第115話 「路頭に迷う」
(美咲)
二年生最後の期末考査が終わった。
周りのみんなは解放感で楽しそうだけれど、私は試験の結果とか解放感とは全く無縁の状態だった……。
昨年の八月に母が居なくなり、銀行口座が凍結され、生活する為に色々な支払いが必要だった。
自分の生活費に加えて、社会保険料やマンションの費用、そして来月からは学費の支払いも必要になる。
私が未成年で法定代理人が居ないので、何かをしようと思っても、色々と難しい事がある。
親戚は母方の叔母が遠くに住んでいるが、昔から折り合いが悪く、法定代理人など到底頼める状態では無かった。
そもそも、両親とこれほど長期で連絡がつかなくなる事や、父への疑惑で銀行口座が凍結される事などは想定していなかったから。
それに「天野美咲」と「来栖ひな」を使い分けて生活している事でも、困ることが本当に多い。
そして最大の問題が、父が代表を務めるNPO法人の借入の返済の事だった。
そのNPO法人は、父の赴任先であるアルシェア共和国の子ども達への支援を目的に作られた団体で、現在は支援活動自体が出来なくなっているらしい。
私には理由は分からないけれど、問題は父が融資を受ける際に、このマンションを担保にしていた事だった。
金融機関からは半年以上返済不能になっている事についての連絡が度々来ていたけれど、私にはどうする事も出来なかった。
金融機関の担当者と話をする事になり、先方もこちらの事情を十分理解しているが、何かしらの対応は必要という事で、ある提案を頂いた。
このマンションを貸別荘にするという提案だった。
金融機関は担保権の実行を行わない代わりに、このマンションを貸別荘として運用し、その収益を一旦支払いに回すことで、返済中という体裁を整えるという事だった。
本来は権利者不在の契約になるので、法的に問題があるらしいけれど、両親が帰国したり銀行口座の凍結が解除されれば、直ぐに契約を解除するという事と、この契約で問題が起きた時は、先方が全て責任を持つという事で、話を進める事になった。
そして私はこの家を出ないといけなくなったのだ……。
マンションにかかる費用は今まで通り必要なので、月々に掛かるお金は変わらない。
その上で何処かに部屋を借りないといけない。
でも、そもそも未成年の私が自力で部屋を借りる事は不可能だった。
流石に、契約や保証人を頼める人はいない。
それに、もし借りられたとしても、月々の家賃を支払う余裕は私には無かった。
退去の約束の日までは、あと三週間しかない。
私は高校を辞めて、どこか未成年でも雇ってくれて、寮とかがある仕事に就こうかとか考えていた。
でなければ、私は路頭に迷う事になる。
段ボールのお家って温かいかしら……。
家からの退去日が迫るなか、私は誰にも相談する事ができず、正直高校の退学を真剣に考え始めていた。
ただひとつだけ、何とか今の生活を続けられる方法を思いついたけれど、それはかなり難しい方法だった。
でも、私には残された時間が殆ど無い。
その方法に一縷の望みを託すしか無くなっていた……。




