第9話 新しい朝が来た
異世界に来て最初の朝が来た。
隣ではカレンが毛皮にくるまって寝ている。
それにしても昨日はいろいろありすぎた。
腹痛でトイレ中の異世界召喚。
マニャ王、魔王マンス、龍王オルフェとご対面。
生命の書と才能の発現と過去に異世界に来ていた日本人の手記を入手。
元の世界に戻れないことを理解した悲しみ。
火事になったりトイレ付き添ったり、添い寝したり……。
いくら何でも一日に詰め込みすぎだろう。
しかしどう考えても今日もいろいろ起きるだろう。
オルフェ王が今日来ると言っていたしね。
カレンを起こさないように家をでる。
空気がおいしい。
都会では味わえない酸素の濃い空気に満ちてる。
「おはようございますセージ様。まもなく朝食のご用意が終わりますのでしばしお待ちください」
すでに起きていたイシリアが丁寧にお辞儀をする。
ラナナとフェミが焚火で朝食を作っており、そばには傷だらけのゴルガとラオファがいる。
傷だらけの理由は聞かないでおこう。
二人の後ろから笑顔でマリアスがすっとやってくる。
「おはようございますセージ様。毛皮だけで寒くはございませんでしたか?昨日はカレン様とお眠りになられたようですが必要であれば私も温めに参りますので遠慮なさらず仰ってください」
朝からぶっこんできた。
いや遠慮するわ、なんか怖い。
「とても暖かい毛皮だったので全然寒くなかったですよ。お気遣いありがとうございます」
「そうですか……しかし寒かったらいつでもお呼びください」
そんな残念そうな顔しても呼ばないから。
姿の見えないスカルファスとレイシェンは明け方まで見張りをしていたので寝ているそうだ。
龍族たちは朝食を食べに何処かへ飛んで行ったらしい。
とりあえずやることもないのでリョウトの手記を見ることにした。
当面の食料を龍族が賄ってくれるとはいえ、何かあったときのために自分の飯くらい自分で用意できるようにしたい。
食べれる植物でこのあたりにありそうなものを調べる。
手軽に見つかりそうだったのが厚みのある葉肉が特徴のヘキサ草、香りがよくゼンマイに似たナルペル草、小さなキャベツのような見た目のロルット草が人領と魔領に多く自生しているようだ。
森や山に生えているらしい。
元の世界では東京で働いていたが地元は北海道で、小さいころからじいちゃんに連れられてよく山菜取りに行ってた。
見つけた時のよろこびや取る楽しさ、自分で取った山菜のうまさはよく知ってる。
だからぜひ行きたいところだ。
「お食事の用意ができました」
イシリアがスープの入った器を持ってきた。
昨日の晩御飯と同じくスープに何かしらの野菜と肉が入ったものに塩で味付けされたものがでてきた。
調理方法は焼くと煮るしかないと見るのが普通か。
異世界ものストーリーあるあるだな。
まあ考えれば油で揚げたり、蒸したり燻したりなどという発想を普通はしない。
油は火をつけて使うだろうし、蒸気や煙を使って料理をしようなんていきなり考えないよね。
納豆みたいな発酵食品は誤って腐らしたものを食べたらうまかった的な流れで見つかってもおかしくはないが、食料飢饉が起きるような世界じゃ間違っても腐らせて無駄にするようなこともそうそうしないだろう。
いやでも酒があるんだよな。
あれも発酵だからそのての食べ物はありそうだ。
おそらく乳飲料からチーズくらいは作っているかもしれない。
保存食を作る方法としては干すが一般的だと思うがそういうのはあるのかな?
