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君がいるだけで-8

 ロールスロイスが去った後、二郎は大きくため息をついた。制服のボタンを外しながら家に入り、階段を上がって扉を開けると、イチローが座り込んで二郎を睨んだ。

「あ、ただいま」

「おかえり。どうでした、お嬢様の相手は?」

不機嫌そうな一郎の様子に二郎は、いつものことだと思いながらも、今日の機嫌の程度を探るように弱く答えた。

「やめなよ、そんな言い方は。まぁ、堅苦しくて、落ち着かなかった、ていうところ」

「それで?」

「それでって?」

「そんなので、お嬢様は、お見送りまでしてくれるのか?」

「あぁ、見てたの。車で送ってくれたんだ。途中だからって」

「それで、終わりか?」

「…ん。来週の日曜、自宅の方に招かれてるんだ……」

「何のために?」

「ピアノを聞かせてくれるって。理沙さんの」

「どうして?」

「どうしてって、今日コンサートへ行った後で、そんな話になって、それで…」

「おい、ジロー」

「何?」

「お前、そのお嬢さんのことどう思ってるんだ?」

「どうって……」

「いや、それよりも、聞いておきたいのは、リエちゃんのことはどう思ってるんだ?」

「どうしていきなりリエちゃんのことが出てくるんだよ」

「ミエちゃんでもいいけどな…。お前、どっちが本命なんだ?」

「兄さんいきなり何の話してるんだよ」

「何のって、誰が本命なんだってことだよ」

「そんな、ボクたち中学生だし、ボクはクラブが大変だし」

「何言ってんだよ。オレだって、クラブやってて、あやちゃんがいるんだ。オレよりもてるお前が何してるんだ。はっきりしろよ」

「はっきりって言ったって、…そんな」

「お前、ボケてんのか?リエちゃんやミエちゃんが、お前のことどう思ってるか知らねえなんて、言わせねえぞ」

「そんな、いきなり言われても」

「今度はお嬢様までつまんで。ジゴロ気取りか?」

「そんなつもりなんかないよ。それに……」

「なんだよ?」

「今は、クラブのことで頭が一杯なんだ」

「へん!のこのこ、お誘いに出掛けて、クラブで手一杯なんて、笑わせやがるな!いいか、いつまでもうじうじふらふらしてるんなら、オレがただじゃおかねえからな!」

「…そんなじゃないんだよ」

「うるせえ!もう、いい!オレは寝る!」

一郎はばたばたと押し入れから布団を引きずり出すと二郎の言葉も聞かずに布団にもぐ込んだ。完全に頭まで布団をかぶってしまった一郎を前に二郎はため息をついた。こうなっては一郎に何を言っても聞いてくれないのはわかっていた。二郎は、一郎の逆鱗に触れないように静かに着替えて布団を出すと、灯かりを消して寝ることにした。

 しばらく、眠れないままに薄暗い天井を凝視していると、一郎のいびきが聞こえてきた。相変わらずだと二郎は思いながら、ぼんやりとそのまま天井見つめた。


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