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第8話 異世界の酒を飲んだら火事になった

翌日、と言いたいが深夜のこと。


掛け布団とかないから寒さで目が覚めた。


オルフェ王が言っていたのを思い出したがもうすぐスニアの季節。


つまり今はその前の草枯れるフノアの季節だ。


元の世界でいえば秋真っただ中だろう。


カレンも寒かったのか俺の右腕にしがみついてる。


シロクマが目印の柔軟剤もびっくりの柔らかさ……いかんいかん、煩悩よ去れ。


とりあえずカレンを起こさないようそっと腕を引き抜こうとしたが失敗。


「うぅん……寒いです」


「起こしてごめん。俺も寒いから何か上にかける物がないか聞いてくる」


「一緒に行きます」


二人で一緒に家を出ると焚火がまだ燃えており、そばにはゴルガとラオファが座っていた。


その背後には自衛隊の業務用天幕に似た大きなテントが一つと、隣接するように小さめのテントが一つ建っていた。


大きいほうが魔族で小さいほうが人族のテントだろう。


「いかがなされた?」


巨体のゴルガが声をかけてきた。


「寒くて目が覚めまして、なにか羽織るものはありませんか?」


「気が利かなくて申し訳ありません。今一番いい毛皮を持ってきます」


ラオファが慌てて大きなテントに駆けていく。


そしてすぐとても暖かそうな大きな毛皮を二つ持ってきてくれた。


俺は一つをカレンに渡し、自分の分は丸め両手で抱えながら焚火の前に座った。


カレンも同じように隣に座る。


「少し温まってから戻りますね。お二人は寝ないんですか?」


「はい。交代で見張りをしております。防衛壁もないですし、魔物が来たらセージ様たちが危険ですので」


ああ、そりゃそうか。


泣きつかれてすっかり思考が鈍ってたけどこの世界は魔物がいるし扉もない家じゃ危険だよな。


見張りしてもらって本当にありがとうございます。


代わってあげたいけど魔物が来たら俺にはどうすることもできそうにないのでお願いします。


「お水はいかがですか?それともお酒でも?」


ゴルガがそばに置いてあった大きな二つの樽(ゴルガが持つと小さく見えるが)を両手にそれぞれ掴んで聞いてきた。


「ではお水「お酒をください」」


水を頼もうと思ったらカレンが酒を要求してびっくりした。


見ると少し悲しそうな顔をしている。


家族のことを思っているのかもしれない。


「私も酒をお願いします」


やけ酒とはちょっと違うけどカレンに付き合うとしよう。


幸い自衛隊で鍛えられて酒には強い。


問題ないだろう。


……問題しかなかった。


ゴルガが渡した酒はどう考えても50度越えのきつい酒だった。


俺が先に一口飲んでカレンを止めようとしたが遅かった。


カレンは受けった酒を一気に飲もうとしたのか一口目をごくり、二口目を飲み込もうとした瞬間吹き出した。


吹き出した酒は焚火にかかり大きな炎となって俺の持っていた毛皮に引火。


俺は毛皮を慌てて放り投げ、ゴルガが急いでそれに水をかけようとしたがそれは水ではなく酒だった。


火が綺麗に燃え移ってゴルガの持っていた酒樽にまで引火。


さらにゴルガが慌てて樽を投げ捨てた先が草原で炎が燃え広がり始める。


「か、火事だぁぁぁあああああ!」


ラオファが叫ぶとテントからみんなが慌てて出てきた。


近くにいたのか龍たちも飛んできた。


「任せろ」


飛んできたデノラスがそういうと空気中に大きな水球が無数に表れ草原に降り注いだ。


火は一瞬で鎮火した。


「何があったのですか!?敵襲ですか!?」


イシリアが驚きながら聞いてきたので事情を説明する。


その説明を聞いたスカルファスがゴルガの腹に凄まじいワンパンをいれ、俺とカレンに謝罪。


「申し訳ございません。この酒は本来水や果実の汁で薄めて飲むものなのですが、ゴルガのやつはそのままいつも飲むのでそのままお出ししてしまったようです。本当に申し訳ありません。龍領の皆様、そして人領の皆様につきましても夜分遅くにご迷惑をおかけしてすみません」


