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僕の好きな人は派手で地味目で美人でブスで  作者: 磨糠 羽丹王
【高校三年の時間】 美咲の悩みと楽しい日々
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第137話 「満天の星」

(蒼汰)

 茜ちゃんご家族の歓待は続き、箸を休める間もなく夕食の準備が始まった。

 十人ぐらい座れる大きな食卓には、天ぷらやお刺身等が所狭しと並び、お漬物やみそ汁が一緒に並べてある。

 どの料理も美味しくて、何よりも自家製のお米が本当に美味しかった。

 食卓を囲んで大人数でワイワイ食べるのは初めてだったから楽しい。

 いつもこんな風に大勢で食事をするのか聞いたら、流石に今日は特別らしい。

 茜ちゃんは二人姉妹の妹で、大学生のお姉さんは県外で独り暮らしをしているそうだ。ひろちゃんの方は四人兄妹の末っ子だと言っていた。 


 食事が終わると、花火があるから皆でしようという事になり、広い庭に出て五人で花火をした。

 航は茜ちゃんから片時も離れないので、俺と龍之介はひろちゃんと三人で手持ち花火を楽しんだ。

 地面に置くタイプの花火を見て、柴犬ちゃんが喜んでいたのが可愛かった。

 普通怖がるのにね……。

 最後は夏の風物詩、線香花火で風情を味わう。

 上手に写るか分からなかったけれど、皆が楽しそうに花火をする姿を写真に収めた。


 花火を片付けて家に戻ると、お婆ちゃんがスイカを切ってくれていた。

 スイカを食べたら、お風呂に入る様に言われたけれど、その前にひろちゃんを家まで送っていく事に。


 街灯があまり無いので、懐中電灯をかざしながら歩るく。

 夜の田んぼ道は、人工的な音とかは一切聞こえなくて、様々な虫の音とカエルの鳴き声が聞こえるだけだった。

 街灯の下を通りかかると、虫が沢山集まっていて、光の周りをグルグル舞っていた。

 大きな蛾が飛んでいたので、三人で怖がっていると、茜ちゃんとひろちゃんに笑われてしまった……。


 しばらく歩いていたら、懐中電灯に向かって大きな虫が飛んで来て、航の服に留まった。航は変な声を出して慌てていたが、よく見たら雄のカブトムシだ。


「蒼汰! カブトムシ! 本物だぞ!」


「凄え! 野生のカブトムシとか初めて見た!」


「捕まえるか?」


「嘘! お前掴めるのか?」


「いや無理。噛みつかれるかも……」


「ないない……」


 俺たちがあまりに喜ぶので、茜ちゃん達が呆れていた。

 茜ちゃんは躊躇ちゅうちょなくカブトムシを捕まえると、「カブトムシとクワガタの詰め合わせで、家に百匹ぐらい送りましょうか?」と言ってからかわれてしまった。




 ひろちゃんを家に送った帰り道、茜ちゃんに言われて懐中電灯の明かりを消した。

 明かりを消すと、周りは真っ暗闇になってしまったが、茜ちゃんに促されて空を見上げると、満天の星が見えた。

 住んでいる街でも星が綺麗に見える事はあるけれど、ここで見える星の綺麗さは桁違いだった。

 俺たちは人生で初めて「天の川」を見た。

 殆ど遮るものがない場所で、見渡す限りの空に星が隙間なく瞬いていて夢のようだ。

 しばらく見ていると、流れ星がいくつも見えて、その度に俺たちは大騒ぎして、茜ちゃんに笑われた。


 闇に目が慣れて来たので周りを見渡すと、航が茜ちゃんの手を握っているのが見えた。

 おお、航。頑張ってるじゃん……。

 茜ちゃんもここまで綺麗な星空は滅多に無いと言っていた。

 俺たちは首が痛くなるまで星空を見上げていた。

 美咲ちゃんと手を繋ぎながら、いつかこの星空を見上げたい。

 瞬く星を見ながら、俺はそんな事を考えていた……。


 ----


 茜ちゃんの家は、お爺ちゃんの家の直ぐ傍に建っていて、徒歩数十秒という距離だ。

 帰るのかと思ったら、俺たちの寝床の準備をするからと言って、またお爺ちゃんの家に一緒に上がった。

 俺たちがお風呂に入り部屋に戻ると、奥の座敷に布団を敷いたからと言われて案内された。

 俺は生まれて初めて蚊帳かやというものを見て、思わず歓声を上げてしまった。

 適当にめくっていたら、茜ちゃんが笑いながら蚊帳の出入りの仕方を教えてくれた。


 座敷のふすまと廊下を隔てた所にある窓は開け放たれていて、山から下りて来る風が吹き抜けてとても涼しい。

 廊下には蚊取り線香の小さな赤い光が幾つか灯っていて、そこから細い煙が立ち上り、その煙が風で流れて来ると、何となく懐かしい香りがする。

 しばらくすると、月が昇って来たみたいで、縁側の外の景色をうっすらと照らしていた。

 静かすぎて外にいる虫の音がとても大きな音に聞こえる。

 三人で補習をサボって遊びに行こうと思った時は、まさかこんな素敵な夏の一日を過ごせるとは思っていなかった。

 温かく迎えてくれた茜ちゃんのご家族に感謝だ。


 茜ちゃんが家に帰る頃には、お爺ちゃん達は寝室で寝てしまっていた。

 自分達が寝るには少し早かったけれど、部屋の電気を点けると虫が入ってくるので、蚊帳かやの中でスマートフォンの画面に照らされながら、三人で今日撮った写真を見せ合って過ごした。

 なかなか良い写真が撮れていたけれど、航の写真は途中から茜ちゃんの写真で埋め尽くされていた。


 しばらくすると龍之介が寝てしまい、俺もスマートフォンを持ったまま眠ってしまい、夜中にメッセージの受信を知らせる振動で眼が覚めた。

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