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第166話 「第三ラウンド」

(美麗)

 私はいつも無理をする。

 強気でクールな女の振りをして、本当の自分を隠す……。


 中学に上がって直ぐに、私のきゃぴきゃぴした性格が気に食わなかったらしく、クラスの人気者の女の子から酷く嫌がらせを受けた。

 周りの女の子達も関わりたく無かったのか、そのままクラスで孤立してしまい、私は人とあまり関わらなくなった。

 私はそれまでとは態度を一変して、殆ど口を利かなくなり、何かあってもにらむだけで過ごしていたら、勝手に周りが恐れ始めた。

 身を守るためには、こういう態度を取り続けていれば良いと思い、人前で話す時は出来るだけ冷静に、冷たく少ない言葉で済ます様に意識した。

 そのまま中学三年間を過ごし、いつの間にか周りからはクールだ何だと言われ始め、気が付いた時には、どちらが本当の自分なのか分からなくなっていた。


 中学三年の時、休日に地域の特別授業で講演会を聴きにいかされた。

 他の生徒は寝たり私語をしたりして全く話を聞いていなかったけれど、私は話の内容にとても惹かれて真剣に聞き入ってしまった。

 内容は国際貢献の話で、講師の先生の支援してきた事業や実体験を教えてくれた。

 講演の中で、全く学校に行けなかった子どもが、講師の先生達が作った学校に通える様になり、現在は医師として働いているという女性の話をしてくれた。

 私は将来こういう仕事がしたいと思った。

 講演の後で講師の先生の所に行き、話を聞かせて下さったことへのお礼を言った。

 先生は最初驚いていたけれど、私が興味を持った事にとても喜んで下さった。

 その時、先生の横にいた女の子が、父の話を真剣に聴いてくれてありがとうございますと言って頭を下げてくれた。

 綺麗な茶色の髪の毛と、透き通る様な瞳の女の子だった。

 その講演をして下さった講師の先生の名前は「来栖明利」先生。

 先生が呼んでいた女の子の名前は「ひな」だった。


 私が今の大学を選んだのは、来栖先生が客員教授として国際貢献の特別授業を行っていたから。

 でも、来栖先生は私が高校三年生の夏に、政変が起きた赴任先で拘束されてしまった。

 その後、酷い内容のニュースが流れていたけれど、来栖先生は絶対にそんな事をする方ではないと思っていた。

 先生は必ず汚名をそそがれて、帰国したら授業を受けられる事を信じて、私は今の大学に進学した。


 蒼汰君の家で働いていた家政婦さんの名前を聞いて、来栖先生の娘さんを思い出した。

 高校で初めて見た時に、何となく既視感が有ったけれど、名前が違ったから全く気が付かなかった。

 裕子ちゃんから「来栖さんは美咲ちゃんだよ」と聞いた時に、急に顔が浮かんだのだ。

 多分、天野美咲は来栖ひなさんだ。

 でも、どうしてそんな事をしないといけなかったのだろう……。

 そう言えば来栖先生の奥様も拘束されて、銀行口座が凍結されたというニュースがあった。

 まさか彼女は独りで日本に取り残されて、自力で生活していたのだろうか。

 本当の事は全く想像が付かないけれど、この事を蒼汰君に伝えるべきだと思った……。


「あのね、蒼ちゃん。さっきの裕子ちゃん話の事だけれど」


「……うん」


「あの話は、嘘とか勘違いじゃ無いかも知れないよ」


「えっ? 何でそんな事言うの。もう、どうでも良いよ……」


「ごめんね。でも、私の話を少し聞いてくれる?」


「う、うん」


 私は中学三年生の時の事、美咲ちゃんが来栖さんだと思う理由を話した。


「蒼ちゃんは、もう吹っ切れたと思っているのかも知れないけれど、この一年間に私の胸の間で何度『美咲ちゃん』って言ったか知らないでしょう」


「え……」


「もちろん寝言だけれど、いつも苦しんでいたよ。だからいつも抱きしめて頭を撫ででいたの」


「……ごめん。知らなかった」


「大丈夫。だって蒼ちゃんは私のものだもの」


「みぃ……」


「私は蒼ちゃんの事が大好き」


「俺もみぃの事が大好きだよ」


「でも、私はもう直ぐ留学する」


「うん。分かってる」


「蒼ちゃんを独りで置いて行くのは嫌。本当は一日も離れたくない」


「みぃ……」


「でも、私は将来の夢を絶体に諦めたくないから、最低でも一年は会えなくなる」


「うん」


「その間に、私の胸で他の女の名前を呼ばなくなるように、蒼ちゃんには課題を与えます」


「課題?」


「そう、課題」


「どんな?」


「私の出国の日に、蒼ちゃんと私はお別れします」


「はあ? また、そんな話になるの? 嫌だよ……」


「ちゃんと聞いて」


「はい……」


「出国の日から一年間、お互いに一切連絡をしないで過ごしましょう」


「えぇ……」


「その間、私は自由に生きます。青い目の彼氏が居てもうらまないでね」


「みぃは、何でそんなことを言うの?」


「蒼ちゃんは、その間に美咲ちゃんの事に決着をつけて」


「決着なら、もうついてるよ」


「ついてない。蒼ちゃん、来栖ひなさんの事を調べて見て」


「……」


「もし辿り着いたら、何故あなたをそんな目に遭わせたのかを聞いて」


「う、うん」


「それからどうするのかは、蒼ちゃんの自由」


「自由?」


「理由を聞いて、美咲ちゃんが許せなかったらそれで良いし、許せるのなら、付き合おうが私みたいに同棲しようが好きにして良い」


「みぃは、俺の事とかどうでも良いの?」


「そんな訳ないでしょう! この世で一番大好きよ!」


「じゃあ、何でそんな事……」


「どうなったとしても自信があるから。蒼ちゃんの女性に対する全ての基準はもう私だもん。そう簡単にこの私を越えられるもんですか!」


「みぃ……」


「高校生の時の第一ラウンドは美咲ちゃんの勝ち。第二ラウンドは私の圧勝。今から第三ラウンドよ」


「……」


「もう私の胸で他の女の名前を呼ばれるのは嫌! 他の女の胸で私の名前を呼んで悔しがらせてあげる!」


「わ、分かったよ……」


 ----


 私はいつも無理をする。

 強気でクールな女の振りをして、本当の自分を隠す。


 本当は蒼汰君を美咲ちゃんの元へなんか行かせたくない。

 でも、苦しみ続ける蒼汰君を束縛し続けるのも嫌。

 苦しみから解放出来る方法があるならそうしてあげたい。

 結果がどうなるのか分からないけれど、蒼汰君が美咲ちゃん……いや来栖ひなさんと、どんな未来をつむぐのかを待つしかない。


 私は未だ負けた訳じゃない……。

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