第10話 基礎魔法を学んだ
朝食を終えた俺はほかの面々と共にオルフェ王の前に集まる。
「おはようございます。オルフェ様」
「おはようセージ。様も敬語もいらぬと昨日申したろうに。おぬしはもうわしの友なのじゃからな」
一晩じゃ好感の才能の効果は解けないか。
これでマニャ王やマンス王も解けなかったらきっと永続効果かもしれない。
諦めて受け入れるしかないな。
扱いが過保護すぎるけど別に悪いことされてるわけじゃないし。
ただいきなり、こんなバカでかい龍のしかも王様というお偉いさんにタメ口聞くのに抵抗があるだけ。
「ありがとう。正直ちょっと慣れないけど敬語で話さないようにしていくよ。オルフェ」
こんな感じでいいかな。
嬉しそうに咆哮してるから大丈夫か。
てか声でかい!
鼓膜がやられる!
「すまんすまん。つい嬉しくてのう。おおっとそうじゃ。食べ物を持ってきてやったぞ」
オルフェ王が片翼を広げると後にいた龍たちが口にくわえていたものを俺の目の前に降ろしていく。
「食べろ」
見たこともない氷漬けの生き物たちがこれでもかと山積みになっている。
え?なにこれ。
牛とか羊じゃないな。
どう見ても狂暴そうな面してるから魔物だろう。
「ほれ、こっちにいる奴はあの男がうまいとよく食っておったやつじゃ。わしが捕ってきたんじゃぞ」
オルフェ王が頭を向けている先には馬のような体系だが頭に二本の大きな角、口元に髭、体が鱗に覆われた生き物が凍ってる。
麒麟にそっくりだけど違うよね?ははは。
「これはなんていう生き物?」
「知らんがきっとうまいぞ」
知らないのか。
「恐れながらセージ様。そちらはおそらく霊領に住まう精霊馬でございます」
なるほどってあれ?霊領ってこの大大陸の最南端に位置する地域じゃなかったっけ?
「これはいつ捕ってきたの?」
「昨日の晩じゃ」
「え?霊領ってそんなすぐ行けるの?」
「わしはな。時空魔法を使えるからすぐに行ける」
さすが龍王。
神位魔法使えるとかそこに痺れる憧れる。
教わりたいけど秘魔法だからきっと教えてれないだろうな。
いや、好感の才能があるから教えてくれるかもしれない。
でもなんか才能を悪用してるみたいだからやめておこう。
「とりあえずご飯ありがとう。オルフェ」
「気にするな。セージはもう友だからな。それにあの男との約束でもある」
オルフェ王がずっと言ってるあの男ってリョウトのことだよな。
「その、リョウトってどんな人だったんですか?」
「リョウトか。久しく名を口にしていなかったな。あいつはわしの夫だった」
……はい?
え、ちょっと何言ってるかわからないよ。
オルフェって女だったの?
「わしが1200歳くらいの頃だろうかの。まだ幼かったわしを戦争中の人族の王が利用しようとしてな。それをあの男は救ってくれたのじゃ。それからともに神領へ行き神の力を得て戦争を治め、それからはともに龍領の山で暮らした。あやつはただの人間じゃったからな。わしが成龍となり夫となるころにはすでに寿命が迫っておった。婚姻してから1年もたたずに死におって……あの男め」
重い。
なんていえばいいのかわからん程度に重いわ。
とりあえず謝ろう。
「ごめん。余計なこと聞いた」
「気にするな。あれからもう3500年は過ぎたからな。500年くらいは落ち込んでたが、まあ今はもう気にしておらん。むしろ先に逝きおったあの男を軽く恨んでおる。あやつめ、生魔法で若返ることを拒んでおったからな。500年も悲しい思いをするなら無理やり生かせておけばよかったわ」
リョウトは普通に人間として生きたかったんだろうな。
しかし生魔法で若返るとかできるのか。
こりゃ見た目と年齢は一致しない可能性を考慮する必要も出てきたな。
というかそんなの使えたら種族の数は増えていくんじゃないのか?
「生魔法で若返ると寿命も延びるの?」
「もちろんじゃ。ただし術者の命を削るからな。わしら龍族のように長寿でもなければ使うだけすぐ死ぬだろう。つかっても霊族の一部や魔族の一部だけじゃ」
あ、自分の命を他者にあげるということか。
そうなるとその魔法は覚えても普通に使う人は少ないだろうな。
では反対の死魔法はどうなんだ?
