第5話 思い人の再来
現れた男性は服の上からわかるくらい見事な筋肉をつけていた。
ぱっと見の印象は拳法の達人という感じだ。
「ここは?」
「カンライ!」
ランがカンライと呼んだ相手に抱き着く。
ということは無事に成功したわけだ。
「ラン?どうしてここに。おれはさっきまでアレクにユウジと一緒だったはずだが」
うん?
どういうことだ。
「初めましてカンライさん。私はセージといいます。突然ですがあなたがさっきまでどういう状況だったか教えてもらえませんか?」
その問いかけにカンライは何の疑問も持たずに答えてくれた。
アレクとユウジに誘われ人領の村で待ち合わせをし、不死の才能をもらう前に自身の才能を複製させたこと。
そしてその才能の使いかたを説明し終え感謝の言葉を述べられた瞬間、ここにいた、というと。
「あいつら……」
ランが両のこぶしを握り締める。
「アレクたちは才能だけ奪って異世界送りにしたんだな。そしてその送ったタイミングでカレンが呼び出したことになってるわけか」
アレクたち本当にひどいやつらだったんだな。
異世界送りになってよかったのかも。
理不尽に飛ばされてたのを見て多少の罪悪感があったけどこれはもう自業自得でいいな。
「カンライさん。ないとは思いますけどこの世界に害をなしたり、世界統一なんてことしたりしないですよね?」
「世界統一は俺の夢だ」
あ、それは本当だったのか。
「でもこの世界では遠慮してもらえないです?」
「なぜだ?世界が統一されれば平和が来るのだぞ?秦国も統一を経て平和を獲得した」
あーはいはい。
発想が信長か。
「この世界に統一は必要ありません。すでにみんな平和ですから」
「統一がないのに平和なのか?あり得ぬ」
「あり得るんです。実際戦争はここ3500年起きてませんから」
「どういうことだ?俺が来たときは戦争をやっていると聞いたぞ!?」
「カンライさんがいたときは戦争をやっていたかもしれませんが今はリョウトという勇者が世界に平和をもたらしたんです」
嘘は言ってない。
飛び立とうとしてたオルフェたちが一瞬こっちを向くが気にしない。
「仮にそうだとしても統一がない以上真の平和とは言えぬ」
「そういうと思ってました。じゃああなたの国がその後どうなったかは知ってますか?」
「どういうことだ」
「私はあなたやランさんがいた遠い未来の世界からきてます。あなたたちの秦国がその後どうなったかを知っています」
「……どうなった」
「わずか15年で滅びました」
「なんだと!?」
このあたり俺が元の世界で読んでいた漫画の知識だ。
まあ漫画はまだ途中で先が気になり、秦が中華統一を果たした後どうなるのか調べるというネタバレをしたのだ。
もしその漫画を読んでいる人が俺の話を聞いたら発狂するかもしれんな。
ほんとごめん。
「なぜだ!なぜ滅びた!」
「詳しくは覚えてませんが確か2代目の皇帝が降伏して滅んでます。つまり統一しても平和ではなかったということです」
「そんな……馬鹿な……」
がくりと膝をつくカンライ。
まあ自分の信じてきたものが崩されるとそうなるよね。
「落ち込まないでくださいカンライさん。その後中華は紆余曲折ありましたが最終的に私の時代では中華人民共和国という形で立派な大国になっています。そして統一されることなく近隣諸国と平和に暮らしていましたよ」
まあ実際は割と小さな争いは起きてたりするんだけどね。
朝鮮戦争とか俺の時代まで続いてたしね、停戦状態だったけど。
そういえばちょうど最近、停戦ではなく終戦に向けて動き出したところだったな。
うん、平和に向かうのはいいことだ。
ってそんな話は今はどうでもいいか。
「セージといったな」
「はい」
「統一はもういい。だが最後に一つ教えてほしい。秦は。政様は後世にどのように伝わっている」
「初めて中華を統一した立派な方だったと。また万里の長城という世界に誇る遺産を建てたので世界中で知らない人はいません」
「そうか。ありがとう」
カンライはすっと立ち上がりランを見る。
「俺は決めた。この世界に名を残す。それも後世に紡がれ続けるような。そのために何をすればいいかはまだわからないが、俺と一緒に来てくれ。ラン」
わーお。
プロポーズじゃないのかこれ?
「でも、私……」
ちらちらとこっちを見てくるラン。
いや気にする要素ないから。
俺、今朝カレンに好きって言ったばっかだから。
振られたとか捨てられた的な感情一切ないから。
余計な気遣いするとカレンに異世界飛ばされるぞってカレンどこに行く!
「ランさん」
「は、はい」
「カンライさんについていくならランさんの不死の才能を取りますね。それでもいいですか?」
「え?あ……」
そうだった。
すっかり忘れてたけどランは不死の才能で死なないんだった。
普通にカンライとくっついてもカンライが先に死ぬな。
その不死の才能をとってでもついていくかどうか。
それが決意の表れってことか。
いやまて、別にカンライに不死の才能をつけるでもいいのでは?
なんで取る限定なんだろう……。
「……はい。取ってください」
ランがきりっとした顔で答える。
カレンはすぐに神の言葉を発し、それからカンライさんを見る。
「絶対泣かせないでくださいね」
「っ!約束する」
カレンがランに向き直りぎゅっと抱きしめる。
「幸せになってください!」
「カレンさん、あなたも」
うん、ハッピーエンドでいいのかな?
ランから離れて俺のところに来たカレン。
そっと先ほど思ったことを聞いてみる。
「……カンライさんに不死の才能つければよかったんじゃ?」
「乙女の決意を示すにはあれくらいしないとダメです。男のほうもその責任をしっかり自覚してもらわないと」
「そ、そうなんだ」
気のせいかな。
俺には決意を示してもらう前に責任だけ追及された気がするんだけど。
いや、気にしたら負けだろう。
よそはよそ、うちはうちだ。
「二人はこの後どうする予定で?あと、ランさんが行くならティテナさんたちもついていくのかい?」
「俺はまず名を残すために何をすればいいのか学びたいと思ってる。そのためには世界を知らないといけない。だから旅に出ようと思う。ランもそれでいいか?」
「私はそれで構いません」
男らしいなカンライ。
びしっとすぐ次の目標を決めてくる。
「私たちはここに残ってもいいかな?ランちゃんの邪魔したくないし」
「そうですわね。若い二人のお邪魔はいけませんわね。そうでしょうハクサン?」
「ふ。俺もそこまで無粋じゃない。忠義は尽くした。これからは俺も自身の幸せでも探すか」
「わたしも幸せ探します」
「お、おれも!」
「ゴードンさんはさっき振られたでしょう。諦めてください」
「くぅ……」
ゴードン振られてたのか。
どんまい。
「それでは俺たちはこれで失礼する」
「え?失礼するって旅の荷物もなんもないのに大丈夫なの?」
「ああ、食べれるものは山とかで探す」
「いやいや、魔物とか……あ」
カレンがカンライの腹にパンチを決めた。
あとを追うようにティテナたちがぼこぼこにする。
「約束するって言ったそばからなに貧しい生活させようとしてるのよこの馬鹿」
「その頭の中には筋肉しか詰まってないんですの?」
「ランちゃん!ついてくのやめよう!こいつといると筋肉がうつるよ!」
筋肉がうつるって。
まあ可哀そうだけど自業自得か。
多分、自覚ないんだろうけど。
カレンがランに何が必要か聞きながら神の言葉でいろいろ出している。
こういうのを先が思いやられるって言うんだろうな。
何はともあれカレンの出したものをまとめてカンライとランは人領へ旅立っていった。




