第144話 「踏み出せない想い」
(蒼汰)
美咲ちゃんと普通に手を繋ぎながら、人混みを掻き分け歩いている。
こんなに自然に手を繋げるのだから『もしかしたら……』とか思ってしまう。
でも、自分の勝手な勘違いで、もし告白を断られたら、それから先は美咲ちゃんに避けられてしまうかも知れない。
それが怖くて踏み出せないのだ。
大好きだから、この関係を失いたくない……。
美咲ちゃんの柔らかい手を握りながら、俺の気持ちは行ったり来たりし続けている。
「ねえ、美咲ちゃん。待ち合わせまで時間があるから、少しパレードとか見て回らない?」
「うん」
美咲ちゃんが笑顔で頷いてくれる。
あの夏の日、どうしても話したかった白いワンピースの女の子が目の前にいて、ヘーゼルブラウンの美しい瞳で俺を見つめている。
俺は今、あの娘と手を繋いでいるんだぞ。凄い事なんだ。絶対に離れたくない!
そんな想いが胸に込み上げて来て、告白してしまいたい気持ちと、失敗して失う恐怖に苛まれながら、お祭りの人混みの中を歩いていた……。
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皆との集合場所に近づくと、美咲ちゃんは慌てて手を離して、少し距離を開けて歩き始めた。
龍之介達みたいに手を繋いで皆の前に行く訳にはいかないのだろう。
やっぱり、美咲ちゃんと俺との距離は、まだまだそんなものなのだ。
心に冷たい何かが広がって来た。
告白なんてお笑い草だな……。
集合場所には結衣と航が待っていて、結衣は俺に気が付くと、手を振って駆け寄って来た。
結衣の格好がお洒落な上に、お胸のラインが綺麗に見えて良いなと思ったら、この前俺が選んだ服を着ていた。
結衣がそのまま抱きついて来そうな感じがしたので、少し身構えたら美咲ちゃんが結衣を捕まえてくれた。
「結衣ちゃん。今日の格好可愛いね!」
結衣は急に止められて驚いていたが、嬉しそうに両手で服の肩を抓み上げていた。
「でしょ! この前買い物に行った時に蒼汰が選んでくれたんだ!」
「そ、そうなんだ。可愛くて良いね!」
「でしょ! 沢山試着した中で、蒼汰がこれが一番可愛いって言うから買っちゃった!」
「そ、そうなんだ……」
結衣の説明は大分事実と違う気がするが、口を挟むと煩そうなので黙っていた。
「美咲ちゃんのワンピース良いなぁ。凄く綺麗」
「あ、ありがとう」
「蒼汰がワンピが好きだって言ってたから、ワンピが似合う人は羨ましい」
「そ、そうなんだ……。結衣ちゃんも似合うと思うよ」
「全然ダメー。美咲ちゃんと違って、私に似合うワンピは存在しないの」
「……」
「ところで、蒼汰とはずっと一緒にいたの?」
「えっ? ち、違うよ。ここに来る時に偶然一緒になっただけだよ」
「ふーん、そうなんだ。まあいいや」
「……」
結衣が何となく棘がある話し方をしている気がしたけれど、多分俺の勘違いだと思うので、航に話しかけに行った。
その後、龍之介と里見さん、伊達君と前園さんが合流して、先ずは皆で夏祭りを見て歩く事にした。
歩き始めると直ぐに結衣が俺に引っ付いて来た。
結衣の服はさらっとした生地で、肩と袖の所に紐が付いていて、リボン結びになっている。
隙間から肌がチラリと見えて、ちょっといい感じだ。
胸元はかなりピッチリ目で、胸で浮いた隙間がお腹の部分でもそのまま空いている感じになっている。
もっとお胸の大きな人が着たら、隙間がすごい事になるのだろうなとか思いながら、自分の女性の服を選ぶ才能に感動していた。
ただ単に自分の好みの服という事だけどね……。
それからは、ずっと結衣が俺から離れないので、美咲ちゃんはもっぱら航と話をしていた。
イベントや屋台で立ち止まって何かする時も、美咲ちゃんと俺の間に結衣が入って来るから、いつの間にか美咲ちゃんは俺に近づかなくなってしまった。
結衣め! お前には気遣いというものが無いのか!
俺が美咲ちゃんの事を好きだと知っていて、何でそんな事をする!
いや、結衣は知らないのか……。
結衣はただ無邪気にお祭りを楽しんでいるだけかも知れないな。
少しモヤモヤしながら、射的やくじ引き、型抜きやスーパーボールすくいとかで楽しんでいるうちに日が傾いて来た。
まだ明るい時間帯だけど、提灯に一斉に明かりが灯り、昼花火の打ち上げが始まった。




