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第4話「勇者は試行錯誤する」

「俺はテイル。テイル・ディオニールだ」

 青年はそう名乗り、クガミ・リクトが差し出した手を握る。

「やっぱりドラゴンだな。お前は」

「は?」

「契約成立だ」


 翌日、リクトとテイルは街の武器屋を訪れる。

 “カキン、カキン“と、リズムの良い快音が店の奥の方から鳴り響いてくる。

 武器を作る作業場では店主の男が紅く熱した鉄をハンマーで叩いている。

 その傍にはリューク・エルドレが立っている。

「やはり来たか」

 リュークは、作業場に入ってきたリクトとテイルに声をかける。

 “またお前か”という表情でリュークから顔を背けるリクト。

「なんだ客か?」と、店主の男は立ち上がる。

「俺は、テイル・ディオニール。よろしく」

 テイルは店主とリュークに握手して挨拶する」

「なんだい、あんたらも例の大きなモンスターを倒せる武器がほしいてか?」

「ええ、連れの方が」

 リクトは、テーブルに積まれている壊れた武器の山の中から折れた剣を一本手に取って、刃先の部分をじっくり見つめる。

「これは、大型モンスターと戦ったときに壊れた剣か?」

「そうだ。冒険者たちが直してくれって持ち込んできたが、いったいどんな硬さならそんな壊れ方するのやら」

 店主はそう言ってため息をつく。

「みんな、口々に言うのは表皮が岩石や鋼のように硬かった。それでこの有様だと。俺は儲かってありがてぇんだが、こんなふうになっちまった武器を見るとやるせなくなっちまってな。