リョウトの手記には食べれるものの種類は書いてたが食べ方などは書いてない。
この世界の食文化なんかも知っていく必要がありそうだ。
「イシリアさん。調理方法に焼いたり煮たりする以外にどんなものがありますか?」
「焼くと煮る意外ですか?…………それ以外は特に思いつきませんね」
やっぱりか。
老年のイシリアがいうなら間違いないだろう。
「そういえばパンはないんですか?」
「パン?それは何でございますか?」
まさかパンもないとは。
まあ小麦がそもそもこの世界に無いと作れないし、あったとしても小麦を粉にして水と混ぜて捏ねたのち焼くという発想は通常出てこないよな。
粉末にする、水と混ぜる、捏ねるという3つの発見をしないとできない。
さらにふっくら焼き上げるのにイースト菌が必要だったりとパンは十分偉大な発明だ。
元の世界で最初に発見した人はたたえられるべきだと思う。
この調子じゃ米もないだろう。
「食べ物の保存はどうやっていますか?」
「食べ物は基本魔法で氷らせて樽に詰め保存をしております」
なるほど、魔法か。
魔法が使えるならわざわざ干すとか塩漬けなんていう発想もしなさそうだ。
魔法が前提にあるいじょうそれを利用した生活が形成されているのが普通か。
とすればこの世界の常識を知る上でもどんな魔法があるのかを知らないといけないな。
「氷魔法はイシリアさんが?」
「いいえ。フェミが扱います。氷魔法は高位魔法のため限られたものしか使えませんので」
「高位魔法っていうことは食料を凍らせられるのは限られた人だけということですか?」
「はい。王宮正統宮女の中ではフェミ以外だとあと二人だけが使うことができます」
「王宮以外の一般の人たちはどうしてるんですか?」
「氷魔法を使えるもののほとんどが商会に所属しております。一般の方は商会にて氷漬けにされた食品を買うか、対価を払って食材を凍らせてもらっています」
なるほど。
氷魔法を使える人は将来を約束されたようなものだな。
気軽にそのほかの保存方法を広めるとこの人たちが仕事を失うことになるな。
オルフェ王がいう通り異世界の知識は世界に混乱を招くこと必至か。
気を付けないとな。
「氷魔法以外にはどんな魔法があるんですか?」
「はい。基礎魔法である火、水、風、土、光、闇、命とあり、高位魔法は火の上で炎、水の上で氷、風の上で雷、土の上で岩、光と闇を合わせてこなす無、命を与える力に特化した生、命を奪う力に特化した死があります。さらに神位魔法として召喚、時空などがありこれらは一部の王族のみが伝える秘魔法となります」
「それらの魔法を覚えるのは誰でもできるんですか?」
「向き不向きはありますが基本的に誰でも覚えられます。セージ様は魔法を使ったことがないのでしょうか?」
「私のいた世界には魔法を使えるものはおらず、物語の中の話として存在しているだけでしたので」
「それは……驚きでございます。ではセージ様世界ではどのように食料保存を?いえ、それは異世界の知識にございますね。お答えいただかずとも大丈夫です」
さすが老年のイシリア。
余計なことを聞いたとすぐに察してくれて助かる。
魔法が誰でも使えるなら俺も使えるようになりたいが誰に教わればいいのだろう。
普通にフェミに聞けばいいかもだけどさっきから私にも聞いてと言わんばかりにマリアスがちらちら見てくる。
かといってせっかく教えてくれたイシリアを無下にするのも悪い。
こういう場合どちらからも教わるかどちらからも教わらないか。
どちらからも教わらない場合は龍族にお願いしてみることになるが人とは違うからちゃんと教えてもらえるかが不安。
やっぱりどちらからも教わるのが一番か。
なんにしても先にご飯を食べちゃおう。
「おはようございます」
カレンも起きてきた。
ラナナからスープを受け取って俺の隣に座り食べ始める。
気まずい。
昨日は本当にいろいろありすぎて冷静ではなかった。
それに好感の才能で女性陣挙動おかしいしね。
触らぬ神に祟りなしだな。
余計なことはせず必要なときにだけ話しかけるよう。
「セージさん。昨日は……一緒に寝てくれてありがとうございます」
やめて。
ご飯を静かに食べさせてください。
「気にしないでください。いきなり別世界来たらきっと誰でもそうなりますから」
「はい。あの、今日もお願いしてもいいですか?」
もう、やめて!
俺のライフは0切ってマイナスだよ!
マリアスも期待した目でこっちを見ないで!
「えっと、落ち着くまでなら構いません」
「ありがとう!」
とっても嬉しそうなんだけど正直しんどい。
何かと気を遣うし煩悩とも戦わないといけないからね。
脳内で般若心境をロックするしかない。
山菜とりや魔法の前に好感の才能問題を先に解決する必要がありそうだな。
もう最悪俺同性が好きとか言うしかないかもしれない。
いや、だめだ。
そうなると今度は男性陣が目覚めたりしてうほってなるのも困る。
人間に興味がない……はいろいろあかんな。
もうどうすればいいのやら……。
悶々してたら大きな咆哮が山から鳴り響く。
どうやらオルフェ王が来たようだ。




