3.招待状
不穏な雲行きを察知し、間に入った。
大切に育ててきた妹を、
友人だろうと王族だろうと、軽々しく合わせるのは不本意だ。
「さぁ薔薇姫。
私は殿下とお話があるので。先にお部屋に戻っておいで。」
抱きしめて耳元に囁くと心配そうな眼に見上げる瞳が、
ちらりと王子をうかがい、小さな溜息をついた。
視線を合わすために屈んだルーの頬にそっと唇を押し当て。
わずかに逡巡した後、瞳を伏せて内緒話をするように、兄の耳元に再び唇を寄せる
「お兄様、人にも好き嫌いってあるのかしら」
小さくつぶやくのを耳に入れ。思わず笑みをこぼした。
会話の内容も聞こえてないディーは興味深げに二人を眺めている。
妹のブランカも美姫として自慢できるが、前にいる二人は別格だろう。
ルーの顔も普段見慣れていなければ、呆けること間違いない。
花苑にあって、いっそう華やぐ美貌。
二人して天女のようだと言ったらルーは間違いなく、
顔に似合わない悪態とともに剣をまっすぐこちらに向けるだろうが。
薔薇姫は優美に一礼をして去っていった。
金色の瞳が去り際にこちらを一瞥し、侍女に傅かれ屋敷の方へ戻っていくのを
見送ると花の中に舞い戻る妖精かのような錯覚を覚えた。
「…人か?」
子供の足取りを心配するかのように、いつまでも見送るルーを
振り返ると。優しい表情を珍しく無防備にさらけ出していた。
あまり見ることのないその表情にディーは目を見張る。
そういえば、いつ間にか作り物の表情しか目にしなくなっていた。
そして、そういうものだと自分も勘違いをしていた。
妹にに向ける顔が、今や外では一切見られることのない
笑顔だと知らないのは、甘やかされている本人ばかりだろうな。苦笑した
3.招待状
「あなた」
妻のたしなめる声音をに耳を貸さず、
一通の招待状を薔薇姫に渡すよう執事に指示する。
「お父様、これは?」
見上げる金色の瞳に、小さく頷く。
愛してやまない娘を夜会に出さなければならない苦しみも、
茶会に出さなければならない悲しみも、
…………嫁に出すよりかはどれだけましか。
他所へ嫁にやるなどもってのほか、
その点は後継者指名したルーと数少ない一致した意見だったりする。
「王女殿下の茶会だ。失礼のないように」
夜会にだすべきではなかったと、この招待状を見たときに正直溜息をついたものだった。
たいていのものは威丈高く断っていたが、王家直々の招待状にはだいぶ頭を悩ませた。
最後まで反対していた侯爵夫人も、夫の決断に諦めたように
「ブランカ王女殿下の茶会でしたら、あの子が控えているから心配ないかしら」
と、おっとりと呟いた。
ただ、宮廷のようや駆け引きの多い所に出すつもりもなく、外の世界を教えていないことが悔やまれる。
「まぁ、王女殿下の茶会。お兄様もいらっしゃいますのね」
無邪気に微笑む娘に、夫妻も僅かに顔を緩ませた。
話、あまり進んでいません