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君がいるだけで-9

 理江子の部屋に入ってから美恵子はひと言も話し出さなかった。一緒に下校しようと誘いかけておきながら、道々ほとんど話すこともなく、ただ、

「ちょっと、話したいことがあるの」とだけ、言って、そのまま理江子の家にやって来た。

 香りを失いつつある紅茶をかき混ぜながら、美恵子はぼんやりとしているようだった。理江子はそんな美恵子の様子が心配になっていたが、話し掛けることもできず、じっと美恵子が口を開くのを待った。

 何分たっただろうか。美恵子は、すっとカップを手にすると静かに口をつけた。そして、ひと息つくと、きっと理江子を見据えた。理江子は一瞬怯んだが、美恵子の瞳が優しい輝きを湛えていたのを見て取ると、微笑みながら訊ねた。

「どうしたの、ミエちゃん?」

「あのさぁ、リエちゃん」

どこか思い詰めたような雰囲気が漂っていると理江子は思った。

「リエちゃん、ジロー君のこと、どう思う」

「そんなこと、あらたまって訊かれても…」

「……ジロー君のこと、好き?」

「…そ、そんな…、ずっと昔から一緒だから」

「ん、そうだね。……あたし、いま、思い出してたんだ、いつから、一緒だったかなって」

「いつだろう」

「イチローの方はよく覚えてるの。幼稚園の時、入園してすぐぐらいに、ケンカして泣かされたんだ」

「ミエちゃんが?」

「ん。意外でしょ。…でも、泣かされたんだ。……ジロー君は、いつだったかな?」

「あたしは、ジロー君のほう、覚えてる。幼稚園の時の遠足で一緒にお弁当食べたの。たぶん、それが初めて…」

「一緒の組だったのにね」

「ミエちゃんのこと意識したのは、お遊戯の時間だったよ。ほら、可愛いエプロンしてたじゃない?羨ましくて、あたしもおねだりして可愛いアップリケつけてもらったの」

「リエちゃんとは、一緒に帰ってたよね、いつも」

「うん」

「そんな頃から一緒なんだな…って、思うと、すごいね」

「うん」

「えーと、八年くらい…、九年目ね」

「そんなになるのね」

「……でも」

「…何?」

「リエちゃん、ジロー君のこと好きなんでしょ」

「ミエちゃん、そんなこと……」

「いいのいいの、同じ女同士じゃない、わかるわよ」

「でも、ミエちゃんも、ジロー君のこと好きでしょ」

「いいのいいの、あたしはこんなだしね。それに、わかってるの……ジロー君の気持ちも」

「……ぇ?」

「二人とも、おとなしくて優しくて、お似合いだよ。あたしが保証する」

「…ミエちゃん」

「それにね、…リエちゃん、だったら…、あたしも諦められる」

「…ミエちゃん」

「リエちゃん、いまのうちだよ。早くしないと、取られちゃうよ」

「……そんな……こと、言っても」

「このまま、幼なじみでいいの?」

「……」

「もし、リエちゃんが行かないんなら、あたしが行っちゃうわよ」

「……、……いいよ」


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