第100話 「これだわ!」
(美咲)
結衣ちゃんが羨ましかった。
バスに乗って直ぐに隣から居なくなったと思ったら、蒼汰君と一緒に空いている席に移動して、何の躊躇も無く膝枕で横になっていた。
結衣ちゃんが蒼汰君と大の仲良しなのは分かっている。
でも、余りに密着する姿を見て、二人の関係を疑ってしまう。
席に帰って来る直前も、蒼汰君とキスした様に見えた。
やはり蒼汰君のお相手は、結衣ちゃんなのかも知れない。
蒼汰君とデートするときだけ、あの香りのする香水を付けているのかも……。
そんな事を考えると、胸が締め付けられて悲しくなる。
嫌な想像をして落ち込んでいたら、結衣ちゃんが笑顔で帰って来た。
「ヤバー。蒼汰のズボンにヨダレ垂らしちゃった。お詫びにほっぺにチューして逃げて来た!」
笑いながらそんな事を言うから、また混乱してくる。
結衣ちゃんが蒼汰君とどんなに仲良くしても、誰も咎めない。
前園さんも結衣ちゃんを意識している感じはしない。
前園さんが例のお相手だとしたら、とても不公平だと思う。
私が蒼汰君と仲良くすると、二人から咎められている気がする……。
帰りの新幹線も、気が付いたら結衣ちゃんは居なくなっていて、最後尾の席を対面シートにして、蒼汰君の目の前にあたりまえの様に座っている。
私も行きたかったけれど、他の女の子が横に座って話しかけて来たから行けなかった。
話していた女の子が席に戻ったから、振り向いて見てみたら、行きと違って何だか静かだった。
気になって覗きに行くと、結衣ちゃんは蒼汰君の上着を膝に掛けて貰っていて、グッスリと眠っていた。
蒼汰君もうたた寝しているみたいだったから、コッソリ横に座り二人を観察してみた。
寝ている二人は何だか平和で、イライラしていた自分が馬鹿みたいに思えて来る。
色々な考えが浮かんで来て、もう何が正解なのか分からない……。
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車内アナウンスで目が覚めた時、私は蒼汰君にもたれかかって寝ていた。
偶然じゃなくて、眠くなってきた時に自分で蒼汰君の肩に寄り掛かったから……。
蒼汰君も起きていて、私が目を覚ました事を知っていたけれど、私を押しのけるでも無理に起こそうとするでもなく、黙って肩を貸してくれていた。
多分あと十分位で終点に到着する。
到着したら、蒼汰君は私の傍から消えてしまう。
例のお相手と直ぐに会うのかも知れない。
私はまた独りぼっちだ……。
寂しくて涙が出て来たから、顔を上げられなくなってしまい、そのまま少し待って貰った。
蒼汰君。甘えてばかりで、ごめんなさい……。
皆が降りる準備を始めて、周りが賑やかになってきた。
このままだと、周りの人に見られて蒼汰君に迷惑が掛かってしまう。
頑張って起き上がって、蒼汰君にお礼を言って荷物を取りに席に戻った。
その後、結衣ちゃんが戻って来て一緒に降りる準備をした。
準備をしながら、ここ数日の事を思い出していた。
思い出してみたら、私の修学旅行の思い出は蒼汰君一色。
お風呂以外の全ての時間を蒼汰君と過ごしていた気がする。
そういえば、お風呂も一緒に入ったわね……足湯だけど。
そう思うと、少し嬉しくなって元気が出て来た。
駅からの帰りのバスには、蒼汰君と結衣ちゃん、それと航君が一緒に乗っていた。
先に航君と結衣ちゃんが降りて、蒼汰君がいつものバス停で降りて行った。
蒼汰君に手を振りながら、次に蒼汰君の家に行く日の事を考えていた。
アルバイトを休む日が、修学旅行の日程と全く一緒だとあれだと思ったので、わざわざ明日の土曜日も休みにしたから、行くのは三日後になる。
うーん。長いなぁ……失敗した。
家に戻ると、当たり前だけれど誰も居ない。
みんなとずっと一緒に居たから、余計に寂しくなってしまう。
蒼汰君や他の人と会えるのも、蒼汰君の家に行くのも、三日後の月曜日。
それまで、この寂しさに耐えきれる自信がない。
どうしよう……。
それから寂しさを紛らわす方法を考えていたら、ある考えが閃いた。これだわ!
私は閃くと同時に、ワクワクしながら、急いで準備を始めた……。




