第114話 「あのね美咲ちゃん……」
(美咲)
お世話になった先輩達が卒業された。
体育祭の時から、学校の事を良く知らない私を可愛がって下さり、本当に仲良くして頂いた先輩達。
望月先輩と夏目先輩とは握手をして、早野先輩には頭を撫でて貰った。
本当にもう会えなくなると思うと、とても寂しい気持ちになる。
三人の先輩とお別れした後、美麗先輩にお礼が言いたくて、先輩が出て来るのを待っていた。
先輩は国内でも有数の女子大に進学して、国際交流について学ぶそうだ。
父の仕事の関係上、私も海外に行く事が多かったので、学びたいと思っている分野だ。
いつもの凛とした姿も、目指す生き方も本当に憧れる素敵な先輩……。
先輩は大人気で、なかなか話せなかったけれど、私と蒼汰君に気が付くと、先輩の方から寄って来て下さった。
私は先輩に今までのお礼を言うと、最後に先輩に抱きついてしまった。
先輩は「ありがとう」って言いながら抱きしめてくれて、そのまま耳元で話し始めた。
「あのね美咲ちゃん……」
私にしか聞こえない小さな声。
「私、美咲ちゃんには勝てなかったな……」
「えっ?」
言われている意味が全く分からなかったけれど、私はある事に気が付いた。
美麗先輩からあの香りがしたのだ。
「あなたが、もし蒼汰君の手を放す様な事をしたら、私は……」
「せ、先輩?」
「なんてね! 美咲ちゃん元気でね!」
先輩は私をギュッと抱きしめると離れて行った。
美麗先輩の言葉と、先輩からしてきたあの香りで、私の頭の中のピースが全て繋がった。
今までその事に全く気が付かず、先輩の事は完全に蒼汰君のお相手の対象として考えていなかった。
実は蒼汰君がいつも会っていた例のお相手は、まさかの美麗先輩だったのだ……。
ええー! 嘘ー! 蒼汰君のお相手って美麗先輩だったの!?
そ、蒼汰君凄い!
それに、美麗先輩とキスした上に、他に片思いの相手も居るの?
やっぱり、蒼汰君は女性関係要注意ね……。
あれ? でも、美麗先輩が勝てなかった相手って、私じゃなくて蒼汰君の片思いの相手だと思うのだけれど……。
蒼汰君と先輩のお別れがどんな風になるのかドキドキした。
いきなり抱き合って、キスとかし始めたらどうしようとか思っていたけれど、美麗先輩は蒼汰君とは簡単に挨拶しただけで、直ぐに行ってしまった。
蒼汰君が呼びとめて手を振っていたけれど、特別な素振りを見せずに、いつもの凛とした雰囲気で、私たちの前から去って行った。
やっぱり素敵だなぁ。
蒼汰君との事を知って本当に驚いてしまったけれど、私の先輩への憧れは変わらない。先輩の様な素敵な女性に成りたい……。
これから期末考査があり、しばらくすると春休みになる。
先輩達が学校を去り。私と蒼汰君の高校二年の時間が終わろうとしていた。




