第9話 龍領の謎
「スカルファス!」
城の広間の中央にスカルファスは立っていた。
対峙しているのは……。
「ゴルガ!?」
なぜゴルガが?
ランたちの様に操られているのか?
「セージ……様。おさがりください」
スカルファスをよく見ると右腕が不自然な方向に曲がっていた。
口からは血を流し、立っているのがやっとという様子だった。
「ゴルガ!お願いやめて!」
マリアスが叫ぶがゴルガは無表情のままスカルファスに近づきこぶしを振り上げる。
「やめろ!」
俺は氷魔法でゴルガの足を凍らせた。
しかしゴルガは振り上げたこぶしを足にたたきつけ氷を砕く。
そして再びこぶしを振り上げようとしたところで、背後からカレンの声が聞こえた。
と、同時にゴルガがその場に倒れる。
「カレン……」
「……ごめんなさい。とっさだったから」
「いや、いいんだ。ありがとう」
「カレン様、ありがとうございます」
マリアスが泣きながらカレンの両腕をつかむ。
俺はスカルファスのもとに駆け寄り命魔法を使った。
「う…セージ様。申し訳ありません」
「気にするな。今治すから動かないで」
スカルファスもまた涙を流しながら俺に何度も感謝の言葉を告げた。
治療を終えあたりを改めて見回す。
広間のところどころに遺体が転がっていた。
生きている気配は一切ない。
そして突如背後から絶叫が聞こえる。
「あああ!あにさまぁあああああああ」
マリアスが一つの遺体を抱え、泣き叫んでいた。
それが、マリアスの兄なのか……。
燃やされたのだろう。
黒こげになったその塊に金の腕輪が付いていた。
「私たちが来たときにはもうほとんどが……」
スカルファスが来た時の状況を教えてくれた。
時空魔法で移動した直後、マンスが一人でゴルガとローブをまとった何者かと戦っていたらしい。
そしてスカルファスたちに気付き驚いたマンスに隙ができてゴルガの一撃をもろにくらったと。
マンスが生きていたのは奇跡だったのだろう。
スカルファスはゴルガたちと対峙しマリアスにマンスを連れて逃げるよう言ったそうだ。
「ほかものがどうなったのか確認してまいります」
「まて。ゴルガの件もある。まだ操られている奴がいるかもしれない。俺も行く」
「私も参ります」
気が付いたゴルガが起き上がりながらしゃべる。
「私が……私がこれをやったんですね……」
あたりを見まわし、ゴルガは体を震わせる。
「ゴルガ……自分を責めるな。操られてたんだ」
「それでも……私は私を、それ以上に私を操ったものを許せません!まだ近くにいるかもしれません。私もともに行動させてください」
断ることはできそうにない。
俺は黙ってうなずきスカルファスとゴルガを連れ城内を調べに向かう。
マリアスはカレンに任せよう。
城内を調べて回ったが生存しているものはほとんどいなかった。
唯一生きていたのは2名。
調理場に隠れていた給仕のメイドだけだった。
彼女らはここに置いておいても危険だと思い広間でマリアス達と待っているように伝えた。
その後、城の中庭に出る。
「なんということだ……」
無数の死体が中庭に広がっていた。
100…いやもっといるだろう。
その中に見知った顔がいた。
「ラオファ……」
獣魔族の代表。
この世界に来てマンスが世話役にと俺につけてくれた。
今はもう傷と血まみれの姿だ……。
スカルファスとゴルガも気づき、力なくその場に崩れ落ちた。
「何が……どうして」
まただ。
また助けることができなかった。
憤りを感じる。
だめだ、落ち着くんだ。
深呼吸をする。
辺りを見渡すが敵らしい姿は見当たらない。
おかしい。
誰がこれだけの数を倒したのか。
ゴルガを操っていたとしてもこれだけの数相手に戦えるだろうか?
すでに撤退した後?
