第7話 切れたその後
この街を凍らせたと思われる9人。
本来ならばちゃんと紹介するべきなのだろう。
しかし今は無理だ。
怒りが抑えられず、とりあえず一番近くにいた人間の腹部を全力でパンチした。
「?」
パァン!というすさまじい音とともに、右腕がそいつの腹部を綺麗に貫通する。
音速を超えるほどの速さだったのだろう。
音が鳴ったのは空気の壁に衝突したから。
あまりの速さにまるでそいつの腹部と俺の腕が融合してるかのようだ。
血すら出ていない。
そいつはピクリとも動かず自分の身に何が起きたのかすら気づいていない。
俺は腕を引き抜かないまま次の相手に迫る。
「うげぇ!」
右腕に串刺しになっているそいつすら気にせず、2人目の腹部にパンチ。
二人目はよけようと少し動いた。
だから少しずれたところが抉れた。
左胸あたりに俺の右腕が刺さる。
「がぁあああああああああぁぁぁぁぁ!」
2人目の絶叫。
それが残りの7人に恐怖を与える。
そして瞬時に逃走を図ろうとする。
逃がさない。
俺を中心に、周囲に球状の炎の壁を作る。
それをみた7人はへたり込む。
「ゆ、許してください!お願いします!」
一人の女が涙ながらに懇願してくる。
それを聞いてさらに怒りが増す。
「ここに住む人たちは許しを請うこともできずに死んだんだぞ!?なのにお前は許せって言うのか!!!ふざけるな!」
全力キック。
女の右肩から腹部にかけ、俺の足の形に体が綺麗にえぐり取られる。
どしゃっと女は倒れ絶命する。
「なんでお前たちはこんなことをした!!!」
右腕に串刺しになっていた2人を遠くにいた男に全力で投げつける。
衝突した男は不快な音と共に吹き飛ばされ二度と動かなくなる。
「お、おれたちは……」
「黙れ!!!!」
何かしゃべろうとした男に岩魔法で巨大な岩石を上から落とす。
ぐしゃっという音と共に男がつぶれ、さらに岩石は建物を崩壊させた。
崩壊に巻き込まれた4人のうち1人は瓦礫に押しつぶされて死んだ。
残りの3人も瓦礫に挟まれたり、体中ボロボロですすり泣いたり、恐怖で失禁している。
「そこのお前、なんでこんなことしたか言え」
「あ……う……ああ」
「しゃべれよ」
失禁してた男の頭を右手でつかんで持ち上げる。
しかし力が入りすぎてたのか男の頭は水風船のように割れた。
「うぁあぁぁぁん!あぁぁぁあん!」
それを見てすすり泣いてた女が大声で泣き始める。
「うるさい」
女を黙らせようと口を鷲掴みにするがまた力が入りすぎてたのか破裂する。
残る一人を俺は瓦礫から引きずりだす。
「目的はなんだ」
「ぐっ、がふぅ……せ、世界を……我らが王の手に……」
「王?どこの誰だ」
「……王様……万歳……」
よく見れば引きずりだした男は下半身がなかった。
瓦礫につぶされたか引きずりだす際にちぎれたのだろう。
どっちでもいい。
喋れなくなった男を適当に投げる。
怒りが収まらない。
この怒りを何にぶつければいい。
「あなた……」
声がしたほうを振り返るとカレンがいた。
そしてカレンはすぐさま神の言葉を発する。
瞬間、俺の怒りはどこかへ消え去った。
「え……カレン……俺」
カレンが抱き着いてくる。
「ごめんなさい……私が才能を別のにしたから……こんな……ごめんなさい」
泣き出すカレン。
今の俺の生誕才能は『感情の才能』。
その熟練度得点にある『★★★★★:感情の力を最大まで発揮できる』の効果が発揮されたのだと俺は気づいた。
まさか肉体まで大きく変えるほどの力だとは思いもよらなかった。
「泣かないで、カレンのせいじゃない……カレンは悪くないから」
ぎゅっと抱き返す。
俺のせいだ。
今でこそ落ち着いた俺だが、幼いころは感情の制御がうまくできていなかった。
小学生の時は喧嘩を売ってきた上級生を、鉄パイプを持って追い回すほど切れやすい子だった。
世間的にも切れる世代なんて呼ばれていた気がする。
父さんからよくカルシウムの錠剤をのまされていたのを思い出す。
「セージ……」
おびえた目のカンライとランが近づいてくる。
「ごめん、二人とも……」
周りを見ればひどいありさまだ。
さっきまでいた建物は完全に崩壊し、炎魔法を使った場所は氷が解けるどころか黒くなるほど焼けている。
俺自身、右腕と右足がさっきのやつらの血でまみれている。
「さ、さっきの敵は?」
ランが恐る恐る聞いてくる。
「……殺した……」
