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第2話「勇者は沼にハマる」

 ザリックとアミリアの場合


 ザリック・テューンとアミリア・レムルは、ひときわ盛り上がるテーブル席に目をつける。

「モンスター襲来まで時間がない。だから勇者をイチから育てている余裕なんてない。ギルドが定めるレベル制度でLV4以上の冒険者に声をかけよう」

 そう言ってザリックは、手に持ったジョッキのビールを一気に飲み干す。

 そして「お兄さんたち盛り上がっているねぇ〜」と、目をつけたテーブル席にいる男女8人の

輪に飛び込んでいく。

「何? パーティー? いいね、いいね」

「私たち今日知り会ったんです。本当はそれぞれ別のパーティーなんです」

 魔術士の女・リタが答える。

「へぇー、そうなんだ」

「俺は、斧使いのバイン。ソロでやっている。あんちゃんは?」

 顔の半分にタトゥーが入ったスキンヘッドの大男が肩を組んでくる。

「ああ、後ろの子が相棒」

「アミリアです。よろしくお願いします」と、胸の谷間を強調したポーズで挨拶するアミリア。

 男性陣の鼻の下を伸ばすことに成功して、さっそく輪に溶け込む。

 テーブルに集った8人はそれぞれ、槍使いの男・パトリックとリタ、剣士の男ティーザの3人のパーティー。

 そして、弓使いの男・ルークと魔術士でヒーラー専門の女・シャーリー、剣士の女・ヒュメル、大剣使いの男・ロレンソの4人のパーティーと、

 先ほどの斧使いのバイン。皆、LV4のツワモノ達ばかりだ。

「みんな、LV4なんだ。すごいねぇ」

「この間はサラマンダーの群れを倒した」と、槍使いの男・パトリックが自慢の入った武勇伝を語り始める。

 サラマンダーの習性から、倒し方のコツまで長々と語り、その報酬で新調した甲冑の額まで教えてくれた。

 羽振りは良さそうだ。

 斧使いのバインも負けじと自慢話をはじめる「俺は、この間、ゴーレムを1人で倒した。この俺の斧、一振りでだ」

「強い、強い、みんな強いよぉ。どうせなら1つのパーティーになっちゃえばいいじゃない」

「ハハッ。中々いいアイディアだ」と、弓使いの男・ルークは乗り気になる。

「そうだろ。せっかくの出会いだ。今回のクエストだけでもさ」

「そういえば、最近、北東の高山に住むドラゴンを倒した勇者がいるって噂聞いたんだけど、もしかしたら来てるかも〜」

「その勇者も誘ってみるのもアリだね」

「私もぜひ手合わせ願いたい」

 リタ、シャーリー、ヒュメルら女性陣も乗り気だ。

「ああ。そういう、噂とか伝説とかあまり信じちゃダメ。ダメだよ絶対」

 “あー、お前が言うのかーそれ”みたいなツッコミをアミリアは堪えた。

「ところでお2人は?」と、リタが尋ねる。

「ああそうだ。申し遅れたよね。僕たちはこういう者だよ」

 胸元から名刺を取り出すザリックとアミリア。

 名刺に刻まれた紋様を見て驚く8人。

「その印は冒険者ギルドの⁉︎」

「あんたら、ギルドの職員か?」

「ハハハ、今度この街にも冒険者ギルドを作ろうと思っていてね。僕たちは、本部から来ているサポーター。支援者なんだ」

「支援者って、武器や資金を提供して私たち冒険者を勇者にしてくれる、アノ?」

「そうだよ。勇者どころか君主にも王にもしてあげるよ。これからの時代、モンスターと戦える者が国を治めるべきだと僕たち運営は思っているからね」

「運営?」と、リタは首を傾げる。

「ギルドのことだよ。よしっ決めたッ! 君たちを強き勇者と見込んで支援しよう」

 ザリックはウェイトレスを呼んで、たくさんの料理を出すように要求する。

「これは僕からの奢りだ。たくさん食べてくれ!」

「いいんですか? お金そんなに使っちゃって」と、アミリアは耳打ちする。

「大丈夫。あとでちゃんと回収するから」

 ザリック、アミリアと8人の冒険者たちは夜が明けるまで酒を飲んで盛り上がった。


 次の日の朝から冒険者たちの一団はさっそくモンスターの討伐に向かった。

 大型モンスターより前を先行する雑兵のモンスターの群れと交戦。

 冒険者たちの武功が街にも伝わって来てくる。

 だが、本体の大型モンスターの討伐には至っていない。

 大型モンスターの歩む速度から計算するにモンスターが街に襲来するのはあと3日。


 鍛錬に励むバイン。そこへザリックがやってくる。

「どうだいバイン、調子は?」

「ああ。もちろん上々だ」

「君の武器を見せてくれないか?」

「俺の斧か? いいぜ、どうだ」

 手渡された大型の斧を眺めるザリック。

「うーん、なかなかの得物だね。よかったらだけど、俺がお勧めする武器も使ってみないか?」

 ザリックはバインを納屋へと案内する。

