表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の好きな人は派手で地味目で美人でブスで  作者: 磨糠 羽丹王
【高校三年の時間】 募る想いと綻びと
160/186

第160話 「それぞれの道」

(蒼汰)

 卒業式の日になった。

 仲の良かった仲間達と離ればなれになるのは本当に寂しい。

 でも、俺には美咲ちゃんがいる。

 春から同じ大学に通い、これからも一緒にいる事ができるのだ。


 俺が大好きな美咲ちゃん。

 今日まで拒絶されることが怖くて、一番伝えたい言葉が言えなかった。

 でも、卒業式の後に告白すると決めた。

 楽観的過ぎるのかも知れないけれど、告白は上手く行く気がする。

 昨日もあんなに一緒にいて、手を繋いだり腕を組んだり、抱きしめたりした。

 美咲ちゃんの返事はきっとYESだ。

 一歩前に進める気がする。

 今日から俺と美咲ちゃんの幸せな日々が始まるんだ。


 ----


 登校して教室に入ると、やはりいつもと違う雰囲気が漂っていた。

 何となく集まって話をしていたが、直ぐに寂しさが勝って無口になる。

 あの結衣ですら今日は元気が無い。時々、俺の方を見て困った様な顔をしていた。

 そして、彩乃先生が教室に現れた。着物が凄く綺麗だ。


 でも、皆がお別れに気が向いている時に、俺は独りで焦っていた。

 美咲ちゃんが登校して来ないのだ。

 そろそろ入場という時間になっても来ない。

 どうしたのだろう……。


 卒業式が始まっても美咲ちゃんは現れなかった。

 途中で来るだろうと思っていたけれど、式が終わる頃になっても来ないままだ。

 俺は心配で堪らなかった。

 何か急病や事故じゃないかと思い、不安になり冷静ではいられなかったのだ。

 卒業式が終わり、教室に戻っても美咲ちゃんの席は空いたまま。


 彩乃先生が教室に入って来たので、直ぐに聞きに行った。

 先生は何となく言いにくそうな感じで「天野さんは欠席です」としか教えてくれなかった。

 結衣や他の連中にも、何か知らないか聞いて回ったけれど、美咲ちゃんが休んだ理由は誰も知らなかった。


 最後のホームルームが終わり、他の生徒たちは別れを惜しみながら、高校生活最後の日を過ごしていた。

 皆が写真を撮ったり別れの挨拶をしている時も、俺はずっと美咲ちゃんを探していた。

 結衣や航達も心配してくれて、電話を掛けたりメッセージを送ったりしてくれたけれど、美咲ちゃんとは全く繋がらない。

 早々に皆と別れて、直ぐに家で着替えて、昨日約束した待ち合わせのカフェに行った。

 謝恩会しゃおんかいの始まる時間まで、六時間以上待ったけれど美咲ちゃんは現れなかった。

 何度電話を掛けても不通が続き、メッセージも受信されないままだった……。


 俺は謝恩会の時も、俯いたままで泣きそうな顔をしていたと思う。

 皆が順番に彩乃先生に挨拶をして、俺は最後に先生の前に行った。

 先生は何とも言えない表情をして俺を見つめていた。

 これまでのお礼を言って立ち去ろうとしたら、先生から呼び止められて急に抱きしめられた。


「蒼汰、頑張れ。きっと……」


 先生はそう言うと何処かへ行ってしまった。

 いったい何が『きっと』なのか分からない。

 俺は途方に暮れていた。


 ----


 俺は次の日から美咲ちゃんを探し続けた。

 航や結衣や仲間達も協力してくれたけれど、皆も引っ越しの準備や進学の用意で忙しい。もちろん、俺も引っ越しをしないといけない。


 美咲ちゃんのスマートフォンは、あの日から不通のままだった。

 そして、不思議な事に美咲ちゃんを探せば探すほど、美咲ちゃんの存在が消えていった。

 学校に行き先生に確認したけれど、卒業式前に本人から連絡があって、欠席を伝えてきただけで、それ以外は何も分からないという返事だった。

 それでも食い下がって、美咲ちゃんの住所を教えて貰った。

 でも、その住所を訪ねると、家は去年から貸別荘になっていて、美咲ちゃんは住んでいなかった。

 そもそも天野という人は住んでいなかったと、隣の部屋の人に教えて貰った。


 それでも、大学に行けばきっと会えると思っていた。

 ところが、大学の合格者一覧には美咲ちゃんの名前は無かった。

 俺の大好きな美咲ちゃんは、いくら探しても何処にもいない……。


 そして、美咲ちゃんが見つからないまま、俺の引っ越しの日が来た。

 航と結衣が見送りに来てくれた。

 子どもの頃からずっと一緒に過ごして来た二人とも、これからはなかなか会えなくなる。

 結衣が泣きじゃくってなぐさめるのが大変だったけれど、何かの機会に集まろうといって別れた。

 龍之介は三日前に引っ越して行った。航は明日引っ越しだ。

 俺達は皆離れ離れになって、それぞれの道を歩み始めることになる……。


 ----


 俺は引っ越し先の新しい部屋の真ん中で、呆然と座り込んでいる。

 卒業式の前の日まで、俺は確かに美咲ちゃんと一緒に居たはずだ。

 あの夏の日にバス停で見かけて、転校してきて、遠足に行って、生徒会役員をして、修学旅行に行って、大学に合格して、これからも、ずっとずっと一緒にいるはずだった。


 でも、卒業式の日に美咲ちゃんは現れなかった。

 それどころか、一緒に過ごして来たはずの「天野美咲」は忽然こつぜんと消えてしまい、何処にも存在しなかった。

 俺の人生から、一番大事だった「美咲ちゃん」というピースがぽっかりと失われてしまった。



 俺の前から美咲ちゃんは消えてしまった……。




            高校生編 終了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=489571759&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