「生魔法は自身の命を削るのであれば、死魔法は相手の命をうばうとか?」
「そうじゃな。相手の命を奪うことができる。しかし奪ったとしても寿命が延びることはないぞ。命は所有者の意思に守られておる。奪われた側が相手にその命を与えることを望まねば奪った命を吸収することはできないのじゃ」
ふむふむ。
それなら他人の命を奪いながら生き続けるみたいな恐ろしい存在はいなさそうだな。
「セージは魔法に興味があるのか?」
「ああ、うん。元の世界じゃ魔法がなかったから使えたら便利だなーって」
「そうか。ではわしが教えよう。今日は何かやらねばならぬことはあるか?ないのであれば今から教えてやろう」
イシリアたちやマリアスたち両方に教わる気だったけど、オルフェが教えてくれることになった。
すまんな。
「まずは基礎魔法からじゃな。魔法の種類は知っておるか?」
「うん。イシリアさんに聞いた。基礎は火、水、風、土、光、闇、命の7つだよね?」
「そうじゃ。そしてそれらを使うにはそれを理解する必要がある。なぜ火が燃えるのか、なぜ水は流れるのか、なぜ風は吹くのか、なぜ土は硬いのか、光と影はなぜ生まれるのか、そして命とは何か。それらを理解しておれば後は簡単じゃ。現象をイメージすることで魔法は発現する」
「うん?魔力とかは必要ないの?」
「魔力?魔素のことかの。そのあとの話になるんじゃがまあいいじゃろう。魔素とはそれら現象とは隔絶された要素じゃ。魔石などの結晶体になっているものもあるが基本空気に含まれておる。空気には息をするための要素と魔素が入り乱れておると考えればよい。ここまでは理解できたか?」
「何となく」
「それでよい。では先ほど言った現象のイメージだが、火であれば空気を使う。空気があれば息をできるだろう?しかし空気がなければ息ができないように火も空気がなければできぬ。しかし魔法を発して火をつければすぐに空気はなくなってしまう。見せてやろう」
目の前でいきなり大きな火が燃え、すぐに消えた。
「このように火のまほうを使っても一瞬で消えてしまう。そこにある空気がなくなってしまうからじゃ。そこで次に覚えるのが魔素操作じゃ。先ほども言ったように魔素は空気中にある。それをイメージで集め、火をつけたのちその火に少しずつ魔素を与えるのじゃ。魔素はすべての物質に代わる存在ですぐになくなることもない。少しずつ少しずつ入れればほれ、このように」
今度は目の前に小さな火の玉が出て少しずつ燃えている。
大体理解できて来た。
魔素は簡単に言えばガソリンだな。
ただし何にでもなるガソリン。
「イメージで現象を発し、魔素で現象を維持する。これが基礎魔法の原理じゃ。しかし命魔法だけは違う。使うのは魔素ではなく自身の命じゃ。命ある肉体だけは魔素で作ることはできない。魔素の代わりに聖素というのを使う。聖素には所有権があり所有権を自身から相手に委ねることで命を与えることができる。こちらは現象のイメージと違い自身の聖素の所有権を相手に与えることを願えばだれでもできる」
なるほどなるほど。
聖素は願えば使えるのか。
こっちは現象のイメージとか難しいことはいらないんだな。
「ということは生魔法と死魔法も願うだけで使えちゃうの?危険じゃない?」
「生魔法と死魔法も同じように聖素の扱いだがその範囲や大きさが違う。自身の聖素だけでなく未来に作られるであろう聖素を操る術だ。これは時空魔法の一部である時を操る力が必要になるから願うだけでは使えん」
ああ、なるほど。
確かに寿命をあげるとなると今体に満ちてる聖素だけじゃ足りなさそうだ。
それを時を超えて持ってくるというわけか。
聖素だけ未来の自分からタイムスリップさせてるような感じか。
魔法やべぇな。
「高位魔法は基礎とどう違うの?」
「うぬ。基礎と違うのは扱う現象の多さじゃ。炎であればより多くの魔素が必要になるうえより多くの管理がいる。小さな火なら魔素をそのまま与えれば問題ない。しかし大きな火になれば魔素が中心に届かず周りで燃え上がり中心は火を失ってしまう。そのため燃えてる現象のところどころに隙間を開けつつ魔素を流し込むということが必要になる。それらを同時に行う難しさから高等魔法と呼ばれるのじゃ」
なんだか科学的になってきた気がしないでもない。
氷ができる原理や雷ができる原理、それらを考えれば火や水よりも複雑なのは理解できる。
それを魔法中は常時イメージする必要があるのか。
結構難しそうだな。
「とりえずは基礎魔法の好きなものを試してみると言い。それぞれの現象を理解し、イメージして発現させれればまず一歩。魔素を操り維持できるようになれば一人前じゃ。さらにその現象を様々な形に変えれればもはや立派な魔法使いじゃな。現象はそれぞれをしっかり観察しどういうものかを知ることが大事じゃ」
知ること……か。
まあ科学的に考えるなら火は空気ではなく酸素が燃えてるんだよな。
種火になるのは何だろう?
普通にどの物質にでもなるなら魔素が種火になるってことだよな。
結局それって魔素で魔法を作ってることになるんじゃ?
まあでも現象のイメージができないと魔素を操ることもできないのかな。
イメージしてみる。
目の前の何もない空気中に透明な魔素が満ちていると考え、その一部が発火し、周囲の魔素がそこに少しずつ集まるイメージ。
「おお、あの男もそうだったが召喚者は魔法のイメージ力が桁違いじゃな」
俺とオルフェの目の前に30センチくらいの真球状の火の球が発現した。
後ろでイシリアたちも騒めいている。
次はこの火の球を動かすイメージだけどこのまま移動させようとしても消えてしまうだろうな。
移動させようと思う軌道場所に魔素を集中させるイメージをする。
イメージした軌道上が全部燃えた。
移動じゃなくて燃え移ってしまった。
「さすがじゃなセージ。火の形をよもや変えれるとはのう」
いや、移動させたかったんだけどね。
恥ずかしいから言わないでおこう。
軌道上に常に魔素を集めるからダメなんだな。
移動に合わせて軌道上に魔素を集めていかないときれいに移動しないか。
イメージだ。
「な、なんと……」
横長だった火を再び球状にし俺の目の前で何度も直線往復させる。
オルフェが口を開けて驚いてるけどイメージに集中。
往復する火の球を増やし、さらに直線往復だけでなく波状往復も混ぜる。
「現象の理解力が違いすぎる……あの男なんかよりも凄まじいではないか」
「フェミ。あれはできますか?」
「無理ですお姉さま。高位魔法を使える私でもあんなことはできません。よほど魔法の原理に詳しくないと……」
俺が火の玉を消すと後ろから歓声が上がった。




