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僕の好きな人は派手で地味目で美人でブスで  作者: 磨糠 羽丹王
【高校三年の時間】 掛け違う気持ちと本当の想い 
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第116話 「いやいや、それは絶対ない」

(美咲)

 住んでいる家を退去しないといけなくなり、私はある方法に一縷いちるの望みを託すしかなくなっていた。


 洗い物を終わらせると、少しだけ身支度を整えて、私はリビングのソファーの前に立った。

 ソファーには、蒼汰さんのお父様が座っている。


「あの、上条様。少しご相談があるのですが……」


 蒼汰さんのお父様は、慌てて上体を起こして、私の方を振り向いた。


「はい。何でしょう?」


「実は、私が住んでいる家が、大家さんの都合で急に住めなくなってしまいまして」


「あらら、それは大変な事になりましたね」


「それで、住む場所を探してはいるのですが、なかなか見つからなくて……」


「そうですか。この辺は家賃も高いですしね」


「あの……それで、大変厚かましいお願いとは承知しているのですが……」


「はい?」


「いま使わせて頂いている二階のワークルームに、住み込みで置いては頂けないでしょうか?」


「え?」


「次に住む場所が見付かるまでで結構ですので、何とかお願いします」


 私は頭を下げて返事を待った。

 でも、どう考えても有りえないお願いだった。


「ええ、もちろん良いですよ! 来栖さんが住み込みで来てくれるなら、うちは願ったり叶ったりですよ!」


「……そ、そこを何とか……え?」


「え?」


 断られると思っていたら、まさかの即答でOKだった……。


「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」


「何日からですか? うちは明日からでも大歓迎ですよ」


「ご厚意に感謝致します」


 私はもう一度深々と頭を下げて、ひとまず落ち着く先を見付けられたことに安堵した。

 今日はまだ洗濯をしていないので、急いで洗面所へ行き洗濯機を回し始める。

 安心感からか、私はそこでへたり込んでしまった。

 洗濯槽の中で回る洗濯物を見ながら、嬉しいのか苦しいのか良く分からない感情で涙が出て来た。


 高校二年生も終わろうかとしている三月のとある日。

 「天野美咲」こと「来栖ひな」は、住み込みの家政婦として上条蒼汰君と同居する事になったのだ……。


 ----


(蒼汰)

 期末考査が終わった。

 そんなに長い期間勉強をしていた訳ではないが、試験が終わった日の解放感は代えがたいものがある。


 今回もまた生徒会室で勉強会をしていたけれど、何故か美咲ちゃんは元気が無かった。

 今日も放課後に試験の打ち上げと称して、いつものファミレスに皆で行く事になったけれど、美咲ちゃんは用事があるとかで帰ってしまった。

 美咲ちゃんが深刻そうな顔をしているのが、とても心配だ。




 最近、俺は来栖さんと仲良しだ。

 食事の時に色々な話や、相談をしている。

 来栖さんは、俺よりひと回り以上年上なので、俺の相談に大人な感じの良いアドバイスをくれたりする。

 最近は、来栖さんの不気味な容姿も全く気にならなくなり、無言で見つめられても怖くなくなった。慣れたのかも知れない。


 そして今日、父親に呼ばれて何か改まった感じで話し出すから、少し嫌な感じがした。

 こいつまさか、バツ三予備軍に入隊するつもりか? その話か?

 そんな事を疑っていたら、なんと来栖さんが住み込みになる話だった。

 凄く嬉しい話だった。

 でも、俺があまりにも喜ぶので、


「お前、まさか来栖さんと……」


 などと、親父がとんでもない事を聞いて来る。


「いや、親父こそどうなんだよ?」


 結局、二人とも「いやいや、それは絶対ない」という事で、珍しく同意見で話が終わった。

 こんな話、来栖さんに聞かれたら、黒魔術で痛い目に遭わされるかも知れない……。


 来栖さんは、お昼間は別の仕事があるらしくて、朝食を作った後に俺より先に家を出る。

 朝から晩まで働いて、来栖さんは本当に凄いと思う。

 住み込みで働くにあたり、色々なルール作りが必要になると思うけれど、それは住み始めてから決めて行こうという事になった。


 そして、来栖さんは三月の半ば過ぎに引っ越して来たけれど、驚くほど荷物が少なかった。

 箪笥たんすがひとつと、小さめのテーブルと鏡台ぐらいしか無かった。

 不思議に思って聞いてみたら、大きな家具類は次に住む家が決まるまで遠くの親戚の家に預かって貰ったそうだ。


 とにかく、俺は朝から来栖さんのご飯が食べられる様になってとても嬉しい。

 それに夜十時を過ぎても来栖さんが居るので、遅くまで話が出来るのが楽しかった。

 来栖さんは、時々俺の部屋に来ては漫画や小説を借りて行き、後でその内容について話したりしている。

 俺は家族がひとり増えたみたいで嬉しかった。


 これで来栖さんが美人だったら、最高なのになぁ……。

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