第118話 「お花見」
(蒼汰)
三学期の終業式のあと、生徒会室で伊達君と話をしていると、生徒会役員でお花見に行きたいと言われた。
まあ、伊達君と前園さんのお花見デートに、カモフラージュとして俺と美咲ちゃんに付いて来て欲しいという事だが、もちろん俺は大賛成だ。
美咲ちゃんも、その日は夕方までなら大丈夫という事で、お花見に行く事が決定したのだ。
伊達君。分かっているとは思うが、そろそろ旅行の計画もしないといけないぞ!
お花見の場所は隣町にある結構有名な公園で、当日は天気も良く最高のお花見日和だった。
待ち合わせ場所に着いたら、美咲ちゃんが先に待っていた。
風にフワッと広がるピンク生地の花柄のロングスカートに、袖がフワフワとした感じの白のニットシャツ。それにデニム生地のジャケットを羽織って、可愛いバスケットを持っていた。
そして綺麗な茶色の髪をポニーテールにして、うさ耳リボンシュシュでまとめていた。
俺はとろけた。
呆然と美咲ちゃんに見惚れていた。
美咲ちゃんは会うたびに、俺の過去最高を更新していく。
「み、美咲ちゃん、ちょっと待って。心臓に悪いくらい可愛いね」
「本当に! ちょっと大げさだけど嬉しいな。蒼汰君ありがとう」
美咲ちゃんが笑顔を返してくれた。
不味い。腰が砕けそうだ……。
伊達君と一緒に現れた前園さんもかなり気合が入っていて、大きめの襟にレースがあしらってあるワンピースにカーディガンを合わせて、可愛いパンプスを履いていた。
学校で見る前園さんからは想像できない可愛らしいコーディネートだ。
公園には中心に大きな池があって、その周りを一周二kmくらいの遊歩道が囲んでいる。
この時期は遊歩道が全て桜で埋め尽くされるのだ。
池の真ん中に、橋で繋がった細長い島があり、そこから見る桜も綺麗だった。
しばらく四人で歩いていたけれど、前園さんと美咲ちゃんが何か話した後、別々に行動する事になった。
美咲ちゃんが「前園さんが伊達君と二人で歩きたいって」と耳打ちしてくれた。
そうかそうか。それは素敵なことだね。逆に言うと、俺と美咲ちゃんも二人になるからね! 伊達君、前園さん。君たちの関係性はとても良いぞ!
俺は美咲ちゃんと一緒に満開の桜を見ながら歩いた。
こうして二人きりで歩くのは、修学旅行以来だ。
場所によっては結構な人混みになるので、俺は思い切って美咲ちゃんの手を握ってみた。
美咲ちゃんに嫌がられたら、どうやって誤魔化そうかハラハラしながら考えていたら、修学旅行の時と同じように普通に手を繋いでくれた。
俺と美咲ちゃんが不釣り合いという事は分かっている。
でも、手を繋いで歩いくれる。
もうそれだけで堪らなく嬉しい。
ねえ! みんな見て! 俺と手を繋いでいる彼女を見て! 凄く可愛いでしょう!
俺は周りの人にそう言って回りたかった……。
公園を半周回った所にドーナツ屋さんがあるので、そこで一休みする事にした。
店内は結構混んでいたけれど、何とか席を確保できたので、ドーナツと飲物を頼んで二人でゆっくりと過ごした。
ドーナツ屋さんから見える道沿いの桜も綺麗で、席に座ってドーナツを食べながらのお花見だ。
目の前で楽しそうに話す美咲ちゃんの笑顔が可愛すぎて、真正面からヘーゼルブラウンの瞳と目が合うと、そのまま意識を持って行かれてしまい、途中から上手く話せなくなってしまう。
美咲ちゃんは本当に綺麗だ。
そろそろ公園に戻ろうという事になり、テーブルの上の食器類を片付け、店を出る前に美咲ちゃんはトイレに行った。
しばらくすると、席を探していたカップルが席に近づいて来て、顔をまじまじと覗き込まれた。
「あれ? もしかしてあんた上条?」




