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第5話「勇者と愚者の選択」

 サラ・リーリアの場合


「あんたらは何をやっているんだッ!」

 激昂する領主・ドルド・シャルムは指をさして、サラを非難する。

「見ろ! モンスターだ! モンスターがもう目の前まで来ている!」

 領主が窓を指さすと、窓外には大型モンスターの姿が確認できる。

「もう街はめちゃくちゃだ。500万ペリー二だぞ! 500万ペリー二払って、どうしてあのモンスターがあそこにいるんだ!

 しかもピンピンしているじゃないか!勇者はどうした⁉︎」

「お忘れですか?あなたは勇者を見つけてあのモンスターを倒してほしいと言った」

「だからそうだよ! 何かおかしなことを言ったか? モンスターを倒すのに勇者は付きものじゃないか!」

「勇者というのはモンスターを倒してはじめて得られる称号。だから私たちは勇者になりえる原石を集めた。だけど、あのモンスターはそんな生やさしいものじゃなかった。ギルドが定めるとこのLV4以上の冒険者たちが束になっても敵わなかった。

 私たちの誤算は素直に認めるわ。そこで私は考えた。ならば勇者に倒してもらおうと。今、勇者リグラン・ルイードのパーティーがあのモンスターと戦っているわ」

「何?」

「あなたも聞いたことがあるでしょ? 今、もっとも勢いのある勇者よ」

「たしかに勇者リグランの活躍は、この街にも伝わってきている」

「そんな、勇者を呼び寄せたのよ。追加の報酬が必要だわ」

「また金を出せというのか? 500万ペリー二って大金を支払っているんだぞ。それでもまだ出せというのか!」

「当然よ。LV4以上の冒険者たちでも倒せない大型モンスターを勇者リグランが倒すのよ。当初の想定をゆうに超えているわ。500万ペリー二ですむわけがない」

「もう金なんてないぞ!」

「金である必要はないわ。あなたの領地でもかまわないのよ」

「この街を差し出せというのか⁉︎」

「今や勇者でも領主となられる時代、勇者リグランは次のステップとしてご自分の領地を欲しておられるわ」

「だからといってさすがにこの街までは⋯⋯」

「断るならそれでも結構よ。その場合、この街は放棄して、次に大型モンスターが向かうであろう街の領主に掛け合うから」

 ソファにしゃがみ込む領主。

 そこへ血相をかいたメイドが駆け込んでくる。

「大変です。お坊っちゃまを乗せた馬車がまだ街から脱出できていないとのことです」

「なんだと⁉︎」

 門の前では人々が列を成したまま、一歩も進まず立ち往生となっている。

「街の門に領民が集まりすぎて身動きが取れないそうです。このままじゃあの大きなモンスターに踏み潰されてしまいます」

 領主の息子が乗った馬車は例の中央のため進むことも退くこともできない。

 そして日頃歩かないお坊っちゃまには馬車を降りて歩くという考えは当然ない。

 領主は頭を抑え、声を絞り出すように「わかった、わかったから、頼むこの街は見捨てないでくれ」と懇願する。

「あなたの今後は私たちギルドが約束するわ」

 そう言ってサラは窓外を眺めてほくそ笑む。

「(この規模の街が手に入れば、ギルドも新たなビジネスが展開できるわ)」


 サラの交渉が順調に言っている頃、勇者リグラン・ルイードのパーティーは思わぬ苦戦を強いられていた。

「なんて硬さなの⁉︎」「クソ!俺の剣が折れた」パーティーメンバーであるLV5の女魔術師と男剣士の攻撃が全く通用せず、パーティーの雰囲気は焦燥感に駆られていた。

 そしてS級モンスターの蜂型モンスターまで頭上から攻撃してくる状況で思うように大型モンスターへ攻撃できないでいる。

 見かねたリグランは、サラから与えられた剣を背中の鞘から引き抜くと、全身に青いオーラを纏って剣を一振りして空を斬る。

 そこから発せられた空気の刃が蜂型モンスターを頭から真っ二つに両断する。

「すげぇ! あのS級モンスターをたった一発で倒したぞ」