カレンが申し訳なさそうに頭を地面にこすりつけているスカルファスを起こそうとしていた。


いや本当にごめんなさい。


イシリアたちに俺も頭を下げ戻って寝るよう促した。


「頭をお上げくださいセージ様。お酒は構いませんが火にはお気をつけください。万が一、セージ様に何かあれば私たちは王に合わす顔がありません。どうかお願いいたします」


イシリアが本気で心配そうに懇願してきた。


怒られないのは好感の才能のせいだろうか。


いっそ叱ってくれたほうが気が楽になるんだが……。


イシリアに何度も気を付けます、大丈夫ですと伝えテントに戻ってもらった。


他のみんなもぞろぞろと戻り、龍たちも飛び立っていく。


後に残ったのはカレンといまだ頭を下げ続けるスカルファス、腹を抑えて悶絶しているゴルガにそれを心配そうに見るラオファ、そして毛皮を持ったマリアスと付き従うようにそばに立つレイシェン。


「同族がご迷惑をおかけして申し訳ありません。燃えてしまった毛皮の代わりをお持ちしました」


マリアスが頭を下げながら毛皮を渡してくる。


俺も頭を下げ、謝りながらそれを受け取った。


「ゴルガ、ラオファはスカルファスたちと見張りを交代しなさい。二人には話がありますのでついてきなさい」


マリアスは腹を抑えるゴルガと引きつった顔をするラオファを引き連れテントへ戻っていく。


直後ひぃ!と小さな悲鳴が聞こえた気がしたがたぶん空耳だ。


俺は毛皮を抱えながら、焚火の前に腰を下ろす。


異世界に来てから本当にいろんなことがありすぎて落ち着かない。


はぁとため息をついたら隣に座ってきたカレンが小声でごめんなさいと謝ってきた。


下手に何か言って落ち込ませたくないから、とりあえず微笑みかけておく。


「どうぞ。お酒は燃えてしまいましたのでお水で申し訳ないのですがお飲みください」


スカルファスが水を持ってきてくれた。


俺とカレンは水を受け取るとスカルファスは笑顔で近くに腰を下ろした。


水を飲んでひと段落。


しかし災難は続く。


レイシェンが周りをしばらく警戒したのち、なぜか俺のすぐ隣に座って体を寄せてきた。


カレンもそれをみてすぐ俺のほうに体を寄せてくる。


oh...。


好感の才能の効果だと分かってる、が嬉しい。


いや、嬉しいけど困るから誰か助けて。


助けて欲しくてスカルファスを見るがにこにこしてこっちを眺めてる。


ちくしょう!


いや、真面目にどうしようこの状況。


あ、腕組まないで。


カレンも対抗しないで。


ちょ、柔軟剤……動けないです。


こんな時に便利な言葉がある。


「トイレいってきます」


そう言って俺はその場に立ち上がり、毛皮を置いて家へ向かおうとした。


「「お供します」」


うん、って来ちゃダメー!


トイレを知らないスカルファスとレイシェンがついて来ようとしたのでマンス王と話したように便所であると説明した。


二人は恥ずかしそうに失礼しましたと言ってその場に座る。


今後は便所と言わないとだめだな。


家に入り、薄暗い中小さいほうをすませレバーを引く。


そういえば一回水を流してタンクは空なんじゃと思ったが水はちゃんと流れた。


流れたのち給水されている音がする。


この水は何処から来てるんだろう……。


不思議だがきっと気にしたら負けなんだろうなとトイレを後にする。


入口に向かうと、カレンが入口に立っていた。


「あの、ティッシュ持ってませんか?」


ああ、紙がないのか。


俺は余っていたポケットティッシュをカレンに渡す。


「ありがとうございます!」


カレンはすぐさまトイレに駆け込んでいった。


が、すぐ戻ってきた。


「あの、暗くて怖いので、そばに居てもらえませんか」


ああ、うん。


女の子だもんね、怖いよね。


俺は地元のテレビ番組で、ジャングルに行ったタレントが番組ディレクターとカメラマンに見守られながら真っ暗なトイレでいろいろだしてるのを思い出した。


暗いの苦手な人って本当にダメらしいから仕方ないよね。


「それじゃあ耳ふさいでるので終わったら肩叩いてください」


俺はそう言ってトイレのそばで全力で耳をふさいだ。


こうすれば恥ずかしくないだろう。


1分ほどで俺の肩が叩かれカレンはすみませんと恥ずかしそうに言った。


いや、気にしないで。


むしろ恥ずかしくないよ。


俺なんて君が来る前、大衆に見守られながらトイレしてるから、ははっ!


恥ずかしすぎて絶対に言えねぇけどな。


焚火まで戻った俺は毛皮をとり今日はもう寝ると伝える。


レイシェンが一緒に行きたそうにこちらを見ているが、答えは『いいえ』だ。


カレン……も毛皮をもってこちらを見ている。


まあ寂しいなら仕方ないよね。


暗いのも怖いって言ってたしね。


言い訳じゃないよ、ほんと。


こっちは『はい』を選択した。


俺はカレンと家に戻り横になるとすぐ眠りについた。


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