 悪いが、今のうちにはそのモンスターを倒せる武器はないぜ」

「だったら、今から俺が見せるものを作ってほしい。考えがある」

 リクトは、胸元から四つ折りに畳んだ紙を取り出して、店主の目の前で広げる。

「こんな小さなものでモンスターを倒せるって言うのかい?」

 紙に描かれていたのは先端が鋭く尖った円筒形の物体で、紙はこの武器の絵図面になっていた。

「そうだ」

「この剣でもねぇ、槍でもねぇこんな物が⁉︎」

 店主の反応にテイルは“何が書かれているのか”と、気になってのぞき込む。

「“ヤッキョウ”という」

「ヤッキョウ?」

「製法は教える」

「⋯⋯」と、店主は、まじまじと絵図面を見つめて考える。

 そして「乗った。乗ったよ!」と、膝を叩き、快く引き受ける。

「ではさっそく。砂で型を作って、そこに溶かした鉄を流し込む」

「だったら、そこにある剣たちを使ってくれ」

 店主は、テーブルの壊れた武器の山を指さす。

「いいんですか?」と、テイルは驚く。

「これは修理する武器じゃ?」

「どの道これじゃ、刀身の部分はそっくり交換だ。こいつらも生まれ変わって、モンスターに一矢報いてぇって言ってる気がしてな」

 リクトは“フッ”と、笑って説明を続ける。

「この本体になる円筒形の筒だが、厚みを1フィルト。できる限り薄くしたい」

 リクトが提示した単位はミリ相当。

「い、1フィルトだと〜」

 あまりの薄さに店主も驚く。

「いけるか?」

「や、やってやろうじゃねぇか」

 店主は額の汗を拭い、意地をかけ作業に取り掛かる。

 そしてテイルも、高温で熱した鉄釜に、壊れた刀身を投げ入れるなどして作業を手伝う。

 店主は、丸く打ち抜いた板に棒をあてがい、ハンマーで叩きながら伸ばしていく。

 リクトは、完成した砂型に溶かした鉄を流し込む。

 そして冷えて固まってから、円錐状になった鉄を取り出して削りの作業をはじめるリクトとテイル。

 板を叩き続ける店主の背後には失敗作がだんだんと積み上がっていくーー


 作業は夜通し続き、夜が明けたが、まだ完成に至っていない。


 サラ・リーリアの場合


 サラ・リーリアは、リグラン・ルイード率いる勇者パーティー到着後に“次世代型の武器”だと一振りの剣をリグランに手渡した。

 そしてサラと勇者パーティー一行は武器を試すため、森の中でサイ型モンスターの討伐をしていた。

 リグランの放った一太刀にサイ型モンスターは“ドシンッ!”と、大きな音を立てて倒れる。

「さすがはリグラン」と拍手を送るサラ。

「さっそく、倒したモンスターの一部を剣の宝玉に取り込んでみて」

 リグランは、さっそくサイ型モンスターのツノを切り落として、剣の宝玉へ翳すと、ツノは宝玉の中へと取り込まれていく。

 すると、剣の形状が変化してリグランの右腕から肩にかけてアーマーが生成される。

「こいつはなんだ⁉︎」

「モンスターも勇者の力もルミナイトエネルギー。その武器は取り込んだモンスターに応じて進化するのよ」

「それはすげぇな」

「この武器によって勇者のあり方が変わっていくわ」

「姐さん。さっそく大型モンスターを倒しに行きましょう」

「まだよ。勇者というのは登場するタイミングが大事なの」


 その日の夜ーー

 飲み屋ではザリック・テューン、アミリア・レムルと8人の冒険者が酒を飲んで盛り上がっている頃、

 武器屋ではまだ、薬莢の開発が進められていた。

「チクショウ! まただ、また破れちまった」

 店主は失敗作を”ポイっ“と背後の方に投げ捨て、失敗作の山がまた1つ高くなった。

 リクトは、失敗作を見つめて考える。

「そうだ! 鉄をさらに熱して硬くしよう。生じるひずみに薄く伸びてきた鉄が耐えきれずに破れている。鉄を硬くすればうまくいくはず」

「鉄を硬くしたら、叩きれないんじゃないか? 店主殿の腕も限界だ」

 夜通しの作業で店主の腕もパンパンだ。

「俺はやれるぜ」

「しかし⋯⋯」

「ならば、これを使え」

 しばらく外に出ていたリュークが戻ってきた。

 そして行商人と思われる若い男たちが2人がかりで木箱を作業場に運んできた。

 一同が木箱の蓋を開けると中にはハンマー型の武器が入っていた。

「そうか、ニョルニルブレイカーか」

「ルミナイトエネルギーの結晶が埋め込んである。扱う者のルミナイトエネルギーに呼応してその力を発揮する」

「この力なら」

 希望が見えてきた。

 テイルも「店主殿」と、ガッツポーズで店主に期待をかける。

「ま、待ってくれ、俺は武器屋だ。勇者や冒険者と違ってルミナイトエネルギーの力は使えねぇ」

「⋯⋯」

 “そうだった”と、一同は言葉を失う。

「なら」と、ひらめいた、リクト、リューク、店主の3人はテイルの顔を見やる。

 テイルは、“え、俺?”とばかりにキョロキョロと困惑しながら3人の顔を見る。

「⋯⋯強すぎないか?」

 テイルがポツリとこぼした一言に3人は固まる。


 仕切り直して結局、店主がニョルニルブレイカーで、鉄を打つことになった。

「やっぱ繊細な仕事は職人の腕がいるからよ」

 そして、力が必要な時は、テイルが店主の背中に手を当ててルミナイトエネルギーの力を送ることとなった。


 再びが夜が明けて、ようやく本体となる筒が完成する。

 リクトは、円錐型の先端部を筒に組みつけて、お次にパウダー状の鉱物を流し込む。

「それはいったい何だ?」

「ルミナイトエネルギーの結晶と火薬を混ぜた物だ」

「火薬? あんた、本当にそれ何に使うんだい」

 一緒に作ってきた店主も今持って用途は分からない。


 そして次の日

 全部で3本のヤッキョウ(薬莢)が完成した。


 だが、大型モンスターがついに街から目視できるくらいの距離にまでやってきた。

 街中には半鐘が鳴り響き、住人たちは、恐怖に満ちた悲鳴を上げながら一斉に走って逃げ出す。

 街は一気にパニックに包まれる。


 つづく






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