 周りで見ていた冒険者たちは驚く。

 リグラン自身も驚いた表情をしている。

 周りの士気が上がったことを感じ取ったリグランは剣を天に翳す。

「ここに集いし者たちよ。この勇者リグランに続け! 目の前に立ちはだかる異形の物たちから人々を守るのだ」

 気持ちを奮い立たされた冒険者たちは大型モンスター、サイクロプスの群れに向かっていく。

 勇者たちの反撃、これで大型モンスターが倒せる。その展望が見えたーー

 だが、大型モンスターは口を大きく開けて口から炎を吐き出す。

 その炎は、サイクロプスごと冒険者たちを飲み込む。

 炎の中から、高温に熱せられた冒険者たちの苦悶の悲鳴が聞こえてくる。

 その光景にリグランたち勇者パーティーは青ざめた顔を強張らせて、その場に固まる。


 交渉が成立したサラは鼻唄交じりに領主屋敷の通路を歩いている。

 そんなサラの目の前にザリック・テューンとアミリア・レムルが姿を現す。

「あなたたちどうしたの?」

「お姉さんに報告をと思って」

「何かしら?」

「お姉さんの連れてきた勇者たち。さっき街を出てったよ」

「逃げ出しちゃったみたい」

 サラの表情から笑みが消える。


 森の中を猛スピードで駆け抜ける馬車。

「ここで無駄死にする必要はない⋯⋯」

 リグランは、剣を抱えて震えている。

「(この剣さえあれば、俺は最強だ)」

 リグランはブツブツと自問自答を繰り返す。

「だからもう姐さんの支援なんて必要ない。悪いが俺たちはここで手切れだ」


 床を叩きながらサラは絶叫する。

「畜生! あの優男、誰がここまで成長させてやったと思っている!」

 そんなサラの姿を嘲笑った表情で見つめるザリックとアミリア。


 クガミ・リクトの場合


 大型モンスターが街を囲う壁を踏み越えて街の中へと入ってくる。

 テイル・ディオニールとクガミ・リクトは見上げて大型モンスターの姿を確認する。

「想像以上の大きさだ⋯⋯」

「さぁ、ドラゴンの勇者。この武器を使ってあのモンスターを倒すんだ。そして新たな伝説をつくれ」

 リクトが、ローブの下から取り出したのはこの世界にまだ存在しない武器。

「これは⋯⋯見たことのない武器だね」

「ライフル銃だ」

「ライフル?」

「こいつに作った“ヤッキョウ”を装填する」

 リクトはテイルの目の前で、慣れた手つきでライフル銃に薬莢をセットしていく。


 リューク・エルドレの場合


 ライフル銃のセットが完了してリクトがライフル銃をテイルに手渡そうとしたとき

「ちょっと待て!」と、リューク・エルドレがやってくる。

「テイル・ディオニールに尋ねる。君はなぜ勇者になろうとしている?」

 リュークの突然の質問にテイルは戸惑う。

「⋯⋯4年前、あの厄災の日。俺の住んでいた小さな村はモンスターに為す術もなく蹂躙されたーー」

 大型の蜘蛛モンスターたちが建物を破壊して、村の人々を襲う。

 モンスターの吐く糸に捕らえられた村人たちは、次々にモンスターの口の中で“バキバキ”と音を立てて捕食されていく。

「家族や友人、大切な人すべてを失った。悔しかったよ。ただ泣いて見ているだけだったからね。

 だから俺はこの世界に蔓延するモンスターを倒して平和を取り戻したいと思った。そんな理由じゃあダメかな?」

「なるほど。ならばひとつ聞かせてやろう。厄災の日はルミナイトエネルギーを活用した施設の爆発事故によって、世界にエネルギーが拡散し、ルミナイトエネルギーを浴びたいくつかの生物がモンスターへと姿を変え人々を襲った出来事。

 そしてモンスターだけでなく、ルミナイトエネルギーを浴びた人間にもその影響が異能の力として現れた。その事故の影にはある人物がいる。その人物はルミナイトエネルギーを研究する機関に所属していた

 科学者。その科学者は以前より、ルミナイトエネルギーが及ぼす影響を発見していた。そして密かに人体実験を繰り返し、モンスターに対抗する武器や手段まで開発していた。厄災の日以降、急速に対モンスター用の武器が普及したのもそのためだ。

