第108話 「ずっとお預け」
(蒼汰)
今日は美咲ちゃんに激怒された。
勘違いとはいえ、怖くて久しぶりに落ち込んでしまった。
やっぱり女性はまだちょっと怖いかも……。
でも、美咲ちゃんからバレンタインのチョコを貰えたのだ。
素直に嬉しい。
もしかして美咲ちゃんは俺の事……これは希望的観測過ぎるな。
家に帰りつくと美麗先輩からスマホにメッセージが来た。
『チョコを渡したいから、会いたいな♥』
嬉しくなって、慌てて出かける準備を始めた。
きょ、今日はもしかしたら……キスとか、それ以上とか……。
妄想が際限なく広がって行く……。
美麗先輩に会えるのはとても嬉しいけれど、卒業までのタイムリミットは日々迫っていて、卒業後は先輩は遠くへ行ってしまう。
このままキス無しの平行線で、先輩との関係は終わってしまうのかも知れない……。
待ち合わせ場所に辿り着くと、先輩は確実に俺を殺しに来ていた。
コートの下はノースリーブのニットワンピースで、胸元がバッチリ見える格好だった。会った瞬間からJrが暴動を起こしそうだ。
先輩に連れられて雰囲気の良い喫茶店に入る。
観葉植物とか間仕切りが上手に配置してあって、隣の席が殆ど見えない個室の様な席だった。
間接照明に照らされた先輩が更に色っぽく見える……。
「蒼汰君。まず一番最初に聞きたい事があるのだけれど」
「えっ? は、はい」
「その頬の紅葉マークは何?」
「え、いや、その……」
「蒼汰君って、もしかして私以外の女性と付き合ってる?」
「い、いえ、とんでもないです。そんな事ありえません」
「じゃあ、その明らかに女性に叩かれた跡は何?」
「……」
俺は渋々今日の出来事を先輩に話した。
先輩は涙が出るほど笑っていた。
でも、笑う度に短いワンピースの裾から下着が見えたり、胸の谷間が覗いたりして、俺は先輩とのこれからの関係が気になって仕方が無かった。
「美麗先輩。今日は凄く色っぽいですね……」
そっちの話に持って行きたくて、そんな事を言ってしまった。
「ありがとう。今日は蒼汰君を誘惑しようと思ってね」
「先輩酷いなぁ。それって”蛇の生殺し”って言うんですよね? キスもしてくれないのに……」
「お、気付いてた?」
「当たり前ですよ。ずっとお預けじゃないですか」
「ごめんね……。私の事嫌いになった?」
「い、いえ……」
「ハイ、これ」
美麗先輩がバレンタインのチョコを渡してくれた。
「開けてみて」
「はい……」
俺は包み紙を開けた。
「上条君へ」って書いてあるカードが入っていて、箱の中に高そうなチョコが四つ入っていた。
全く同じものを見たことがある。去年のバレンタインデーだ!
「み、美麗先輩。これってもしかして?」
「覚えてた?」
「ええ、もちろんです。え、でも何で? え、え?」
「蒼汰君。私は君のにわかファンじゃないんだぞ」




