのは私だし」


「ぜ、全然悪くないし。あ、あと、そ、そ、蒼汰でいいよ……」


 ヤバい、声が裏返りそう。


「そうた?」


「う、うん。そ、蒼汰ってよ、呼んで、く、下さいましませ」


 一瞬の沈黙が流れた。


「うくっ……あはははは。下さいましませってなあに? 蒼汰君、面白い」


 美咲さまが肩を震わせながら笑ってくれた。

 緊張のあまり、ちょっと語尾が意味不明になっただけだが、美咲さまがこんなに笑って下さるなら良しとしよう。

 でも、頑張ったな俺!

 美咲さまの手が置かれている肩が熱い。


 しばらく上りが続く道を、二人でゆっくりと歩いていた。

 肩を借りながら「蒼汰君ごめんね」と謝り続ける美咲さまと、「全然大丈夫」と言い続ける俺。

 まともに話を続けられないから、こんなやり取りでも幸せだった。

 それに肩を借りていることを謝るなんて……。俺にとっては、ご褒美だからね!


 ----


 残りの行程は下りだけだ。

 俺は下り坂の素晴らしさを始めて知った。俺はいま猛烈に感動している。

 下り坂は、下り坂は……。


 ちょっとした段差を下る度に、美咲さまの神々しい膨らみが腕に当たるのだ。

 もちろん、わざとひじを張って、お胸に当てに行ったりしてないぞ。

 最初はちょっと当てに行った気もするけど……。

 それに段差が激しい所では、転ばない様に両手で俺の右肩にお掴まりになられるのだ。

 密着度が増して、もう殆どお胸が当たりっぱなしの状態。


 そしてもうひとつ。

 体が密着しているお陰で、俺が大好きな美咲さまの香りがしてくるのだ。

 シャンプーや香水の香りじゃない……。

 何でこんなにいい香りがするのだろう。

 もう、幸せ過ぎて倒れそうだった。


 神様、ご褒美が過ぎます。

 もしかして、俺はこれから滑落かつらくでもして死ぬの?


「蒼汰君。肩借りっぱなしでごめんね。重たいよね」


「と、とんでもない。本当にありがとう」


「え?」


 危ない……心の声が素直に出てしまった。


「あ、いや。な、何でもないです。み、美咲ちゃんこそ、あ、足は大丈夫?」


「うん。体重かけると少し痛いけど、下りじゃなければ多分大丈夫だと思う」


「そっか。よ、良かった。あと少しだし、が、頑張ろう」


「うん。ありがとう」


 本当はあと百キロでも二百キロでも、下り坂が続けば良いと思っている事はナイショだ。

 永遠に美咲さまの神々しい膨らみとご一緒したい。




 わずかな感触でも逃すまいと、俺の研ぎ澄まされた感覚が右腕に集まっていた時、突然左腕が引っ張られた。


「あらあらー。私が居ない間にお二人はラブラブになっちゃいましたかー? いやーん」


 俺の左腕に掴まったまま、結衣が俺たちの顔を覗き込んでいた。


「あ、結衣ちゃん! おかえりなさい」


「むむむー。怪しいなぁ」


「違うのよ。私が転んで足をくじいちゃったから、蒼汰君が肩を貸してくれたのよ」


「嘘うそ。後ろから見て分かったわよ」


「もう、結衣ちゃんたら」


「蒼汰、お疲れ。後は私が美咲ちゃんと歩くわ。このままで到着したら、皆に色々言われるよー」


「あ、ああ……。分かった」


 俺の方は色々言われたいが、美咲さまは嫌だろう。仕方が無い。

 美咲さまの『天空の財宝』と愛しい香りとの突然のお別れ。

 この世に永遠なんて無いのね。


「美咲ちゃん。蒼汰に変な事されなかった?」


 俺と美咲さまの間に入って肩を貸しながら、結衣がとんでもない事を言い始めた。


「え? そんなこと何にも無かったよー」


「本当にー?」


「そんな事言ったら、蒼汰君に失礼よ。とってもお世話になったのに」


「おい、結衣。いい加減にしろ。酷いな」


「へー。ふっふーん。()()()()かぁ。そうなんだー」


 思わせぶりな言い方をしながら、結衣が腕を組んで来た。

 美咲さまの『神々の秘宝』とはサイズ感が違うが、腕を引き寄せた勢いで『柔らかな小山』が腕に当たる。

 ちょっと嬉しかったが、美咲さまの神々しい感触を忘れたく無いのだ。止めてくれ。

 それとも、結衣を今日から選択肢に昇格させないといけないのか?

 そう思った時、結衣が顔を近づけて来てつぶやいた。


「蒼汰、腕当てるな。肘で触るな。変態」


「……当ててない。触ってない。冤罪えんざいだ」


 蚊の鳴くような声で返事をする。


「ふーん……荷物が重たいなぁー」


 結衣は俺の腕を力一杯(つね)ってから離れていった。

 こいつ、俺の至福の時間の事を全て分かってやがる。

 これは全面降伏するしかなさそうだ。


「結衣さま。大変でしょうから、お荷物などお持ち致しましょうか」


「うむ。美咲ちゃんのも一緒に持ちたまえ。気が利かぬ奴め」


「ははぁ。承知いたしました」


「え? 蒼汰君、私の分は大丈夫だよ」


「いえ、大丈夫です。お持ち致します」


 俺は三人分のリュックを抱えて、帰りの集合地点まで歩いた。

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