第102話 「バレンタインデー」
(蒼汰)
修学旅行が終わり、いつもの日常が帰って来た。
授業を受け、生徒会室に行き、家に帰り、来栖さんの美味しいご飯を食べ、また次の日学校へ行く。
そんな普通の日々が続き、あっという間に二月になり二週間が経とうとしている。
もちろん、その間に早野先輩達が家に遊びに来てくれたり、美麗先輩とキス無しデートをしたりと、それなりにイベントはあった。
でも、美咲ちゃんと一緒のイベントは無くて、生徒会室で時々話すだけ。
美咲ちゃんと修学旅行で手を繋いで歩いた思い出は、遠い昔の夢物語の様になってしまった。
でも、明日はやって来る!
明日はバレンタインデーだ!
とはいっても、去年までは悲惨な日でしかなかった。
唯一、結衣がここ数年「義理と人情!」とか「失敗作! ゴミ!」ってメモの付いたチョコをくれていただけで、他の女性から貰った事は無い。
いや、去年は誰からか分からないチョコが靴箱に置いてあって、他の人の靴箱と間違えたんじゃないかと思い、仕方なく結衣に相談してみた。
女性が怖くて誰とも話せない時期だったので、悪戯以外にチョコが貰える訳が無かったからだ。
結衣が包みを開けてくれて「上条君へ」って書いてあるカードを見付けて、結構有名なチョコ専門店のチョコだから「悪戯じゃ無いと思うよ」って教えてくれた。
四つ入っていたチョコは、半分結衣に食べられてしまった。
そういえば、結衣とはこの件を境に、また話せるようになったのだ。
でも、結局誰から貰ったのか分からないままで、結衣以外誰も知らない話になっている。
でも、今年はきっと貰えるはずだ、美麗先輩はキスはしてくれなくても、チョコはくれるんじゃないかと思う。
結衣の義理チョコも例年通りだろう。
もしかしたら『気遣いの人』来栖さんからも貰えるかも知れない。
そして、俺の最大の期待を背負うのは、もちろん美咲ちゃんだ。
義理チョコでも『地獄のボムボム』でも、チョコの欠片でも良い。
美咲ちゃんから、バレンタインデーのチョコを貰いたいのだ!
貰えれば天国、貰えなければ地獄巡りの日々が始まる。
今日眠りに着けば、明日は月曜日でバレンタインデーだ。
神様、お願いします! 良い子になるから……。
----
朝、靴箱を開ける。
上靴が静かに佇んでいた。
いつもと同じ風景……。
まあ、そうだよね。
朝一で入っている事は無いよね。
教室に入り、机の引き出しをそれとなくチェック。
リボンがかかった何かが置いてあった。
あったー! チョコ来たー!
ワクワクしながら、周りから見えない様に取り出したら、ブックカバーにリボンが掛けられていて「航子より♥」ってメモ紙が付いていた。
航に貸していた【恋する魔法少女マロンちゃん 激闘編 ~だってそれ、お芋のペーストじゃないの!~ 】だった。
航の方を見たら、ニヤニヤしてこっちを見ていた。
あの野郎、この返し方は悪質過ぎる……。




