第18話 「美咲ちゃんのお弁当」
(蒼汰)
見晴らしが良い場所を見つけたので、そこでお弁当を広げた。
結衣のお弁当はお母さんが作ったのだろう。おにぎり、サンドウィッチ、卵焼き、ウインナーなどなど、オンパレードだ。
美咲さまのお弁当箱は小さくて、おにぎりと、プチトマト、ピーマンと肉の炒め物、それに煮物が入っていた。美咲さまのお母様がお作りになられたのだろうか。
俺のお弁当の中身はというと、梅のおにぎりに煮物が少々、あと小魚の甘露煮が入っている。昨日お手伝いさんに作り置きして貰ったものだ。
あの不気味なお手伝いさん、料理は美味しい。
容姿からは毒を盛られそうな雰囲気を醸し出しているが、普通に美味しい料理を作ってくれる。
「美咲ちゃん。あたしのお弁当つまんでね。お母さんが沢山作り過ぎて、こんなに食べられないから」
「ありがとう」
「あ、美咲ちゃんの煮物美味しそう。食べて良い?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとう……何これ! 美味しい!」
「お粗末さまです」
「え? これもしかして美咲ちゃんが作ったの?」
「あんまり上手じゃないけれど……」
「ううん。めっちゃ美味しいよ。美咲ちゃん凄いね!」
何だと……?
美咲さまの手作りだと!
ちょっと待ってくれ。
お手伝いさんには申し訳ないが、その煮物ひとつと俺のお弁当と全部交換してくれないか? 今日のお昼はその煮物だけになっても構わないから……。
当然、そんな事は言い出せないまま、俺はお手伝いさんのお弁当を食べた。
美味しかったが、美咲さまの手作りを食べて見たかった……残念。
食事中に景色を見ている美咲さまに見惚れていたら、結衣が俺の弁当から煮物を取って行った。
食べながら一瞬不思議そうな顔をしたが、毒は入っていないし美味しいはずだ。
その後、結衣の多すぎるお弁当の残りを全部食べさせられた。
いや、元々結衣のお母さんは、俺に食べさせることを前提にお弁当を詰めてくれているのだ。
中学の頃、行事の度にお弁当が無くて、家から持って来たパンを食べている俺を見て事情を察したらしい。
それから事ある度に、結衣のお弁当はてんこ盛りで、その大半を俺が食べる事になっていた。
俺のおふくろの味は、もしかしたら結衣のお母さんの味なのかも知れない。
食後に結衣が持って来た塩気の多いお菓子と、チョコが溶けたポキポキを一緒に食べた。
美咲さまと一緒にお菓子を食べられるなんて、俺ってなんて幸せ者。
間違えても、結衣と美咲さまのお胸をコッソリ見比べたりとかしてないからね。
してないよ、そんな事。
あれ? 結衣に睨まれてる気がする。何故かしら。