 そこに保管されている斧型の武器にバインは感嘆の声をあげる。

「本当にこれを俺に?」

「ああそうだ。このアックスハルバートは、モンスターや君たち冒険者が使える異能力の源であるルミナイトエネルギーで錬成した次世代型の武器だ。

 君の能力に呼応して力を発揮してくれる」

「本当にいいのか?」

「使いたまえ」


 次の日

 モンスターの群れの討伐からバインが意気揚々と戻ってきた。

 それをザリックが拍手で出迎える。

「お疲れバイン、武器の調子はどうだ?」

「最高だ。周りが苦戦していたAクラスのモンスターもイチコロだったぞ」

「そうか。それは何よりだ」

「とても気に入ったよ。まぁ欲を言えばもう少しリーチがほしいとこだったな。あとちょっと重い気もするがなんてこともねぇ」

「そうなのかバイン⋯⋯それなら申し訳ない」

「いやいや、充分だ。ザリック、こいつはもう俺の相棒だ」

「君に武器を提供した俺の責任もある。そうだ!君にだったらあの武器が使えるかもしれない」

「⁉︎ それはいったい何だ?」

「アックスハルバートカイザー。従来のアックスハルバートよりも軽量化され、放出される威力も倍だ」

「このアックスハルバートを超える武器が⋯⋯」

「その分、使用者への負担が大きい。危険だ」

「俺なら、大丈夫だ! そのために鍛えてきた。見ろ、この俺の筋肉! 俺を信じて託してくれ」

「そうか。さすがはバイン。俺が見込んだ男だ。しかし1つ大きな問題がある」

「それは何だ? 俺に乗り越えられないものはない!」

「有料だ」

「有料?」

「ルミナイトエネルギーを最大限放出するために、特殊な鉱石が埋め込まれている。今度ばかしは、タダで提供するのが難しい」

「それは確かに問題だ」

 バインの心に迷いが生まれる。

「なぁバイン。それでも、それでもだ。行ってみないか? 強さのその先へ⋯⋯」

「その先⋯⋯」

 バインは唇を噛み締めて悩む。

「なぁ、知りたいだろ。その先を! 勇者バイン!」

 アックスハルバートで得た快感。それを上回る力、いったいそれはどれほどのものなのか? バインの中の欲求が高まっていく。

「俺は⋯⋯勇者になりてぇ。こんなイカツイ面しているけど憧れていた。俺がそれでなれるのなら。頼むぜ」

「勇者バイン⋯⋯そうだ行こうぜ。その先へ」

「ああ。感謝するぜ。相棒」

 抱きしめ合うザリックとバイン。

 確かに使用者の“懐”への負担は大きかった。


 そして、その日の夜ーー

 飲み屋で8人の冒険者パーティーはザリック、アミリアを交えて出陣前の宴会を開いている。

「勇者パトリック〜飲んでいるかい?」と、ジョッキ片手に上機嫌のザリック。

「勇者ルークも勇者リタもそして勇者バイン、今日は遠慮せず飲みなよ。今日は全部俺の奢りだ」

「みなさん、お強くなられましたね」と、アミリアはパーティーメンバー全員に満面の笑顔を向ける。

 パーティーメンバー全員の装備の強化(課金)が完了した。

「アミリアさんのおかげですよ。パーティーメンバー全員、こんな強い武器が手に入るなんて」

 ルークは、どっぷり使った沼から感謝の言葉を述べる。

「いよいよ決戦は明日だ。しっかり作戦を立てないとな」

 パトリックが仕切って酒が入った作戦会議をはじめる。

「今日、私とリタ、シャーリーの3人で大型モンスターを見てきた」

「それでどのようだったんだシュメル?」

「サラマンダーを大きくして、二足歩行させたようなやつだ。尻尾はとても長かった。皮膚も硬そうだ。時折マグマのように皮膚の隙間が紅く光った」

「(あーそいつ、ぜってぇ口と背中のあたりから光線出すわ)」と、考えながら半分眠たくなってきたザリック。

「だとすると、ルーク、リタ、シャーリーによる遠隔攻撃でモンスターの視界を奪おう。その隙に残りのメンバー全員でモンスターの脚を狙おう。

 腱を斬れば、その場に倒れるはずだ」

「尻尾はどうするの? 視界を奪ってもそれだけが自由に動く。最悪一網打尽に⋯⋯」

 リタがリスクを提示する。

「だったら俺に任せろ。俺のアックスハルバートカイザーでちょん切ってやる」

「そうか。だったら尻尾はバインに任せる」

「なんだかみなさんの話を聞いていると余裕で勝てちゃいそうな気がします」

「当然ですよ、アミリアさん。僕らはのちに伝説になる最強の勇者パーティーですから」

「頼もしいです。みなさん」

「よしッ! 明日みんなでモンスターを倒すぞ!」

 


 決戦の朝

 登る朝日を見つめて8人の冒険者たちは大型モンスター討伐に向け旅立った。


 つづく







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