外伝1 エルライン殿
一つ思いついたので……本編ではきゃっきゃが無かったのでここで!
「……君たちは一体何しに来たんだい?」
エステル殿とついつい盛り上がってしまいました。エルライン殿のところへ来ているというのに……。
彼は少女のような愛らしい顔をしておりますが、紛れもなく少年……の見た目をしております。
呆れたようにため息をする姿でさえ愛らしく。いえ、そんなことを考えている場合ではありませぬ。
そうなのです。
拙者はエステル殿とエルライン殿へ相談するために彼の住む塔まで来ていたのでした。
「す、すいません。エルさん。つい、盛り上がってしまいまして」
「すいませんです」
エステル殿へ続き拙者も謝罪の言葉を続ける。
「僕のことは、エルラインと呼んでくれると嬉しい」
「はい。エルラインさん。いろいろとすいません」
そういえば、エルライン殿はストーム殿が彼の名を「エル」と呼んだ時、訂正しておりました。
確か……その名で呼ぶのは一人だけ? とかなんとか。かなり記憶があいまいで間違っているかもしれませぬ。
「エルライン殿、『エル』とお呼びするのは親しげ過ぎましたでしょうか?」
しまったと気が付いた時にはもう遅かったです。
誰に対しても一歩引いた態度を取るエルライン殿は、呼び名からも人を遠ざけようとしているのかと疑問に思いまして……。
拙者の失礼な質問へ対し、エルライン殿は盛大なため息でもつくかと思いきや、意外にも何か酷く懐かしいものを見るような目で虚空を見つめました。
「僕をその名で呼ぶのを『彼』で最後にしておきたいと思ってるだけだよ。そこまで深い拘りはない」
それは相当な拘りではないでしょうか……とはさすがに言えず。
「『彼』とは思い人なんでしょうか? エルラインさん?」
ちょ、待つでござる。
エステル殿、相手は曲がりなりにも大賢者その人。いくらなんでも失礼が過ぎます。
慌ててエステル殿の口を塞ぐと、彼女もようやく気が付いたのか焦ってたじろいてしまっていました。
エステル殿が動くものだから、拙者は彼女の脇腹にぶつかってしまい……バランスを崩したエステル殿を支えようとしたら更にバランスが崩れ……。
二人そろってその場に転んでしまいました。
むにゅう。
顔にエステル殿の胸が……な、なんたる羨ましい。
拙者もそのうち……。
「……ふう。恋する乙女たちは恋の話を期待したんだろうけど……そんないい物ではないよ」
エルライン殿はふうと、息を吐き手を振る。
すると、彼の前にテーブルセットが出現しました。
もう一度彼が手を振ると今度は紅茶とお茶菓子が出てきます。
「まあ、せっかく来たんだしお茶にでもしようか」
「はいです」
「ありがとうございます」
エルライン殿と輪になるようにテーブルを囲み、紅茶とお茶菓子を頂くことになりました。
「それで、君たちは僕のことを聞きに来たわけなのかい?」
「いえ、そうではありません。ストームさんのことで……」
「……だいたい想像がつくんだけど、言ってみなよ」
エステル殿と顔を見合わせ、今度は拙者が彼へ問いかけます。
「『鈍感』スキルを無効化、又は突破する方法ってあるのでしょうか?」
「やっぱりそんなことかい。簡単なことだよ」
意外にもエルライン殿は何の事はないと澄ました顔で紅茶を口にします。
彼が飲み終わるのを固唾を飲んで見守る拙者とエステル殿。
……。
…………。
ま、まだですか?
「あ、あの。エルライン殿」
「ん? 意地悪はこの辺にしておくかな。で、鈍感スキルのことだったね」
「はいです」
「簡単なことだよ。彼に直接的な言葉をかければいい。いくら鈍感といえ、疑いのない言葉を投げかければ理解できるさ」
「そ、それって……ストームさんに面と向かって……す……き……って言うってことですよね」
エステル殿は顔を真っ赤にしてエルライン殿へ言葉を返します。
「そうだよ。簡単なことだろう?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいです」
「わ、私も……」
耳まで真っ赤にする拙者とエステル殿へエルライン殿は肩を竦めました。
「何が恥ずかしいんだか……そんなんで彼と仲良くなった後どうするんだい? 彼はデートの誘いも直接的に言わないとデートと認識しないよ?」
「そ、そうでした……」
「ちょ、ちょっとハードルが高すぎますね……」
エステル殿と拙者は机に上に突っ伏したのでした。
そんな拙者たちをよそにエルライン殿は優雅に紅茶を飲み、お茶菓子を口に運んでいます。
「君たちはこれからも僕を楽しませてくれそうだね。クスクス」
子供っぽい笑みを浮かべ邪悪な顔を浮かべるエルライン殿は……とても楽しそうでした。
新作はじめました!
・追放された陰陽師は、西洋ファンタジーの村で最強の魔術師と呼ばれる
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あらすじ
友人のサムライと共に妖魔討伐で名を馳せた陰陽師「榊晴斗」は、禁忌を犯し追放されることとなった。
流刑先は無く大海原へ放り出された晴斗は、漂流の末に村へたどり着く。
しかしそこは見たことのない服、食事、そして魔術がある国だったのだ。
彼は自国との違いに驚きつつも、村の少年リュートを魔物デュラハンの手から救う。
村で紙を作りながらいくつかの魔物討伐を行った彼は、大魔術師ハルトとして有名になっていく。