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第1話「領主と騎士長の伝説」

「ビュン! ビュン!」

 剣が空を切りながら繰り返し振り下ろされる。

 素振りの修練、剣を握るその腕には汗が滲む。

「筋はいいと思うんだけどね。どうかね?」

  この街を治める領主・ドルド・シャルムが興奮気味に、隣に座る青年に尋ねる。

「ダメですね」

  頬杖をついて気の抜けた表情のザリック・テューンは、怠そうに答える。

「ダメ⁉︎ どうして? 私の息子だよ!」

「いや、見るからにダメでしょう」

  剣を握る人物は、サラサラとした金髪をなびかせ、汗をキラキラと輝いかせてはいるが、その姿はお世辞にもカッコいいと言えないチビでデブの少年。

 あきらかな運動神経の無さが目に付く。

  さっきから3回〜5回素振りを繰り返しては「ゼー、ゼー」と、息を切らせ休憩をとっている。

 その度「お坊っちゃま〜」と、見守るメイドたちが拍手をして甘やかす有り様。

「私の息子を君たちなら勇者にできるだろ!」

「モンスターのエサにだったらいくらでも」

「なんだと!」

「領主様」と、メイドが割って入る。

「方々がお揃いです」

  領主とザリックは中庭から応接間に戻ると3人の男女が待機している。

 髪をオールバックに整えて、スーツをピッシときめた男・リューク・エルドレ。

 膨よかな胸がなせる谷間を強調するピンク髪の女・アミリア・レムル。

 腕を組んで壁に寄りかかっているツンとした大人の雰囲気の女・サラ・リーリアの3人。

「あれ? 5人と聞いていたけどあと1人は?」

「さっさとはじめましょう」と、サラがせかす。

「ああそう。ではさっそくだが、今日は集まってくれてありがとう。ギルドの諸君。君たちへの依頼は他でもない、この街に近づいているモンスターの群れを倒せる勇者を連れてきてほしい」

  1ヶ月程前、付近の森に30メートルを越える大型モンスターを中心としたモンスターの群れが出現して、この街に向かって進行してきているという。

 領主は、配下の騎士団を派遣したがあっけなく全滅したそうだ。

「この街に戦える者はもういない。君たちしかいないんだ。戦えるツワモノを見つけて欲しいんだ。聞けば君たちは、どんな者にでも力を与えて勇者へと導くそうじゃないか。

  頼む! この街を救ってくれ」

 領主はテーブルに両手をついて頭下げる。

「まずは依頼料を」と、ビジネスライクなリュークは淡々と引き受ける。

  ガバッと顔を上げる領主。

 テーブルに、金貨がうず高く積まれる。

「500万ペリーニある」

  アミリアは、目を輝かせ金貨に顔を近づける。

「手はじめに、冒険者や勇者といったツワモノたちをこの街に呼び寄せたい。派遣した騎士団のことを詳しく教えていただきたい」

「ああ、はじめは勇ましく出て行ったよ。“この街を守るんだー!”って言って。だけどね実戦経験がなかったんだよ」

 まるでゴ○゛ラのようなフォルムの大型モンスターを目の前に武器を構える騎士たち。

 モンスターが口を大きく開けて天に向かって鳴き声を上げると、森の木々が暴風でなびき、大地が揺れる。

 騎士の殆どはその場に武器を捨て、尻尾を巻いて逃げ出す。

「何分平和な街だからね」

「それは、あなたを見ればわかります」

「だがね、騎士長がモンスターを前にしても微動だにせず、立ち尽くしていたというんだよ」

 大型モンスターを前に槍を地面に突き立て、仁王立ちで構える騎士長。

 その背中は、とても凛々しい。

 若い騎士が「騎士長、早く逃げましょう!」と、身体を揺すっても微動だにしない。

 大型モンスターにも動じない勇ましき騎士長の顔を見た若い騎士は「⁉︎」と、驚く。

 騎士長は白眼を向いて立ったまま死んでいた。

 大型モンスターの咆哮にショック死したようだ。

「もう歳だったからね。何せ私の親父の代から仕えていたから」

 頭を抑えるリューク。

「ならば、こうしましょう。冒険者や勇者というのは伝説を求めます。その伝説から得る称号は彼らのステータスとなって今後の人生に大きな影響を与えますからね」

 騎士団のモンスターとの戦いの様子は、ビラとなって各地にばら撒かれた。

 ビラにはこうある。

 ”我らが誇る騎士団。モンスターとの死闘の末散る。騎士長クルリクル・ハザットは、仲間が次々に倒れる中、ただ1人モンスターに挑み続けた。

 全身にモンスターの攻撃を浴びせられ続けながらも、騎士長は仁王立ちのまま、モンスターの前に立ちはだかる。

 その姿はまさに街を守る化身。真の勇者であった”

 “モンスター襲来近し、騎士長クルリクルを継ぐ者よ。集え! さすれば勇者の称号与えん”

 ーー3日後

 街には溢れんばかりの冒険者たちが集まった。

「ものはいいようね」

「どこかで聞いたことある話だけどな」

 少々呆れながら街の様子を眺めるサラとザリック。

 飲み食いする冒険者たちで商店などは潤い、賑わいを見せている。

 そして街の中心の広場には人だかりが出来ている。

  騎士長の兜が飾られ、一目見ようと冒険者たちが群がっているのだ。

「これが伝説の騎士長の兜か」

「俺もこれを被れば勇者クルリクルになれるかもしれん」

 道中、散々部下に悪態をついた挙句、モンスターを目の前にしてショック死した老騎士長が、武勇に長けた若きイケメン騎士として描かれた小説となり、

 ベストセラーとなるのには、そう時間はかからなかったそうだ。

「なんだかすごい人ですね」

  お祭りのような高揚感にアミリアは、興奮しながら目を輝かせている。

「待たせたな」と、リュークがやってきて4人は顔を揃える。

「2割はギルドの利益として、残り400万ペリーニを4人で分けよう。1人100万。これが予算だ。

 余った分は、報酬として懐に入れても構わん。おのおの好きにしよう」

リュークは、金貨の入った袋を3人にそれぞれ手渡して、「では」と、そそくさと人混みの中に消えてしまう。

「それじゃあ、私も好きにするわ」と、サラも立ち去る。

「俺たちは2人でやろうか」

「はい」

 ーーその日の夜

 飲み屋では、冒険者たちが宴会を開いて飲んだり、歌ったりと、盛り上がっている。

 ザリックとアミリアは、周囲を見回しながら手頃な冒険者を探している。

「あの人なんてどうですか?」

  アミリアが指をさした先にいるのは、テーブルで1人、酒を飲んでいる男の背中。

 時折見せる横顔から、イケメンの好青年と見える。

「かなりいい感じじゃないですか」

  ザリックは、傍に置いてある剣に注目する。

「よしておけ、持っている剣が見すぼらしい。どうせザコモンスターとかしか倒したことのない類だ」

  ザリックは、アミリアを引っ張って、屈強な男たちで盛り上がる席の方へと行く。

 その青年に、目元まで隠れたフード付きのローブを着た男が歩み寄ってくる。

「1つ尋ねるお前がドラゴンを倒した勇者だな?」

「あなたは⋯⋯」


 つづく



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