第104話 「もう嫌……」
(美咲)
明日はバレンタインデー。
蒼汰さんのお父様と、蒼汰さんに渡すチョコは購入した。
今は蒼汰君に渡すチョコを作成中。
クリームを温めて、チョコと混ぜ合わせて……。
後は冷やして形を整えて、ココアパウダーをかけたら生チョコの完成♪
初めて作るから、上手く出来るか分からないけれど、失敗したら何度でも作り直すわ。
蒼汰君は沢山貰うと思うけれど、私のも喜んでくれたら嬉しいな。
話は戻るけれど、修学旅行から帰ってきたあの日。
『来栖ひな』からのお土産は、パッケージのままだと蒼汰君が気付いてしまいそうだったから、包装紙を取って何も書いていない箱の状態で「お土産です 来栖より」って書いて食卓に置いて帰ったの。
中身はあの丸くて可愛いお菓子『地獄で天国ポムポム』よ。
帰りがけに、蒼汰君が「修学旅行のお土産です」って言って、お土産をくれたの。
家に帰って袋から出してみたら『地獄で天国ポムポム』だった。
あんなに色々お土産品があったのに、お互いポムポムを選ぶだなんて……。
もう可笑しくて、しばらく思い出すたびに笑ってしまったわ。
ポムポムはとっても美味しかった。
私たち気が合うのかな?
生チョコは三回目で綺麗な形にすることが出来た。
ラッピングをして、簡単なメッセージカードを付けたら完成。
別に「告白」って事ではないから、普通に渡せれば良いな。
告白じゃないわよね……?
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バレンタインデーの当日は、男子も何か変だけれど、女子も大変。
本命チョコを渡す為に、独りで想いを込めて行動する子もいるけれど、仲の良い子達で、授業の合間の休み時間にトイレとか人気の無い所に集まって、報告や応援で大忙し。
私は結衣ちゃんが蒼汰君に渡すタイミングに合わせて、何気なく渡そうかと思っていたけれど、結衣ちゃんと相談していた訳でも無かったので、タイミングがズレて渡せなかった……。
そしたら、お昼休みは蒼汰君はモテモテで驚いたけれど、みんな早野先輩宛だった。
途中で蒼汰君目的の人が居るかも知れないと思って、本を読むふりをして聞いていたけれど、早野先輩の名前しか聞こえて来なかった。
蒼汰君お疲れ様ね。でも、ちょっと嬉しいのは何でかしら……。
結局、タイミングが無くて、放課後の生徒会室で渡す事にした。
前園さんの前で渡すわけにはいかないので、もし前園さんが一緒にいたら靴箱に入れて帰ることにする。
靴箱に置くのは、ちょっと告白っぽくなるけれど、仕方がないわね……。
修学旅行以降、前園さんとは特に問題無く過ごしている。
蒼汰君が、時々あの香りをさせて帰って来るので、ちょっとイライラする日もあるけれど、普段の前園さんと蒼汰君は全くそんな感じを見せない。
むしろ、伊達君との方が仲良く見えるくらいだった。
それでも、私が蒼汰君と仲良く話していると、じっとこちらを睨んでいる時が有るので、やはり警戒されているのかもしれない……。
そんな事を考えながら、生徒会室のドアを開けた。
生徒会室の床で、蒼汰君と前園さんが抱き合っていた。
キスをしたのか、蒼汰君は前園さんの頭を抱きかかえていて、そして前園さんのスカートが捲り上げられていて、下着が全部見えていた。
あっ……。
まさか二人が学校でそんなことをする関係だとは思っていなくて、驚きと共に絶望と悲しみと嫌悪感が一気に押し寄せて来た。
もう、一瞬もこの場所に居たく無くて、私は生徒会室から逃げ出した。
蒼汰君が何か言っていたけれど、いったい何を言うつもりなの?
酷い。酷すぎる……。
今日、私が生徒会室に来ることは分かっていたはず。
それなのに、何であんな事をするの?
二人がいやらしく抱き合う姿を、どうして私に見せないといけないの?
前園さんの仕返し?
私が悪いの?
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「美咲ちゃん待って! ちょっと待って! 話を聞いて!」
蒼汰君が追いかけて来ているのは分かっているけれど、顔を合わせたくなかった。
何度も叫びながら、追いかけて来るけれど、今更いったい何の話があるの?
もう止めて、私に優しくするのは止めて。
アルバイトも辞める。
他のアルバイトを探す。
私の中の蒼汰君を全部追い出して、独りぼっちになってでも生きていく。
もう嫌……。




