第109話 「いったい何時からどうして?」
(蒼汰)
「蒼汰君。私は君のにわかファンじゃないんだぞ」
いつか先輩に聞いてみたいと思っていた。
いったい何時からどうして? って。
俺はてっきり体育祭の後だと思っていたから、余りの急展開にキツネにつままれたような感じがしていたのだ。
先輩の話を聞いて、これまで疑問に思っていた事がやっと解けた気がした。
言われて初めて思い出したけれど、入学して直ぐに校内で生徒手帳を拾い、二年生の女の子に届けに行った事があった。
俺はその時期、女の人とは話せなかったから、殆ど何も言わずに俯いたまま手帳を渡して帰ったらしい。
手帳には、住所や生年月日、携帯番号まで書いてあったらしくて、頻繁に男子生徒に言い寄られて、うんざりしていた先輩は、絶対後から連絡してくると思って、警戒していたらしい。
でも、全く連絡や接触も何も無くて、変な奴だと思い、逆に少し興味が湧いたと……。
次に俺を見かけたのは、校門前の花壇で花の世話をしているところだったらしい。
きっと何かの罰でやらされていると思ったら、毎日毎日、辛い仕事なのに黙々と校舎内の花壇の世話をしている姿を見て、疑った目で人を見ていた自分が恥ずかしくなったと言っていた。
実際のところは、人と接触しなくて良い園芸委員を引き受けて、その仕事をしている限りは人と話さなくて良かったから、喜んでやっていただけだけれどね……。
それからは、俺が花壇の世話をしているのをいつも見ていたらしい。
女の子とは一切話さない超硬派な所が、他の軟派な男共とは違っていて、更に好感を持っていたと言っていた。
そんな時に、花壇の世話をしながら、学校をうろついている猫と楽しそうに戯れる姿のギャップに萌えて、一気に好きになってしまったそうだ。
「超硬派」の下りで、思わず噴き出してしまった。先輩それ勘違いです……。
それから学内の花壇はいつも綺麗で、美麗先輩も時々水やりとかを、してくれていたらしい。
学内の花壇が何故綺麗なのかを、他の生徒は知らなかったけれど、先輩以外にひとりだけ知っていた人が居たらしくて、それが元生徒会長の夏目先輩だったと教えてくれた。
夏目先輩からの「生徒会長選挙押し」は、それを知っていたからだったのだ。
みんなの為に黙々と頑張る俺は、生徒会長に相応しいと思っていたらしい。
先輩それも勘違いです……。
バレンタインデーにどうしてもチョコを渡したくて、でも拒否されるのが怖くて、誰からか分からない様に靴箱に置いたと教えてくれた。
そして三年生になって、俺が花壇から居なくなったと思ったら、元気の良い女の子と話しているのを見て、彼女が出来たのだと思ったと……。
悲しかったけれど、それからも時々遠くから見ていたらしい。
そしたら体育祭の時に、女の子を背負って保健室に行く俺の姿を見て、余りに格好良くて、このまま気持ちを伝えずに居たくないと考える様になったらしい。
でも傍に行ったら、美咲ちゃんを見つめる俺の視線に気が付いてしまって、色々悩んだ末のクリスマス・イブだったと教えてくれた。
話を全部聞くと、俺がいま美麗先輩と一緒にいるのは、先輩の勘違いの積み重ねの結果であって、先輩を騙しているようで申し訳なくなってしまった。
だから、先輩の勘違いを最初からひとつひとつ説明した。
先輩は説明を聞くたびに笑ってくれた。
「だからといって、君への気持ちが変わったりしないよ」
説明が終わった後、俺をじっと見つめながら、そう言ってくれた。
「過去の事はあくまで切欠で、こうして話せるようになってからの気持ちが本物だから……」
そう言いながら、先輩は席から腰を浮かせて、前屈みで顔を近づけて来た。
このままキスだ!
ドキドキしながら待っていると、先輩はキスができる距離の手前でストップしてしまった。また寸止めだ……。
でも、前屈みの先輩のお胸がしっかりと見える位置で、目線が行かない様に我慢してたけれど、やっぱり見てしまった。
薄紫の素敵なブラに包まれたお胸が目の前に並んでいる。
先輩キスして! そしてお胸に顔を埋めて良いですか? 俺、我慢の限界です……。




