第11話 「地味目の服」
(美咲)
派遣会社から電話がかかって来た。
私の希望していた時間帯に急に空きが出たらしく、明日から行けるか確認の連絡だった。もちろん即答でOKした。
本当は派遣先の事を詳しく聞くべきなのだろうけれど、今の私には選り好みする余裕は無い。
『仕事の内容は掃除と洗濯と夕食を作る事。勤務時間は十八時から二十二時まで』
問題無い。むしろ希望通りの勤務時間だった。
『食事に使う食材代は、その日の日当と合わせて次の日の分を先方から受け取ること』
今の状況で日払いでお給与を貰えるのは本当に助かる。お財布の中にはお金があまり残っていないから。
『先方には明日から私が来るという事を連絡しておくので、明日十八時までに指定した住所に行くように』
良かった! 何とか生活費を稼ぐことが出来そう。
さあ、明日から頑張らなくちゃ!
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電話を切った後、しばらくして派遣先の住所が送られて来た。学校から結構近い場所だ。
とはいっても、家政婦のバイトに学校の制服のままで行く訳にはいかないので、一旦帰宅して着替えてから派遣先に行く事になる。
地図で調べると、いつものバス停から住宅街の方に入って行った先のようだ。
まあ、往復で一時間もかからないし、交通費は定期があるから問題ない。
そういえば地味目の服を探さないといけなかった。
自分のクローゼットを探してみたけれど、流石に地味目の服は持っていない。
母からは「ひなの服は派手なのが多いわね」と言われて、その時はそんな事ないと思ったけれど、こうして見ると母の言っていた事も分かる気がする。
仕方なく母の部屋を探すことにした。
部屋中を探した挙句、見つかったのはグレー色の地味なアバヤという服だった。
父の赴任先のアルシェア共和国はイスラム教徒が多く、母も外出する時はアバヤを纏ってヒジャブというベールで髪を隠していた。
外国人はそこまでする必要はないが、余計な軋轢を生まない為にも、現地の文化に従うのが礼儀だと母は言っていた。
着るかどうか悩んだが、今は服を買う余裕は無い。
お金に余裕ができるまでこの服で仕事をすることにしよう。
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翌日、親の会社の手伝いをしなくてはいけないという理由で、委員の仕事をするのが少し難しくなることを結衣ちゃんに伝えた。
「私と蒼汰がいるから大丈夫! 忙しい時はお互い様だから気にしないで!」
結衣ちゃんはそう言ってくれた。
でも、結衣ちゃんがそのことを上条君に伝えに行くと、上条君は溜息をついてそのまま動かなくなった。多分怒っているのだろう。ごめんなさい……。
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放課後、派遣先の家の場所を帰宅前に確認しに行く事にした。
昨日の晩に地図を見て場所は確認している。
バス停まではいつもの通学路なので直ぐに到着。
ここから海とは反対側の住宅街に入っていき、何箇所か角を曲がった所に有るはずだ。
道が何本かあるけれど、確かこの道で間違いない……。