そう、俺が殺した。
ただ怒りに身を任せて、人を殺してしまった。
許しを請う人もいたのに。
「俺……」
涙が出てきた。
人を殺してしまったことが、自分の感情を抑えられなかったことが、街をめちゃくちゃにしてしまったことが、すべてに対して申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。
「あなたは悪くない!悪くないからぁ!」
泣きながら叫ぶカレン。
俺はさらに強く抱きしめ、しばらくの間、泣いた。
「ゴードン、そっちは終わったか?」
「ああ、終わったぜ。そっちこそ終わったのか?」
「当たり前だろ」
「さすが、で、こいつらどうするんだ?」
「情報を聞き出すためにもやっぱ拷問じゃないか?」
「拷問はだめだと思いますよ。セージさんが嫌がります」
「ふむ。じゃあどうする?このまま帰るってわけにもいかねぇだろ」
「まあ縛り上げてはいるもののこの街の兵士までいるからな。街に任せるにしても荷が重いだろう」
「じゃあ殺しちまうか?」
「だめ。操られてただけかも」
「確かにそうです。彼らはランさんたちみたいに操られていただけの可能性もあります」
「どうやって確かめる?」
「私の才能を使ってみますか」
「レベッカのか?」
「ええ、私の才能なら組織の規模や目的を知れます。彼らが組織だったらの話ですが」
「任せるぜ」
「そこのあなた。あなたたちはどういった集団、団体もしくは組織ですか?しゃべらないと命はありませんよ」
「ひぃ!お、俺たちはヴェスペルムって呼んでます」
「ヴェスペルム……なるほど……これは、結構問題ですね」
「何が分かったんですか?」
「規模は1000人を超えます。目的は世界を征服することのようです」
「まじかよ」
「おい、お前らなんでそのヴェスなんちゃらに入ったんだ?」
「……き、飢饉で苦しんでいる今が反乱のチャンスだと」
「わ、我々は……領土拡大をし、新しく豊かな土地を作るのだ!」
「そうだ!我々の目的は民を幸せにする崇高な目的だ!」
「何が崇高だ!てめぇらがやってるのは単なる殺戮だ!」
「領土を拡大したところで豊かな大地などあるはずないでしょう。魔領も飢饉だと知らないのですか?」
「し、知ってるさ!だからわれらが総帥様が魔領、霊領を滅ぼし、広大な大地の人の手にすると約束なされたのだ!」
「その総帥様ってのはさっき捕まったみたいだが?」
「ふ、馬鹿め!総帥様はおひとりではない!10人の総帥様が大総帥様の指揮のもと動いている!今に残りの総帥様がわれらを助けに来てくれよう!」
「あと9人もいるんですね」
「そいつら全員召喚者なんじゃねぇか?」
「だとしたら私たちのように結束した召喚者ということですね。厄介です」
「何か対策を練らないと」
「なんにしてもこのままじゃ動けんな。セージたちはどこ行ったんだ?」
「おそらくクリスティーナを連れて一度家に戻ったのでは?才能を封じるためにカレンさんのもとに行ったのでしょう」
「うーん。そうなるとこいつらを見張るためにもここにいるしか……」
「半分残ってもう半分は一度家のほうに戻っては?」
「そうだな。じゃあ誰が戻る?」
「では私、それからゴードンとハクサンは残りましょう」
「おいおい、レベッカ。なんで俺らが残るんだ?」
「あなたたちの才能はどう考えても戦闘向きでしょう。万が一ほかの総帥が来た時に戦ってください。私はこいつから組織の才能でほかに何かしれないか聞き出します。」
「しゃあねぇな」
「クスリさん。行きましょう」
「うん。リュシカが時空魔法使う?」
「はい、私がやります」
「じゃあお願い」
「行ったか。さて、じゃあこいつらを見張りながら情報収集するか」
俺とカレンが泣き止むと、再び街の氷を解かす作業を再開した。
数分後、完全に街の氷は解けたが生存者は確認できなかった。
「私が……」
「いや、だめだ。確かに生き返らせることはできるが、それでどんな影響があるかわからない」
「でも……」
「カレン。菌領のこともある。できるからと言って気軽に普通はできないことをするのはやめよう」
「……」
生き返らせれば悲しみも晴れる。
殺してしまった事実も消せる。
でもそれはやってはいけないことだと今ならわかる。
菌領で学んだことだ。
「とりあえず家に戻ろう」
俺たちは一度家に時空魔法で戻った。
遅くなりすぎた…