いや、ちがうな。
刺し違えて倒れている者たちがいる。
どう見ても同じ種族。
これはどちらかが操られていたと見るべきだろう。
つまりここに倒れているものは操られて同士討ちさせられたということだ。
操っていたのはおそらくスカルファスが対峙したというローブを着た誰か。
「スカルファス。ローブをかぶってたやつってのはどうなったんだ?」
「戦っている最中に突如消えたので時空魔法で移動したと思われます」
スカルファスを倒すのにゴルガで十分と思っていなくなったのか、それとも別の要因か。
……。
ちょっとまて。
もし別の要因で一時的に移動しただけなら戻ってくるんじゃないか?
まずい!
「セージ様?」
全力で広間に走る。
頼む……無事でいてくれ!
「あなた?どうしたの?」
広間につくときょとんとした顔のカレン、いまだ泣いているマリアスとそれを慰めるように寄り添う給仕のメイドたちだけだった。
よかった。
「スカルファスが対峙してたやつが一人いないんだ。戻ってくる可能性もある。早くこの場を離れよう」
「わ、わかった」
遅れてやってきたスカルファスとゴルガをつれ、俺は時空魔法で全員と家に移動した。
家の前には誰もおらず、草原のほうにみんなが集まっているのが見えた。
オルフェたちが来てるな。
龍領は無事だったんだろうか……。
俺はマリアスたちに休んでいるよう告げるがお父様のそばに居たいとついてきた。
草原にいたマンスにマリアスが泣きつくのを見ると心が痛む。
「おお、セージ。話は聞いた。無事で何よりじゃ」
「セージ、大丈夫かい?少し疲れているようだけど?」
「ああ、オルフェ、リョウト。ありがとう。そっちも無事そうでよかった。龍領は襲撃されてないの?」
「うむ、龍領は険しい山を登ることになるからのう、時空魔法でも使えんとこれるもんはおらん。それに、来たところで龍族はみな高位魔法を使える。そう簡単にやられはせん」
「いや、相手は誰でも操ることができるみたいだ。そういう才能を持ってると思ったほうがいい。それに時空魔法も使えると思う。人領も魔領も操られて同士討ちみたいなことをさせられてる、龍領でもおなじことをされる可能性はある」
「なんと……」
「でもセージ。聞いた話じゃ相手はこの世界を征服するつもりなんだよね?なら真っ先に一番危険な龍領を制圧すると思うんだ。でもそれをしていない。どうしてだと思う?」
そういえばそうだ。
なぜ龍領を制圧していないのだろう。
他者を操るなんてチートができるなら別に龍領の龍たちを操って各領を襲わせればいい。
それにわざわざ同士うちさせる理由もわからない。
むしろ全員操って手下にでもしたほうがいい。
ザドムの街を凍らせた理由もわからない。
相手の目的はなんだ?
征服することが目的じゃない……同士討ち……街を凍らせる……。
これだけ見れば滅ぼすことが目的に見える。
でも龍領には何もしていない。
わけがわからない。
この大陸を奪うにしても滅ぼすにしても龍領は除外できない対象のはずだ。
なぜ人領、魔領、霊領だけなんだ?
この三領に意味があるのか?
それとも龍領を襲撃しない特別な理由がある?
「……わからない」
「だね。僕も理由はわからない。でも龍領が無事なことに意味はあるはずだよ。それがわかれば相手の目的も見えてくるんじゃないかな」
「うん……そうだな」
「セージよ。この後はどうするつもりじゃ?」
龍領が無事なのは分かった。
魔領は襲撃を受けていたが被害状況がわからない。
人領も半数以上の国が敵の手に落ちていると聞いている。
霊領は女王を失った……そうだ。
「霊領の話を聞かないと。マニャ!」
そばで話を聞いていたマニャを見る。
「うぬ、連れて行こう」
「カレン、また一緒に来てくれ」
「はい」
俺とカレンはマニャの時空魔法でダラナのいる城に移動した。