 その科学者はこの世界を自分の理想とする、人間がモンスターと戦い、そして人間同士が争う世界に変えるためにあの爆発事故を引き起こした。その人物の名はクガミ・リクト。今、君の目の前にいる男だ」

「!」と、テイルはリクトの目を見る。

「ならば、問う。この話を聞いても尚、その武器を手に取る覚悟があるか? その武器が今日を境に世界に普及すれば、この世界の争いは君が想像しえない凄惨なものへとシフトする。それでも君は手に取るのか?」

「今、俺がこの武器を手に取らなくちゃ、この街が滅び、嘆き悲しむ人がいる。あの日の俺と同じ思いをする子供がいる」

 テイルの目には、今も門の前で脱出できずにいる街の人々の姿が目に浮かぶ

 家族とはぐれ、道の真ん中で泣く小さな女の子ーー

 錯綜する情報に惑わされどこの門から逃げればいいのかと右往左往とする人たちーー

 脱出の順番を膝を抱えて待つ老若男女。その顔は絶望に満ちているーー


「だったら答えは1つしかないじゃないか」

 そういってテイルはライフル銃を手に取る。

「テイル・ディオニール、君が勇者か、悪魔と契約した愚者か見届けよう」

「テイル! 銃口を大型モンスターに向けろ!」

「こうか?」

 テイルは、リクトの指示にしたがい、不慣れな持ち方でライフル銃の銃口を大型モンスターに銃口を向ける。

「お前の中のドラゴンを目覚めさせろ!」

 テイルの瞳に魔法陣のような紋様が浮かぶ。

「みんな待っているんだ。この状況を打開してくれる誰かをそれが勇者であろうと悪魔であろうと。俺がその誰かになれるなら」

「そこに指をかけて引け!」

 テイルが引き金を引くと“パン”と、乾いた音とともに銃口から弾丸が発射される。

 弾丸は、大型モンスターの胸部の皮膚と皮膚の間に命中して、モンスターの体内へと入る。

 驚きのあまり呆けた表情になるテイル。

「まだだ! 続けて撃て!」

 我に返ったテイルは2発、3発と続けて撃つ。

 弾丸は全て大型モンスターの胸部に命中した。

 悲鳴に似た鳴き声を上げる大型モンスター。

「計算通りだ! テイル、弾丸に仕込んだルミナイトエネルギーの結晶を爆発させろ。

 テイルの瞳の紋様が強く輝き、手をグッと握ると、大型モンスター体内の弾丸が爆発四散する。

 大型モンスターは口、鼻、目、耳、胸部から黒い煙が吹き出して、そのままゆっくりと地面に向かって倒れる。

 大きな地響きが街全体を揺らす。

「倒せたのか⋯⋯」

 テイルにはまだ実感が湧かない。

 リュークはテイルの目の前に、中身がパンパンに詰まった袋を翳す。

「ここに100万ペリー二ある。報酬だ」

 テイルは戸惑いながら袋を受け取る。

「クガミ、代わりにこいつは回収させてもらう」

 リュークはテイルからライフル銃を取り上げて、スタスタと立ち去る。

「おい!」

 テイルはリクトとの手を取り、顔を見てほくそ笑む。

「なんだよ⋯⋯」

 気づけばもう太陽は夕日へと変わり、あたりをオレンジ色に染めはじめていた。


 歩くリュークの目の前に虹色のオーロラが出現して、そのまま中へと消えていく。


 日本・東京ーー

 とあるオフィスビルの廊下を歩くリューク。

 胸のネームプレートに“代守(しろもり) 新一郎(しんいちろう)”と書いてある。

「よう、代守!」向こう側から歩いてきた男が声を掛けてくる。

「あっちの世界で随分と利益を上げたそうじゃないか」

「今回のモンスターは手強すぎだ」

「そうか? なら企画課の奴らも喜ぶな。あのモンスター担当のあいつは悔しがっていたけどな」

「俺はしばらくこっちで活動する」

 と、言い残してリュークは立ち去る。


 第1部完


 つづく





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