第3話「勇者は遅れてやってくる」
ついに大型モンスターと対峙した8人の冒険者たち。
間近で見ると、そびえ立つその大きさにあらためて驚かされる。
同時に押し寄せる緊張感に、武器を握る冒険者たちの手にも汗がにじむ。
パトリックの指示で陣形を取りつつ大型モンスターとの間合いを詰める。
そして、冒険者たちは各々の武器に、全身に宿る異能の力“ルミナイトエネルギー”をチャージして
刀身を青白く輝かせる。
当初の作戦通り、リタ、シャーリーが詠唱して魔法ステッキの宝玉から遠距離魔法を放ち
続けてルークも矢を放つと大型モンスターの目鼻先で爆散、視界を奪うことに成功する。
畳み掛けるようにロレンソが斬り込む。
「いくぜッ!」と、大剣を勢いよく振り払うと、“カキンッ!”と、岩を叩いたかのような音を立てる。
「何⁉︎」
大型モンスターの皮膚は硬く、まるで岩石のようだ。見やるとロレンソの大剣はすでに刃こぼれしている。
そして、大型モンスターは天に向かって咆哮を上げると、尻尾をムチのようにしならせ、一気に振り下ろしてくる。
「俺に任せろ」と、バインが飛び出していく。
「このアックスハルバートカイザーの威力、味わえ!」
真横からくる巨大な尻尾を火花を散らせて受け止めると、
バインは、アックスハルバートカイザーの刃がすでに欠け落ちていることに衝撃を受ける。
バインの表情から余裕が消えた瞬間、バインの上半身は尻尾に薙ぎ払われ、その場に下半身だけが残る。
その光景にシャーリーが悲鳴をあげる。
「よくも」
ヒュメルが剣を突き出して斬りかかる。
次の瞬間、ヒュメルの視界が真っ暗になる。
自分に何が起きたか分からないまま、地面に転がるヒュメル。
彼女の腹部には血が流れている。
気づくと、血の匂いに誘われた鳥獣モンスターが冒険者たちの周りを飛び交っている。
「こいつら、大型モンスターにやられた冒険者を狙って⋯⋯」
取り巻きの小型モンスターたちが、大型モンスターの進む道を切り開き、かわりに大型モンスターは寄ってくる冒険者を倒して、その死体を小型モンスターが食料とする。
この利害関係が、大きな群れを形成したと、パトリックは分析する。
あまりにも火急な事態にパトリックは、次の一手が思案出来ない。
パトリックからの指示が出なくなったことでパーティーは統制が取れなくなり、
痺れをきらしたティーザ、ロレンソは独断でモンスターたちに斬り込んでいく。
そして、焦燥するパトリックの目の前で、ティーザ、ロレンソは悲鳴とともに血飛沫をあげてモンスターの餌食になる。
その光景にリタとルークはその場を逃げ出す。
「おい、待て!」
パトリックの制止を聞かず走り去るリタとルークの前に今度は、棍棒を手にしたサイクロプスたちがわらわらと現れる。
ルークはいきなり棍棒で頭から殴られ、その場に倒れこむと、サイクロプスは、ルークが動かなくなるまで執拗に叩き続ける。
別のサイクロプスは、リタの脚を棍棒で殴りってあらぬ方向へ曲げると、倒れこんだところへ馬乗りになって服を引きちぎる。
冒険者たちの悲鳴がこだまする中、大型モンスターは目をギロっとさせ、大きく開いた口から炎を吐き出して、恐怖に脚を竦ませるパトリックを飲み込むーー
森が炎に包まれる中、シャーリーは泣きながらヒュメルに肩を貸して歩いてくる。
傷口には、シャーリーがヒーリング魔法をかけたが明らかに弱ってきているヒュメル。
声を振り絞って「私を置いて逃げて⋯⋯」と、シャーリーの耳元に囁くもシャーリーは頑なに「できません⋯⋯」と、その歩みを止めない。
だが、追ってきたサイクロプスによって2人は押し倒される。
ヒュメルは馬乗りにされた状態で顔を何度も殴られた挙句、息がなくなった頃合いには、鳥獣モンスターが、一斉に飛んできて彼女を啄む。
そしてサイクロプスに暴行を受け続けるシャーリーの目の前に、ザリック・テューンとアミリア・レムルが現れる。
「たすけて」と、泣き叫ぶシャーリーに、ザリックは“期待はずれ”だと蔑むような目を向ける。
傍らのアルテミアは興味なさそうに、手鏡で自分の顔を見ながら髪を弄っている。
2人は、シャーリーが息絶えるまで、ただ見ているだけであった。
その様子を「あらあら」と、木の上からサラ・リーリアが不敵な笑みを浮かべながら見つめている。
サラ・リーリアの場合
2日前ーー
街の入口前でサラは、“今回は短期決戦、てっとり早く片付けるなら、すでに育てた勇者に限るわ”
と、思案しながら待ち構えていると、そこへ馬車がやってくる。
中から降りてきてのは、LV5の勇者・リグラン・ルイード率いる5人組の勇者パーティー一行。
サラは「待ってたわ」と、ハグで出迎える。
「姐さんの頼みなら、俺らは、どこからでも駆けつけますよ」
「フフ、相変わらず頼もしいわ。とりあえず依頼料よ」と、リグランに金貨が入った布袋を渡す。
「30万ペリー二入っている。今回の依頼は、かなり釣り上がるから追加の成果報酬は期待して:いて」
「さすが、姐さんだ」
「行きましょ。いいものがあるわ」と、サラは、勇者パーティーを引き連れ姿を消す。
その頃、リューク・エルドレは、武器屋を訪れていた。
武器を作る作業場に入り、壊れた武器が積まれた山の中から折れた剣を1つ手に取り、刃こぼれしている点に着目する。
さらに1日前ーー
1人酒を飲む青年に、「1つ尋ねるお前がドラゴンを倒した勇者だな?」と、
目元まで隠れたフード付きのローブを着た男が声をかけてくる。
「あなたは⋯⋯」
フードを外すと目つきの鋭い、黒髪の青年が顔を出す。
奥の席の方から「そういえば、最近、北東の高山に住むドラゴンを倒した勇者がいるって噂聞いたんだけど、もしかしたら来てるかも〜」
「その勇者も誘ってみるのもアリだね」と、楽しげな声が聞こえてくる。
「噂されているぞ?」
「俺は倒したと思っていない」
青年は思い返す。
雪深い北東の高山の洞窟にて、青年はクリスタルのような蒼き輝きを放つドラゴンと対峙する。
「俺はあの時、ドラゴンと打ち解けた気がしたんだ」
「何?」
ドラゴンはゆっくりと青年に頭部を近づける。
すると、ドラゴンは流体のようになって、胸部から青年の身体の中へと入っていく。
「そして俺はドラゴンと1つになったんだ」
そういって自分の手のひらを見つめる青年。
ローブの男は手を差し出して「俺は、クガミ・リクト(枸皇 理久斗)」と、名乗る。
「お前を支援させてほしい」
つづく